契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん

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23話 エヴァの怒り

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 突然あらわれたエヴァがリアンナのほほをたたき、大声でののしりはじめた。


「アンタが協力してくれると言ったから、信じてまかせたのに… 私の恋人を奪うなんて、なんて卑劣ひれつなの?! 性悪の尻軽女――!!」
 ふだんの無邪気むじゃきさなど砂つぶほども感じられない、きたない暴言ぼうげんがエヴァの小さなくちびるから飛びだし… 驚いてぼうぜんとするリアンナに、次々とぶつけられる。

「……」 
 驚いた! お義母様にも負けない、口の悪さだわ…?! エヴァ様は何か、かんちがいをしているようね? 私がアルを奪ったですって?! 契約結婚を私たちにさせておいて、自分は責任から逃れたくてアルとの話し合いをけていたから、こんなかんちがいをするのよ。
 困った人ね?

 思わずあきれてリアンナは笑いそうになるが… エヴァの怒りの炎に油をそそいではいけないと、笑うのは我慢した。

「ちょっと! 聞いているの?! 学園で自分が才女だとか言われているからって、私をバカにして… いい気にならないで! アンタなんて、勉強ばかりしてる根暗ねくらのモグラのくせに!」

根暗ねくらのモグラ…?」
 私っ… てエヴァ様にそんな印象を持たれていたの? 言われてみると、ピッタリな表現だわ。

 ふだんから、ペルサル伯爵夫人に怒鳴られなれているリアンナは、エヴァに突然、ほほをたたかれ驚いてはいたが… すぐに衝撃から立ちなおり、冷静にエヴァの観察をはじめた。

「そうよ、アンタなんて図書室のすみにもぐりこんでいる根暗ねくらモグラよ! 私が話しかけてあげなければ、友だちもいないくせに――!」

「ええ… お友だちは、エヴァ様とアルしかいないわ」

「気… 気安く私の恋人を、『アル』なんて呼ばないでぇ――っ! なんてヤラシイ人! 彼はアルベールよ! ただしくアルベールと呼びなさい!」

「…でも、そのアルベール自身が婚約者同士だから、親しくなれるように、お互いを『アル』と『リア』と呼びあおうと提案したのよ?」
 私が勝手に彼の愛称あいしょうを、呼び始めたのではないわ? 彼自身が望んだからそう呼んでいるのに…

 エヴァが公爵を説得したときに…
『アルベールが本当に愛しているのは、ペルサル伯爵令嬢のリアンナ様なのです!』 …と話したため、おもて向きではアルベールがリアンナに一目れして婚約したことになっている。
 そのことでアルベールは好きな相手のことを何も知らないのはおかしいと… もっと親しくなりたいとリアンナに提案したのだ。

「うるさい――っ!! アンタは黙って――!!」
 かん高い声でエヴァがさけんだ。

「エヴァ様… 少し声を落としてください、これでは外まで話が聞こえてしまうわ?」
 ダメだわ…! エヴァ様は完全に癇癪かんしゃくをおこしているわ…
 
 リアンナはいすから腰をあげ、エヴァの肩にふれようとするが、パンッ…! とたたき払われる。

「うるさい! アンタこそ黙れっ! 黙れっ! 黙れぇ――っ!」

「アルと話し合って下さい… そうすれば誤解もとけるはずです」
 ううっ…! こんなに近くで、そんなにかん高い声でさけばれたら… 私のほうがうるさくて、頭が痛くなってきた! 

「私がフラッドリー公爵夫人になるの! アンタは契約結婚の相手だから… アルベールは少しだけアンタにも優しくしているだけよ! かんちがいしないで! 私は3年も一緒に暮らして来たし、本当の恋人なのよ!!」
 こぶしをにぎり、ブンブンとふりまわしながらエヴァは怒鳴りちらす。

 また顔を殴られたら『ほほれて人前に出られなくなる』 …と心配したリアンナは、さけぶエヴァを止めるのはやめて、2,3歩後ろにさがった。

「ええ… そのとおりよ? 私はアルベールの契約結婚の相手で、あなたの代理よ! わかっているわ、エヴァ様…」
 大声でさけぶエヴァの相手をするうちに、リアンナの声も気づかないうちに大きくなる。

「彼を好きになったりしたら、アンタを絶対に許さないからね?!」

「…はい」
 ごめんなさい。そのことに関して言えば、私は有罪ゆうざいだわ。
 私は彼にかれている。
 アルのようなすばらしい人を好きにならない人なんて、いないと思う。
 でも、契約結婚の期間が終わればまちがいなく離婚すると誓います。
 それがエヴァ様との約束だし、アルを困らせたくないから。
 だから彼に心がかれる気持ちを、誰にも話すつもりはない。

 エヴァの次にできた、2人目の友人アルベールは… リアンナが初めて身近に感じた同年代の男性である。

 根暗ねくらなモグラのように、人をけて図書室のすみにいるリアンナも、ひと皮むけば年頃の女性なのだ。
 親しくなりたいからと、愛称あいしょうで呼び合う魅力みりょく的な男性を、意識しないでいるほうが難しい。




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