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34話 美しい魔法

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 薄暗い廊下のはしで上を向いたまま、うっとりと1人で立つアンヌ様に、ベルナール様は欲望に火を付ける言葉をささやいた。


「アンヌ… 君はなんてみだらで素晴らしいんだ! 君ほど貪欲な女はいない」

「はぁ… あ… ベルナール…… んんっ~…」
 ベルナール様が言葉であおると… それに反応したアンヌ様は甘くてつやっぽい声をもらした。

 アンヌ様のひたいに浮かぶ、魔法陣の輝きが強くなる。

 ベルナール様に静かにしろと言われたのに… 魔法が発動する瞬間など今まで見たことが無かった私は、ついつい感嘆かんたんの声をあげてしまう。

「わぁ…… 綺麗……」
 いったい… 何の魔法をベルナール様がかけたのか、わからないけれど。 魔法が放つ輝きは、息をのむほど美しいわ。

 私も魔法をかけられたように、複雑に描かれた美しい魔法陣の輝きに魅入みいられ、うっとりとその光景をながめた。

「レオニー、静かに。 私の声以外は聞かせたくない」

「あっ… はい」
 ヒソヒソとベルナール様に注意され、我に返り… あわてて自分の口を手でふさぐ。


 アンヌ様がうめき声をあげ…
「んんん~っ…! ベルナール、素敵だわ… なんて素敵なキスなの?! ああっ…… 」

「……?」
 キス…?

 思わず私は首をかしげた。 


「はあぁぁぁ…… もっとキスをちょうだい、ベルナール!」
 薄暗い廊下で、光り輝く魔法陣をひたいにくっ付けたアンヌ様は、棒立ぼうだちのままキスをねだる。
 
 とても奇妙きみょうな光景だ。


「……?!!」
 増々私は首をかしげた。

ひたいに付けた魔法陣を使い、アンヌが望むみだらな行為の妄想もうそうを見せているんだ。 元々アンヌはこの魔法にかかりやすいたちらしい」
 ヒソヒソとベルナール様が説明してくれた。

「……!」
 アンヌ様が望むみだらな妄想もうそう?! んんん?

「アンヌはよっぽど、私とキスをしたかったようだ」
「……」

「レオニー、言っておくが… 私はアンヌとキスをしたことはないから」

「…はい」
 ベルナール様は表情をキリッ… とさせて私を見つめるから、私はコクリッ… とうなずき返事をした。

 満足した様子でベルナール様は、私にニコリッ… と微笑むと、アンヌ様に向きなおり質問する。 

「ねぇ、アンヌ? 伯爵はいつ… 領地に戻る予定なのかな?」
「はあぁぁぁ~ お父様…? 3日後の予定よ……」
「隣国の商人から密輸した、の材料を受け取りに?」
「ええ… そうよ……」

 ベルナール様はいくつかアンヌ様に質問をくりかえす。

「……」
 

 私はまた、首をかしげた。
 

 質問が終わると魔法陣が浮かぶひたいに、青緑色の炎を作った手のひらをペタリッ… とくっ付ける。 

「よし。 終わりだ」
 金色に輝く魔方陣を、ベルナール様は魔力で作った炎で焼き、一瞬で魔法の痕跡こんせきを消したのだ。

 アンヌ様は糸が切れたあやつり人形のように、ガクリッと脱力して崩れ落ちそうになる。

「おっと、危ない……」
 ベルナール様は咄嗟とっさにアンヌ様の身体を支えて、転倒をふせいだ。

 意識を失っているようすのアンヌ様を、ベルナール様は廊下の壁際に寝かせた。


「……」
 すごいわ! 魔法って、こんなふうに使うのね? 魔法士はみんな、こんな簡単に魔法が使えるの?

 魔法の素質がある人自体が少なく、魔法士は貴重な存在なのだ。 だから、私のような一般人にはなじみが薄い。




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