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20話 婚約式3日前
しおりを挟む婚約が決まっていらい、おたがいを知るためにリアンナは毎日アルベールと一緒に、ガセボで昼食をとるようになった。
「昨日はエヴァ様と話せましたか?」
1人で昼食を食べるときとはちがい、リアンナは淑女らしく小さくちぎったサンドイッチを口に運び… 隣で豪快にサンドイッチを頬張るアルベールに視線をむけた。
3日後に婚約式がおこなわれるというのに、アルベールはいまだにエヴァと話し合えていないのだ。
「う~ん… それが、うまく躱されてしまって… とにかく、エヴァの口のうまさに僕はいつも負けてしまうんだよ」
「ああ… 確かに、エヴァ様のお話はとても巧みで… 何というか勢いがありますわね? だからとても楽しくて、私も聞き入っていましたわ」
もともと私は話すことがうまくないから… いつもエヴァ様のお話を聞くがわだった。
アルベールは苦笑する。
「そうなんだ… それで気がつくといつも、エヴァに振りまわされていてね……」
「『惚れた弱み』 …ですか?」
アルベール様がエヴァ様を愛しているから、甘くなるのかしら?
「どうかな…? あの子に振りまわされる人は、僕や君をふくめてとても多いよ? 叔父上ぐらいかな… エヴァに振りまわされずにいられるのは」
「女子学園生の学舎でエヴァ様とお会いしたときに、アルベール様と話された方が良いと、私も何度かおつたえしたのですが… アルベール様のいうとおり、うまくはぐらかされてしまって…」
エヴァ様はお1人で決めて、計画を実行してしまったから… それでアルベール様に責められるのではないかと、向き合うのを嫌がっているのはわかるけれど? でも、いつまでも避けているのは間違っているわ。
思わず考えこむリアンナを… アルベールはジッ… と見つめた。
「リアンナ嬢…?」
「はい?」
名前を呼ばれて、リアンナは隣に座るアルベールを見あげる。
「僕をアルベールと呼んでくれないか? エヴァはそう呼んでいるのに、婚約者の君が他人のように『アルベール様』 …と呼ぶのはおかしいと思うんだ…」
前日の夜、婚約式のことで叔父と相談したときに、そのことを指摘され『それもそうだ』とアルベールは言われて初めて気がついた。
「アル……」
アルベール様を… アルベール… と呼ぶの?
むしょうに照れて、リアンナの頬がふわりとピンクにそまる。
「ああ、『アル』のが良いな! 愛称で呼ばれたほうが親しみがあって… 亡くなった母上や兄、妹にもそう呼ばれていたんだ! 叔父上やエヴァは子供っぽく聞こえるからと、正しく僕をアルベールと呼ぶけどね…」
アルベールは嬉しそうに笑った。
普段から明るいアルベールは、亡くなった家族のことをあまり口には出さないが… 両親も兄妹も船の沈没事故で全員失っている。
つまり、アルベールを『アル』と愛称で呼ぶ人は、この世にはいないのだ。
「アル…?」
私がアルベール様を愛称で呼ぶの?! 急に言われても、恥かしくて抵抗を感じてしまう… でも、アルベール様は『アル』と呼んで欲しそうな、お顔をしているわね…?
「良いね! グッと婚約者同士の距離が縮まった気がするよ! 僕も君をリアンナと呼んでも良い? それとも『リア』のほうが良いかな?」
ニコニコとまぶしい笑顔で見おろされ、アルベールの形の良い唇から、いきなり自分の愛称がとびだして… リアンナの心臓はドキンッ…! ドキンッ…! と激しく脈打ち、あばら骨をくだいて胸から飛びだしそうになる。
「…いえ、リ… リアンナと呼んでください」
私も亡くなった実のお母さんに『リア』と呼ばれていたけれど… 王子様のような、ステキなアルベール様に愛称で呼ばれたりしたら… 私の心臓に悪いわ!
「え~~っ?! 『リア』と呼んだら、ダメなのか?」
まぶしく輝いていたアルベールの笑顔が、一瞬でシュン… とさびしそうな表情にかわった。
「…ううっ!」
ああ… 今度は胸がギュッ… と痛くなって来たわ?! なんだか私… 死んでしまいそう!
思わずリアンナは胸をおさえて、瞳を閉じた。
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