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25話 懺悔(ざんげ)

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 控室ひかえしつに入ってきた公爵は、リアンナに嫉妬して取り乱すエヴァを見て… ため息をつきながら首を横にふる。
 その姿を見て、リアンナはこれ以上公爵をだまし、ずうずうしくアルベールと結婚はできないとさとった。


「公爵様… お許しください」
 ああ… やっぱり人をだますなんて、いけないことだわ。
 なぜ契約結婚なんて、バカらしい計画が上手くいくと思ったのかしら? 

「リアンナ嬢…?」

「公爵様… 私はたくさん罪を犯し、公爵様をだまそうとしました… 私を嫌うローンヘッド男爵様に嫁ぐのが怖くて、エヴァ様にすがる思いで契約結婚を喜んで受け入れたのです」
 リアンナは一歩進みでて、公爵の前でひざをついて両手を組み合わせた。

「契約結婚…?」

「はい… 私は浅はかで利己的でした… アルはエヴァ様や私の立場を守るために、私たちの計画を受け入れたのでしょう… 私がこの計画に参加しなければ、アルも『契約結婚なんてバカげている』と受け入れなかったはずです」
 エヴァ様とお友だちになれたのが嬉しくて… エヴァ様の提案は『上手くいかない』と思っていたのに、否定しないで受け入れてしまったのがいけないのよ。

「アルベール、リアンナ嬢が言っていることは本当なのか?」
 公爵はなぜかニヤリッ… と笑いながらアルベールにたずねた。

「すべてではありませんが… だいたいリアの言う通りです」
 アルベールは公爵から視線をそらして、ほほをうっすらとそめる。

 腕をつかむアルベールの力が弱まったすきに… エヴァはアルベールの手をふりはらい、かん高い声でリアンナにさけんだ。

「何よ!! アルベールの次は叔父様にまでびを売って… あなたって本当に卑劣ひれつで下品な女ね?!」

 エヴァの言葉がリアンナの胸に突き刺さり… リアンナは感情をかくせなくなった。
 リアンナもエヴァに負けない大声でさけぶ。

「私はもう… ウソにウソを重ねて、生きてゆくのが嫌になりました!! 私が卑劣ひれつで下品なのは、私自身が1番わかっています!」
 婚外子こんがいしから始まって… 契約結婚までしようとするなんて… それも王族の血が流れる公爵家を相手に! 

「こんなことをする私は、立派りっぱ詐欺師さぎしだわ?! もう、できません… 公爵様、アルベール、どうか婚約を破棄して下さい!!」   
 私を婚外子こんがいしだと知っていても、私の努力を高く評価して受け入れて下さった公爵様を、裏切ってアルと離婚するつもりだった。
 公爵様が私とアルの婚約式を、どれだけ幸せそうに見ていたか… 私は今まで卑怯ひきょうにも、公爵様の気持ちを見て見ぬフリをしていた。
 離婚するぐらいなら、ここで婚約破棄になった方が良い!

 感情をかくせなくなったリアンナの瞳から、涙があふれ出す。
 ほほをつたって流れ落ちる涙のしずくが、リアンナが着る空色のドレスにポツッ… ポツッ… と小さなしみを作る。 

「リア…! 少し落ちついて…」
 泣きだしたリアンナにあわててアルベールはかけより、隣にひざまずき視線の高さを合わせた。

「アル… ごめんなさい! エヴァ様との結婚は、別の方法を考えて…… 私はもう… 協力できないわ… 迷惑をかけてごめんなさい」
 本当にごめんなさい! 私が首を突っこまなければ、こんな騒ぎにもならなかったのに。

 隣に来たアルベールの美しい空色の瞳を見るうちに、リアンナの胸にさらなる罪悪感が込みあげてきて、本格的に涙が止まらなくなった。

「そ… そんなことは、どうでも良いから! リア、少し落ちついて!」
 動揺するリアンナに『落ちつけ』となだめるアルベールのほうが、ずっと動揺していた。

 悲し気に泣くリアンナをなだめようと細い背中をなでるアルベールに、エヴァは嫉妬に狂い怒鳴りちらす。

「アルベールったら、そんないやしい女の相手なんてしないで!」
 


 あわてるアルベールと泣きくずれるリアンナ、癇癪かんしゃくをおこして口ぎたなくののしり続けるエヴァ。
 公爵は未熟な若者たちの姿を見て頭をかかえながら、ハァ――ッ… と大きなため息をつく。

「アルベール、使用人をこちらに呼ぶから、リアンナ嬢のれたほほを化粧でかくしてあげなさい… それとお前たちは少し、話し合ったほうが良い…」

「あ… はい、叔父上! そうします!」

 
 公爵はリアンナとアルベールをその場に残し、嫌がるエヴァをひきづるように控室ひかえしつから連れ出した。




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