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4話 アルベールとエヴァ アルベールside

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 リアンナが昼食をとっていた、ガセボ内にある石づくりの長椅子に、アルベールと従妹のエヴァは腰をおろす。


「エヴァ… 実は叔父上に、それとなく君との結婚を考えていることを話したんだ」
 コホンッ… とせきばらいをすると、アルベールは話し始める。

「ええっ?! 本当に?」
 エヴァは大きな瞳をさらに大きく見開いて、期待がこもった輝きでキラキラさせた。

「だけど… 僕と君は従兄妹同士だから… 将来公爵となる僕が、何の利益も生まない結婚をするのは許可できないと、反対されてしまったよ」
 本当はもっと辛辣しんらつな言葉で、叔父上に反対されたけれど… エヴァを傷つけたくないから、だまっておこう。


『アルベール… エヴァはお前の亡くなった家族のかわりに、お前がさびしくないよう公爵家で引き取っているだけで、お前の妻にするためではない』

 3年前に客船の沈没ちんぼつ事故でアルベールの両親と長男、小さな妹が亡くなった。
 その時一緒にいた、母方の従妹エヴァの両親も亡くなったのだ。

 アルベールが成人するまでの約束で、父方の叔父が公爵位を継ぎ… 叔父の好意で、アルベールと同じく家族を失い孤児こじとなったエヴァも引き取られた。

『そ… それはわかっています! 叔父上の配慮はいりょに感謝しています! 僕もエヴァも… お互いをささえあい、家族を失った悲しみを耐えてきましたから』

『エヴァを妹のように可愛がるのは、かまわない… だが結婚はダメだ! かわいそうだが、あの子はただの孤児にすぎない』

『そんな、叔父上…!』

志半こころざしなかばで不慮ふりょの死をとげた兄上から、私はお前をあずかった… だから私にはお前を正しく導き立派な公爵となれるよう、兄上の代わりに見届ける責任がある!』

『叔父上には感謝しています…  でも、僕の妻はエヴァしか考えられません!』

『よく考えるんだ、アルベール! お前はこれから一生背負せおうことになる、フラッドリー公爵家と領民たちを守り、次の世代まで維持してゆくという役目がかせられる… その重責をともに背負ってゆけるだけの能力がある令嬢と、お前は結婚しなければならないのだ』

『確かにエヴァは、少し未熟なところがありますが… まだエヴァは成人前の学園生です、これからもっと成長し変わってゆくはずです』

『エヴァが変わらなかったらどうする? むしろお前自身の愛情が、2年、5年と過ぎて変わってしまったらどうするのだ?』

『そんなことはありません!』

『私もエヴァあの子を見て来たが、あの子は人に愛されることしか頭にない子だ… あの子自身が、本当にお前の妻になりたいのなら、公爵夫人に必要なそれそうおうの努力をしていて当然なのだ』

 叔父の言うとおり、エヴァはアルベールに愛されれば公爵夫人になれると思っているらしく… 学園でも社交的で友人は多いが、成績はあまり良くない。

『そ… それは…』

『エヴァは公爵夫人になれる資質を持っていない… 家柄いえがらや持参金よりも、そのことが一番の問題なのだよ、アルベール』

『……』
 アルベールはそれ以上、叔父に反論できなかった。

『なぁ、アルベール… お前が学園を卒業して成人したあと、無事にふさわしい令嬢と結婚が決まったら、私はあずかっていた爵位をお前に返し、立派な公爵となったお前が花嫁をめとる姿を、この目で見るのが夢なんだ』




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