お飾り妻の私になぜか夫はキスをしたがります

みみぢあん

文字の大きさ
上 下
33 / 44

32話 妻と恋人 アンヌside

しおりを挟む


 今夜を楽しむために、麻薬エフティヒアを飲もうとほんの少しその場を離れすきに… ベルナールはいなくなってしまった。
 親しい友人の話では、私の夫フレデリックがどこかの女を口説こうとして失敗し、ベルナールに女を奪われたらしい。


「ひどいわ、ベルナール! 私以外の女と今夜は楽しむ気かしら?! せっかくお父様に、あなたを仲間に入れてくれるよう頼んであげたのに…」
 お父様は無能な私の夫フレデリックを嫌っていて、切り捨てたがっている。 『亡くなった先代のウォルコート子爵は、使える男だったのに』 …と、お父様は腹を立てていて、フレデリックの事で私の顔を見るたびに当たり散らすようになった。 

「私もあんなみにくい種なしの夫… 早く切り捨てたいわ!」
 私に子供はいないけど、ラプリー伯爵家の親戚からちょうど良い男の子を、養子にすることが決まっているから。
 夫をして、私のお父様が後見人となってその子を、ウォルコート子爵として立てれば、ウォルコート子爵領にある麻薬エフティヒア精製せいせい工場も、上手く稼働かどうさせ続けられる。

 夫を始末した後、その精製せいせい工場を恋人のベルナールに、任せられたらと思っていた。

「だから、ベルナールを引き立ててあげたのに!」
 ベルナールは自分も麻薬エフティヒアを扱う事業に参加して、お金を稼ぎたいから私を口説いていたのはわかっている。
 …だからと言って、私を利用するだけして、捨てたりしたら許さない!!

「もう、どこにいるの?!」



 ブリンクロウ侯爵邸を、ベルナールを探してイライラと歩いていると… 人の気配を感じない北の端の廊下まで来てしまった。

「いくら何でも… こんなところにベルナールが来るわけない……」
 引き返そうとしたところで… 薄暗い廊下の突き当りに人影を見つけた。

 男と女の2人組だ。 近くまで行くと… 男の方はベルナールだった。
カッ…! と火がついたように、私は怒りで頭が熱くなり… 黙ってその場を去るという選択肢が消えた。 


「まぁ、ベルナール!! 私を置き去りにして、こんなところに隠れていたの?!」
 私以外の女を口説いていることを、私が怒っているとベルナールに教えたくて、ギョッ… とするぐらい、かん高い大きな声で呼びかけた。

 女の方はビクッ… とした後、固まっているが… ベルナールは振り向いてニヤリッ… と不敵ふてきな笑みを浮かべる。

「……」
 チラリと女に視線を向けると… 年齢はたぶん、私と同じぐらい。 眼鏡めがねをかけているが、スラリと細身で背が高くスッキリとした顔立ちの大人っぽい女だ。
 私は背が低いが、胸やお尻は豊満でいつまでも少女のような童顔だから… まるっきり真逆の個性を持つ女で、私は嫉妬心を感じ、増々腹が立った。


「アンヌ… あんなに大きな声で、私を呼んだりして… 不作法だぞ?」
 ベルナールはさりげなく、自分の背中に女を隠した。

「ベルナール? 私に隠れて他の女とするなんて… ひどいわ!」
 憎らしいけど、やっぱりベルナールは素敵だわ! それにしてもこの女は誰かしら? 私の男を盗むなんて、お父様に言ってしっかりばっしてやらないとね。

 ベルナールの背中に隠れて、ビクビクする臆病おくびょうな女が、ハッ… と息をのむ。 私は泥棒女をにらみつけた。

「こんなに誘惑が多い夜会で… 私から目を離して、1人にした君が悪いのさ」 

「もう、ベルナール! 恋人の私を置いて急に消えたりして。 この私に邸宅中を探させるなんて…… そんな薄情な人は、お父様に言いつけてやるから!」

 私は下唇をなめながら、背が高いベルナールから豊かな谷間がしっかりと見えるよう、胸を突き出し上目使いで誘惑した。

 ベルナールの背中に隠れる、臆病おくびょう女よりも私の方が数倍魅力的だと、見せつけてやるために。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。 だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。 だって婚約者は私なのだから。 いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...