契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん

文字の大きさ
上 下
5 / 34

4話 アルベールとエヴァ アルベールside

しおりを挟む


 リアンナが昼食をとっていた、ガセボ内にある石づくりの長椅子に、アルベールと従妹のエヴァは腰をおろす。


「エヴァ… 実は叔父上に、それとなく君との結婚を考えていることを話したんだ」
 コホンッ… とせきばらいをすると、アルベールは話し始める。

「ええっ?! 本当に?」
 エヴァは大きな瞳をさらに大きく見開いて、期待がこもった輝きでキラキラさせた。

「だけど… 僕と君は従兄妹同士だから… 将来公爵となる僕が、何の利益も生まない結婚をするのは許可できないと、反対されてしまったよ」
 本当はもっと辛辣しんらつな言葉で、叔父上に反対されたけれど… エヴァを傷つけたくないから、だまっておこう。


『アルベール… エヴァはお前の亡くなった家族のかわりに、お前がさびしくないよう公爵家で引き取っているだけで、お前の妻にするためではない』

 3年前に客船の沈没ちんぼつ事故でアルベールの両親と長男、小さな妹が亡くなった。
 その時一緒にいた、母方の従妹エヴァの両親も亡くなったのだ。

 アルベールが成人するまでの約束で、父方の叔父が公爵位を継ぎ… 叔父の好意で、アルベールと同じく家族を失い孤児こじとなったエヴァも引き取られた。

『そ… それはわかっています! 叔父上の配慮はいりょに感謝しています! 僕もエヴァも… お互いをささえあい、家族を失った悲しみを耐えてきましたから』

『エヴァを妹のように可愛がるのは、かまわない… だが結婚はダメだ! かわいそうだが、あの子はただの孤児にすぎない』

『そんな、叔父上…!』

志半こころざしなかばで不慮ふりょの死をとげた兄上から、私はお前をあずかった… だから私にはお前を正しく導き立派な公爵となれるよう、兄上の代わりに見届ける責任がある!』

『叔父上には感謝しています…  でも、僕の妻はエヴァしか考えられません!』

『よく考えるんだ、アルベール! お前はこれから一生背負せおうことになる、フラッドリー公爵家と領民たちを守り、次の世代まで維持してゆくという役目がかせられる… その重責をともに背負ってゆけるだけの能力がある令嬢と、お前は結婚しなければならないのだ』

『確かにエヴァは、少し未熟なところがありますが… まだエヴァは成人前の学園生です、これからもっと成長し変わってゆくはずです』

『エヴァが変わらなかったらどうする? むしろお前自身の愛情が、2年、5年と過ぎて変わってしまったらどうするのだ?』

『そんなことはありません!』

『私もエヴァあの子を見て来たが、あの子は人に愛されることしか頭にない子だ… あの子自身が、本当にお前の妻になりたいのなら、公爵夫人に必要なそれそうおうの努力をしていて当然なのだ』

 叔父の言うとおり、エヴァはアルベールに愛されれば公爵夫人になれると思っているらしく… 学園でも社交的で友人は多いが、成績はあまり良くない。

『そ… それは…』

『エヴァは公爵夫人になれる資質を持っていない… 家柄いえがらや持参金よりも、そのことが一番の問題なのだよ、アルベール』

『……』
 アルベールはそれ以上、叔父に反論できなかった。

『なぁ、アルベール… お前が学園を卒業して成人したあと、無事にふさわしい令嬢と結婚が決まったら、私はあずかっていた爵位をお前に返し、立派な公爵となったお前が花嫁をめとる姿を、この目で見るのが夢なんだ』




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

婚約者が言い寄られようとも何も言えなかった公爵令嬢は、自分を変えようと決意する

andante
恋愛
婚約者が言い寄られようと不満を口にできなかった公爵令嬢。 このままではいけないと思い、自分を変えようと決意した。

処理中です...