7 / 34
6話 物思い
しおりを挟むアルベールとの突然の出会いに動揺し、リアンナは昼食のあと学舎にもどり講義室へはいっても、ずっと勉強に身が入らなかった。
「……」
初めてアルベール様と言葉をかわしたけれど… まるで私を友人の1人のように自然な態度で接してくれた。
あんな風に男性と話したのは初めてだわ! 私に話しかけてくる人は男女問わず私のことを、『いつも一人でいる変人』だと思っている。
だから、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていたり… あるいは、私が獰猛な肉食獣のように、『いきなり自分に牙を剥くのではないか?』と、おびえていたり……
午後の講義中に、リアンナは教師には気づかれないよう… ハァ――… とため息をつき、袖をかざる薔薇の刺繍を指先でなでる。
「……っ」
私のほうも、見かけは貴族の令嬢らしく綺麗にかざって見せているけれど… 中身は使用人どうぜんの婚外子だから。
私自身は自分のことを貴族ではなく、貴族のフリをしているだけの平民だと思っている。
そのことを相手にさとられないよう、話しかけられたら言葉数を減らして、なるべく早く話を切り上げるようにしているし… そんな冷淡な態度では、人に嫌われたり陰口をたたかれても仕方ない…
貴族の子女に混ざるリアンナは、つねに緊張を感じている。
偽物貴族の仮面がはがれるのが怖くて… リアンナは1人孤独に学園生活をおくっていた。
それほど、今を生きるだけで精いっぱいなのだ。
リアンナが学園からペルサル伯爵邸へ帰宅すると… 父親の伯爵に呼ばれ、リアンナは自分の部屋には行かずまっすぐ執務室へとむかう。
執務室には先客がいて、珍しく伯爵はリアンナの顔を見てニコリッ… と機嫌良く笑った。
「おお、来たかリアンナ!」
「はい、お父様」
何かしら? お父様がこんなに機嫌が良いなんて… すごく気持ち悪いわ?! 嫌な予感がする。
リアンナの気持ちなどかまわず、伯爵は上機嫌で手のひらをこすり合わせた。
「喜べ、リアンナ! お前の結婚が決まったぞ!」
「…っ!」
結婚?!
不安と緊張で身体を強張らせるリアンナを… 執務室にいた先客が、観察するようにジッ… と見つめていた。
「……」
ああ! もしかして、この人が私の結婚相手なの?
自分を値踏みするように観察する伯爵の客人を、リアンナも見つめ返して観察した。
72
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

騙され続けて、諦めて落ちて来た僕の妻
月山 歩
恋愛
「新しい街で、二人で生きていこう。」木の下で、一緒に行こうと約束した恋人は現れず、待ち過ぎて、ついに倒れるセシリア。助けてくれた幼馴染のハルワルドに、私をあげる。私はいつも間違ってばかりだから。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。
ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。
そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。
しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる