契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん

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3話 リアンナの手 アルベールside

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 ペルサル伯爵令嬢のリアンナが、立ちさる後ろ姿を見送ったあと、アルベールは自分の手のひらを見下ろした。


「彼女の手……」
 伯爵令嬢とは思えないほど、ひどくれていた。 
 指先にささくれができていて、血がにじんでいるように見えたけど…? 僕の見まちがいか? いや違う! ああいうれた手には見おぼえがある。
 まるで… 昔うちにいた僕の乳母うばのように、リアンナ嬢の手は使用人みたいな手をしていた。
 …なぜだろう?

 貴族の男子は騎士課ではなく一般教養課に所属していても、学園で強制的に基礎的な剣術の講義を受けるため、アルベールの手にも鍛錬たんれんでできたかたいマメがあり、ゴワゴワと皮膚もかたい。
 それでもリアンナの手よりは、ずっと苦労知らずの綺麗な手をしている。 

 
「驚いたわ! まさかこんなところでリアンナ様と会うなんて?!」
 ぼんやりと自分の手を見ていたアルベールの腕に、1歳年下の従妹のエヴァが、無邪気むじゃきに抱きついてニコニコと笑う。

「僕たちが彼女の昼の休憩を邪魔したみたいだ、悪いことをしたな…」

「どうしてリアンナ様はいつも1人でいるのかしら? 誰かといるのが、そんなに嫌いなのかなぁ?」
 エヴァは可愛らしく、首をかしげて考え込む。

「エヴァは一年下なのに、リアンナ嬢のことを知っているのか?」

「もちろん知っているわよ? だって、あの方って… なぞつつまれていて、とても神秘的な存在でしょう? だから、気になっている人たちは多いわ」

なぞつつまれて… て? エヴァはゴシック小説の読みすぎだよ」
(ゴシック小説→ゴシック建築の古城や修道院を舞台にした恐怖、怪奇系の小説)

 腕につかまるエヴァのほほを、アルベールはいつものように気やすく指先でくすぐった。

「ふふふっ…」
 小柄こがらだがふっくらと女性らしい身体を、エヴァはアルベールの長い腕にグッ… と押し付ける。

「……」
 リアンナ嬢の手がれていたのも、気になるけれど… 彼女がよろけて僕が腰を支えたときに、見かけよりもずっとせていて驚いた。
 間近まぢかで見ると、リアンナ嬢は貧弱ひんじゃくと言っても良いほど、せていて… 目の下にはクマまであった。
 たんに彼女が勉強に熱心すぎて、睡眠時間や食事をけずっているだけだろうか? 僕も大切な試験前になると、追いこまれていつもそうなるから… でも、今は試験の時期ではない。

「アルベールたらっ…! さっきはリアンナ様に見れていたでしょう?! 私という恋人が目の前にいるのに… もう、嫉妬しちゃうわ!」
 エヴァはほほをぷくっ… とふくらませ、アルベールの気をひこうと甘えた声で怒ってみせる。

「ああ…  ふふっ…! 怒るな、怒るな… エヴァ!」
 おっ… といけない! 今から大切な僕たちの将来に関する話を、しなければいけないのに… ここでエヴァの機嫌をそこねたら、話を聞いてくれなくなるぞ?!


 アルベールはフゥ―――ッ… とため息をつき、気持ちを切りかえる。






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