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32話 妻と恋人 アンヌside
しおりを挟む今夜を楽しむために、麻薬を飲もうとほんの少しその場を離れ隙に… ベルナールはいなくなってしまった。
親しい友人の話では、私の夫フレデリックがどこかの女を口説こうとして失敗し、ベルナールに女を奪われたらしい。
「ひどいわ、ベルナール! 私以外の女と今夜は楽しむ気かしら?! せっかくお父様に、あなたを仲間に入れてくれるよう頼んであげたのに…」
お父様は無能な私の夫フレデリックを嫌っていて、切り捨てたがっている。 『亡くなった先代のウォルコート子爵は、使える男だったのに』 …と、お父様は腹を立てていて、フレデリックの事で私の顔を見るたびに当たり散らすようになった。
「私もあんな醜い種なしの夫… 早く切り捨てたいわ!」
私に子供はいないけど、ラプリー伯爵家の親戚からちょうど良い男の子を、養子にすることが決まっているから。
夫を始末して、私のお父様が後見人となってその子を、ウォルコート子爵として立てれば、ウォルコート子爵領にある麻薬の精製工場も、上手く稼働させ続けられる。
夫を始末した後、その精製工場を恋人のベルナールに、任せられたらと思っていた。
「だから、ベルナールを引き立ててあげたのに!」
ベルナールは自分も麻薬を扱う事業に参加して、お金を稼ぎたいから私を口説いていたのはわかっている。
…だからと言って、私を利用するだけして、捨てたりしたら許さない!!
「もう、どこにいるの?!」
ブリンクロウ侯爵邸を、ベルナールを探してイライラと歩いていると… 人の気配を感じない北の端の廊下まで来てしまった。
「いくら何でも… こんなところにベルナールが来るわけない……」
引き返そうとしたところで… 薄暗い廊下の突き当りに人影を見つけた。
男と女の2人組だ。 近くまで行くと… 男の方はベルナールだった。
カッ…! と火がついたように、私は怒りで頭が熱くなり… 黙ってその場を去るという選択肢が消えた。
「まぁ、ベルナール!! 私を置き去りにして、こんなところに隠れていたの?!」
私以外の女を口説いていることを、私が怒っているとベルナールに教えたくて、ギョッ… とするぐらい、かん高い大きな声で呼びかけた。
女の方はビクッ… とした後、固まっているが… ベルナールは振り向いてニヤリッ… と不敵な笑みを浮かべる。
「……」
チラリと女に視線を向けると… 年齢はたぶん、私と同じぐらい。 眼鏡をかけているが、スラリと細身で背が高くスッキリとした顔立ちの大人っぽい女だ。
私は背が低いが、胸やお尻は豊満でいつまでも少女のような童顔だから… まるっきり真逆の個性を持つ女で、私は嫉妬心を感じ、増々腹が立った。
「アンヌ… あんなに大きな声で、私を呼んだりして… 不作法だぞ?」
ベルナールはさりげなく、自分の背中に女を隠した。
「ベルナール? 私に隠れて他の女と浮気するなんて… ひどいわ!」
憎らしいけど、やっぱりベルナールは素敵だわ! それにしてもこの女は誰かしら? 私の男を盗むなんて、お父様に言ってしっかり罰してやらないとね。
ベルナールの背中に隠れて、ビクビクする臆病な女が、ハッ… と息をのむ。 私は泥棒女を睨みつけた。
「こんなに誘惑が多い夜会で… 私から目を離して、1人にした君が悪いのさ」
「もう、ベルナール! 恋人の私を置いて急に消えたりして。 この私に邸宅中を探させるなんて…… そんな薄情な人は、お父様に言いつけてやるから!」
私は下唇をなめながら、背が高いベルナールから豊かな谷間がしっかりと見えるよう、胸を突き出し上目使いで誘惑した。
ベルナールの背中に隠れる、臆病女よりも私の方が数倍魅力的だと、見せつけてやるために。
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