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12話 エヴァの計画 アルベールside

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 エヴァが公爵邸に帰宅してすぐにアルベールの部屋へくると、思いもよらぬ話を始めた。


「リアンナ様とアルベールが結婚すれば良いのよ!」

「何だって…?」
 今… エヴァは何と言った?! 聞き間違いか?!

「だから… 契約結婚をすれば良いのよ、アルベール」

「契… 契約結婚?!」
 何だか… どこかで聞いたような話だな? んんんっ?!

「そうよ! だからね、ローンヘッド男爵様と結婚したら悲惨ひさんな結婚生活が待っているリアンナ様なら、きっと私たちの計画に協力してくれるはずだわ」

「なぁ、エヴァ? 僕がリアンナ嬢と結婚したら、君は誰と結婚するんだ? 僕は頭が痛くなってきたぞ…?」
 ああ、思いだした! 確かエヴァが好きなゴシック小説で、契約結婚をする伯爵令嬢の話があったはずだ。
 たぶん、エヴァはあの話からヒントをえたのだろう。
  
 エヴァの短絡たんらく的な思考に、アルベールは大きなため息をつく。
 だが、こういうエヴァの無邪気むじゃきさを、アルベールは『可愛い』と好きになったのだから… 思わずあきれてしまっても文句を口に出すことは無い。


「もう、だからアルベールが結婚するとき… 叔父様はアルベールに公爵位を継がせると言っているのでしょう?」

「ああ… 確かに叔父上はそう言っていたよ?」
 もともと叔父上は子供の頃にわずらった熱病のせいで、身体が弱くて自分自身が結婚をあきらめたから… 僕には早く結婚して安心させて欲しいと言っていた。

『無事にふさわしい令嬢と結婚が決まったら、私は兄上からあずかっていた爵位をお前に返し、立派な公爵となったお前が花嫁をめとる姿を、この目で見るのが夢なんだよ』

 公爵の責任は病弱な叔父にとって、命を縮めるほどの重いかせとなっている。
 だからこそ、自分が倒れる前に早くアルベールに公爵位を継いで欲しいのだ。

 
「アルベールが爵位をついで公爵になってしまえば… すぐにリアンナ様と離婚して、私と再婚すれば良いのよ」
 キラキラと瞳を輝かせたエヴァは、自分が考えた名案を興奮気味こうふんぎみでアルベールに語って聞かせる。

「そんな簡単に離婚なんて出来ないさ」
 その契約結婚とやらに、付き合わされたリアンナ嬢はどうなるんだ?

「あら、簡単よ? だってあなたとリアンナ様は、白い結婚をするでしょう? それで1,2年子供が出来なければ、リアンナ様の不妊が疑われるはずだから… それを理由に離婚するのよ」

「…っ!」
 なんて残酷ざんこくな理由なんだ…?! 叔父上はそれと同じ理由で、自分の結婚をあきらめたというのに。
 僕たちは結婚できなくて追い詰められているけれど… だからと言って、こんな不愉快な話は聞いていられない!

「離婚の後はリアンナ様に、住む家とお金をあげる契約をするの! ふふふっ…」

「いくら何でも、そんな屈辱くつじょく的な話をリアンナ嬢が受け入れるとは思えないよ?」
 僕は決めたぞ! エヴァからゴシック小説を全部、取り上げよう! あんな怪奇かいき小説ばかり読んでいるから… 変な影響を受けて、エヴァはこんな考えかたをするようになってしまったんだ。

「そうかしら? ローンヘッド男爵様とアルベールなら… 私は絶対、アルベールを選ぶわよ?」

「君に選ばれるのは嬉しいが… 離婚が前提の話で無ければだろう?」 
 こんな突飛とっぴな話は、小説の中でしか通用しないさ!

 アルベールは苦笑を浮かべて首を横にふる。

「でも、私なら『ローンヘッド男爵様と結婚しろ』と、叔父様に命令されたら… この契約結婚に飛びつくわよ? だって、私もリアンナ様と同じで孤児だから… リアンナ様もきっと私と同じはずよ?」

「エヴァ… 君は僕の家族だから、孤児ではないだろう?」
 リアンナ嬢の問題は孤児だからではなく… 伯爵の婚外子こんがいしなのが問題なのだが… このことはエヴァにも秘密にしておこう。

「アルベールと結婚できなかったら… 私も叔父様の命令で公爵家のために、どこかの貴族と政略結婚させられるでしょう?」
 それまで瞳をキラキラと輝かせていたエヴァが、急に暗い顔でうつむき… 本音をこぼした。

「君が、そんなことを考えていたなんて… 知らなかった」
 ああ、確かにそうだ。
 エヴァの悩みは、単なる考え過ぎでは終わらないかも知れない。
 貴族の娘なら政略結婚は普通のことだから。


 不安そうなエヴァの顔を見ているうちに、ひどく胸が痛んだアルベールは… エヴァの提案がどれだけ突飛とっぴでも、否定するのをやめた。

 

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