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6話 物思い
しおりを挟むアルベールとの突然の出会いに動揺し、リアンナは昼食のあと学舎にもどり講義室へはいっても、ずっと勉強に身が入らなかった。
「……」
初めてアルベール様と言葉をかわしたけれど… まるで私を友人の1人のように自然な態度で接してくれた。
あんな風に男性と話したのは初めてだわ! 私に話しかけてくる人は男女問わず私のことを、『いつも一人でいる変人』だと思っている。
だから、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていたり… あるいは、私が獰猛な肉食獣のように、『いきなり自分に牙を剥くのではないか?』と、おびえていたり……
午後の講義中に、リアンナは教師には気づかれないよう… ハァ――… とため息をつき、袖をかざる薔薇の刺繍を指先でなでる。
「……っ」
私のほうも、見かけは貴族の令嬢らしく綺麗にかざって見せているけれど… 中身は使用人どうぜんの婚外子だから。
私自身は自分のことを貴族ではなく、貴族のフリをしているだけの平民だと思っている。
そのことを相手にさとられないよう、話しかけられたら言葉数を減らして、なるべく早く話を切り上げるようにしているし… そんな冷淡な態度では、人に嫌われたり陰口をたたかれても仕方ない…
貴族の子女に混ざるリアンナは、つねに緊張を感じている。
偽物貴族の仮面がはがれるのが怖くて… リアンナは1人孤独に学園生活をおくっていた。
それほど、今を生きるだけで精いっぱいなのだ。
リアンナが学園からペルサル伯爵邸へ帰宅すると… 父親の伯爵に呼ばれ、リアンナは自分の部屋には行かずまっすぐ執務室へとむかう。
執務室には先客がいて、珍しく伯爵はリアンナの顔を見てニコリッ… と機嫌良く笑った。
「おお、来たかリアンナ!」
「はい、お父様」
何かしら? お父様がこんなに機嫌が良いなんて… すごく気持ち悪いわ?! 嫌な予感がする。
リアンナの気持ちなどかまわず、伯爵は上機嫌で手のひらをこすり合わせた。
「喜べ、リアンナ! お前の結婚が決まったぞ!」
「…っ!」
結婚?!
不安と緊張で身体を強張らせるリアンナを… 執務室にいた先客が、観察するようにジッ… と見つめていた。
「……」
ああ! もしかして、この人が私の結婚相手なの?
自分を値踏みするように観察する伯爵の客人を、リアンナも見つめ返して観察した。
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