契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん

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19話 リアンナとアルベールの婚約3

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 エヴァとかわした話をリアンナから聞き終わると、アルベールはひどく落ちこみ、大きな背中を丸めてうつむいてしまう。


「申し訳ありません… やはり私などが、一時的にでもアルベール様の妻になるなんて… 不愉快ふゆかいだとは思いますが、どうかエヴァ様のために…」

「いや、リアンナ嬢… 勘違かんちがいしないで欲しい! 『君が不愉快ふゆかいだから』とか… そういう意味で僕は落ち込んでいるわけではないから…」
 なだめようとするリアンナに、アルベールは苦笑いをうかべた。

「アルベール様…」

「僕はこんなことまでしないと、エヴァと結婚できないのかと思うと… 自分がなさけなくて… それも何の関係もない、君までまきこむなんて」

「まきこむだなんて…」
 まさか本当にこうなるとは思わなかったけれど… 軽蔑けいべつ眼差まなざしで私を見ていた男爵様に、とつがなくてすむのはありがたいわ…

「でも… 結局は僕も叔父上に、エヴァのたくらみを話せなかったから、同罪なんだ…」

「どうかアルベール様、そんなに落ちこまないで下さい」

「リアンナ嬢… 僕のことよりも、君は本当に良いのか? 僕と離婚したあと君は… まともな結婚は望めなくなるんだぞ? 今ならまだ、この話をなくすこともできる」
 リアンナへの罪悪感で、押しつぶされそうになったアルベールの瞳がゆれていた。

「離婚したあと、再婚する気はありません… ですから、公爵領のどこかに小さな家を下さい」
 アルベール様はエヴァ様との愛をつらぬこうとすれば、私が犠牲ぎせいになると心配して結婚にみ切れないでいる。
 やっぱり、アルベール様は優しい人なのだわ… さすがはエヴァ様がえらんだステキな男性ね?
 どちらにしても、今までがんばってきたけれど、偽物にせもの令嬢の私は貴族階級の中で生きてゆく自信がない。 

「君は本当にそれで良いのか?」
 アルベールはもう一度、リアンナにたずねた。

「はい… 1人で静かに暮らせれば、他に何もいりません」
 義母のように金切かなきり声で怒鳴られたり… ローンヘッド男爵のように軽蔑けいべつ眼差まなざしをむけられたりする生活はうんざり。
 私が婚外子こんがいしだからと、悩むのも嫌。
 孤独でも、1人の方がきっと幸せだわ…
 
 リアンナの覚悟は決まっていたし、他に選択肢もない。
 アルベールとの契約結婚は、暗くけわしい道を歩んで来たリアンナの希望の光となりつつある。

 そんなリアンナを見て、アルベールはハァ――ッ… とため息をつくとうなずいた。

「わかったよ、リアンナ嬢… 僕が爵位を継いで君と結婚したら、君が気にいりそうな家を一緒にさがそう」

「ありがとうございます」

「これから、よろしくリアンナ嬢!」
 アルベールはあくしゅの手をリアンナにさし出す。

「こちらこそ… よろしくお願いします、アルベール様」
 さし出されたアルベールの手を、おそるおそるリアンナがにぎると… 大きな手でリアンナの手をつつむようにギュッ… と、にぎり返された。

「リアンナ嬢… 婚約者らしく君のことをもっと知りたいから、これから毎日、一緒に昼食をとらないか?」

「えっ?!」

「僕も昼食を持って、奥のガセボへ行っても良い?」

「あ…… はい」


 なるべく早く婚約をまとめたいと望むフラッドリー公爵の意向いこうで、2週間後に婚約式が行われることとなった。

 2人が学園を卒業して、『成人の儀』を受けたらすぐに結婚する予定で準備がすすめられる。






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