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26話 変質 フレデリックside
しおりを挟むブリンクロウ侯爵家の舞踏会に招待され、妻のアンヌと一緒に同じ馬車で来たのに… 馬車をおりて侯爵邸へ入ったとたん、夫の僕を置いてアンヌはふらりとどこかへ行こうとした。
僕とアンヌはケンカになった。
「おい、アンヌ! 1人でどこへ行くつもりだ?」
妻に勝手な行動をさせたくなくて、細い腕をギュッ… とつかんだ。
「お友だちに挨拶をするだけよ。 もう、痛いから腕を放してフレデリック」
「友だち…? 誰だよ、どうせ男だろう? その友だちに挨拶がしたいなら僕と一緒にしろ! 他の知り合いへの挨拶も僕と一緒だ!」
「あなたは子供ではないのだから、挨拶ぐらい1人でできるでしょう?」
そういうアンヌのほうこそ、分別の無い我儘な子供のようだ。
「子供ではないから、1人ではダメだと言っているんだ」
夫婦で招待されて来たのに、僕が1人だけで挨拶回りなんてしたら… それこそ浮気女を妻にしてしまった、マヌケな男扱いをされてしまう。
「フンッ! 嫌よ! あなたみたいな、だらしない人と一緒にいたくないわ」
アンヌはチラリッ… と視線を下げて、僕のたるんだお腹を見下ろし、軽蔑の表情を浮かべた。
怒りで頬がカッ… と熱くなる。
結婚してからイライラがたまり、僕は暴飲暴食をくり返したせいで、身体は太り、頬はパンパンに膨らんでいる。
まだ、20代も前半なのに、髪も薄くなっていた。 全部、アンヌが僕をイライラとさせるから、いけないのだ。
「ダメだ! 僕の隣にいろ」
「嫌だと言っているの!」
かん高い声で放ったアンヌの拒絶の言葉が、周囲にいた他の招待客たちの興味を引き、自分たちに視線が集まった。
「クソッ…」
ウォルコート子爵夫人の義務ぐらい果たせないのか、この女は? 最近は特にひどい。 たぶん… 麻薬のやり過ぎだ。 我慢することが出来なくなっている。
僕は小さな声で罵りながら、これ以上アンヌに騒がれるのが嫌で、仕方なく手を放した。
アンヌはくるりっ… と僕に背を向けて、足早にどこかへ行ってしまう。
「クソッ…! アンヌの奴」
あの尻軽が! 僕にどれだけ恥をかかせれば気がすむんだ?! 今、アンヌが夢中になっている男は… 確か、ベルナール・カザートンだと聞いたが。 アンヌはここで、あの男を見つけたのか?
強い屈辱と嫉妬心が、込みあげてくる。
給仕係に渡された質の良いシャンパンを味わいもせず、いっきに飲み干した。
母方の従姉に紹介された時。 鈴を転がすような澄んだ声で笑うアンヌは、優雅そのものに見え… 僕は一目で恋に落ちた。
王都の中央神殿で、たくさんの参列者に見守られながら行われた、豪華な婚姻の儀式でアンヌを自分の妻にできたことを誇らしく思っていた。
…だが、そんな気持ちは初夜を迎えた時に、綺麗に消えさる。
「クソッ…!」
結婚するまではあんなに幸せだったのに…
花嫁のアンヌは純潔ではなかったのだ。
「こんなはずでは、なかった…!」
学園を卒業してすぐに、ラプリー伯爵令嬢のアンヌと結婚したことを、今では深く後悔している。
結婚したばかりの頃。
ヤケ酒を飲み、酔った勢いで友人たちに愚痴をこぼすと… 衝撃的な言葉が返って来た。
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『ああ、お前の奥さん。 淫らそうな身体をしているから、毎日相手をするのは大変だろう?』
『…どういう意味だ?』
なぜ、そんな… 何か、含みのある言いかたをするんだ?
『お前たちは政略結婚だったし。 あんな女でもお前は惚れこんでるようだったから…』
『彼女に誘惑されたコトがあるとは、オレたちもフレデリックに、言えなかったんだ』
『待ってくれ! いったい、何の話だ?』
ラプリー伯爵家から縁談の話がきたのは、ウォルコート子爵家と共同事業を始めたからだが……
いっきに酔いが冷めた。
アンヌ自身に問い詰めると…
『恋人と遊んでいたことを、お父様に知られて… 田舎に送られたくなければ、フレデリックを誘惑しろとお父様に命令されたの』
アンヌは僕を愛してもいなかった。
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