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16話 フラッドリー公爵の訪問
しおりを挟む驚くべきことに、エヴァから契約結婚の話を聞いてから数日後にアルベールの叔父のフラッドリー公爵が、ペルサル伯爵家をおとずれた。
リアンナとアルベールの縁談を申し込みに来たのだ。
「フラッドリー公爵様 リアンナでございます…」
驚いたわ! エヴァ様から公爵様が私のことを、アルベール様の婚約者候補として興味を持っていると聞いたけれど…? 正直、エヴァ様の思い込みではないかと思っていたのに…?!
優雅におじぎをすると… 内心では戦々恐々とおびえつつ、リアンナはうっすらとひかえめな笑みを顔にはりつけて公爵に見せた。
ほんの一ヶ月ほど前、ローンヘッド男爵と対面した時と同じように、リアンナは父親にペルサル伯爵邸の執務室に呼ばれ、アルベールとの縁談について聞かされる。
ペルサル伯爵はローンヘッド男爵との縁談など、まるで無かったようにふるまっていた。
「リアンナ嬢、君の話はエヴァから聞いている… 学園ではとても優秀だそうだね?」
「学園で学ぶ教養はどれも、興味深いことばかりなので、つい夢中になってしまうのです… 私の好奇心が成績にいかされたことを嬉しく思っております」
一つずつ言葉を選びながら良く考えて丁寧に答えないと… ああ、エヴァ様! 失敗したらごめんなさい! ああ、怖いわ! 本当にこんなことになるなんて…
ローンヘッド男爵のように、公爵にも冷たい軽蔑の眼差しで見られるのではないかと、リアンナは身体を強張らせた。
「なるほど… 君は学ぶことが、好きなようだ」
「…はい、公爵様」
今まで私は、何が何でも学ばなければいけない立場だったから… でも学園で学んでいるときは、他のことを考えなくてすんだのがありがたかった。
私が婚外子でも使用人の子供でも関係なく、他の貴族令嬢たちと平等に努力しただけ評価されるのが嬉しかったわ…
「学園で何を学ぶのが1番好きかね?」
「1番は、領地の運営についてです… 殿方が学ばれる教養にくらべると、ほんの初歩的なことばかりですが」
私が産まれたのは伯爵領の小さな村で、領地民の1人だったから… やっぱり自分たちがどうあつかわれていたのか、気になっていた。
本当はもっとたくさん学びたかったけれど、女性が身につける教養は、もっと別のことが重要視される。
それが残念だわ… 確かに夜会やお茶会を開くための知識も、重要なのはわかるけれど…?
「ふむ… もしかしてリアンナ嬢は、算術も好きなのかな?」
「はい、答えが曖昧ではなく… ハッキリと数字で出るので好んでいます」
自分が来ているドレスが、全部合わせていくらぐらいになるかは知っておきたいもの。
リアンナは当然のように公爵にうなずくと… 公爵はニコリッ… とほほ笑む。
「なるほど…」
「……」
どうやら公爵様は、私の答えを気に入ったようね?
公爵の表情に軽蔑の影はなく、むしろエヴァのような好意を感じ、リアンナはほんの少し身体の力をぬき強張りをといた。
リアンナがホッ… としたのも束の間。
公爵は視線をリアンナから父親のペルサル伯爵へうつすと、ほほ笑みを消して厳かに言いはなつ。
「リアンナ嬢がただの養子ではなく、伯爵の婚外子だということは私も知っている」
「なっ…?! フラッドリー公爵、いきなり何を言い出すのですか?! 私の娘は遠縁から引き取った養女で…」
あわててリアンナの父親は反論しようとするが… サッ… と公爵が手をあげて話をさえぎる。
「伯爵、私はリアンナ嬢を気に入ったからアルベールの妻に欲しい… だが、これからはヘタな隠しごとはしないよう、肝に銘じてくれ」
「そ… それは…!」
「それとリアンナ嬢が公爵家に嫁いでくるまで、大切にあつかうように! 使用人のように働かせるなど論外だ」
公爵は懇意にしているローンヘッド男爵から、リアンナが伯爵家でどうあつかわれているか… その内情を聞いて把握し、警告しているのだ。
元平民で商人あがりのローンヘッド男爵は、2つの家を天秤にかけ… ペルサル伯爵よりもフラッドリー公爵家に恩を売った方が、より利益が出ると判断したのだろう。
ペルサル伯爵家も名家だが… フラッドリー公爵家ほど貴族社会に影響力があるわけではない。
何より領地や資産の多さなどは、王家から公爵家に嫁いだ王女たちの持参金のおかげで、伯爵家とはくらべ物にならないほど裕福なのだ。
リアンナは公爵と父親のそんなやり取りを、ぼうぜんと見ていた。
婚外子だとしてもペルサル伯爵はリアンナを養女にむかえ、実際のあつかいはともかく… 表向きでは伯爵家の娘としてあつかっている。
婚外子問題は貴族には良くあり、養子にして嫁や婿養子に出すという方法は、この王国では良く使われる逃げ道だった。
思惑はなんであれ、ペルサル伯爵の判断は正しく… 法律上、リアンナに何の問題もない。
伯爵はリアンナを幼子のころに引き取り、伯爵家で養女として育て学園で正式に教育を受けさせた。
ここまで完璧な擬装なら、正々堂々と伯爵家から嫁げば、醜聞にもならないはずである。
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