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19話 傷だらけの騎士2 ベルナールside

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 ベッドで熟睡する妻に『友人の手伝いをする』 …などと、ウソの手紙を残してまで第4騎士団に来たのは、治療室に用事があったからだ。


「ベルナール、本当にやるのか?」
「ああ、頼む。 妻にみにく傷痕きずあとが残る背中を見せたくないから、綺麗に消してくれ」

 服を脱ぎすて全裸になると、診療ベッドの上にうつ伏せで横たわる。 厳しい表情の治療師は、私に治療内容を説明する。

「やるのは良いが… これだけ大きな傷痕きずあとを、1度で全部消そうとすると… かなりの苦痛を感じることになるぞ?」

 一度、再生された皮膚に残る傷痕を消すには、かたいびつに形成された箇所を、炎の魔法で焼き落とす必要がある。 当然、火傷やけどを作るのだから激痛を感じる。

 そして治癒魔法で、なめらかな皮膚に再生させるのだ。

「この2年半で、何度も繰り返しやってきたことだから、わかっている」
 1番目立つ顔の傷を消した時は、1日寝込んだうえに… ほんの少しトラウマになった。 今はそのコトを考えないようにしよう。

 背中の傷痕が1番大きいが、服を着れば目立たない場所にあるため、今までは消さずに放置していた。

 治療師は私の肩に手をおき、真剣にうったえた。
「頼むから、治療中に暴れるなよ? お前みたいな、デカイ男を私は押さえられないからな」

「暴れないと誓う」
「気が進まないが……」

 ハァ――… とため息をつくと、治療師は棚から高純度の魔石を砕いて溶かした、溶液ようえきを入れた小瓶を取りだした。
 丁寧ていねいに分量を量り、ベルナールの背中に残る傷痕に塗り付ける。
 
「彼女は目が悪いから、背中の傷痕に気づかなかったけれど。 そろそろ限界なんだ。 魔道具の眼鏡めがねを贈ったから、これからは私の身体を眼鏡を通して見ることもあるだろうし」

「お前の奥さんは『ダーリンを愛しているから、背中の傷痕なんて気にしないわ♡』 …とは、言ってくれないのか?」

「レオニーならたぶん、そう言ってくれると思うが… 私が彼女にみにくいモノは見せたくない」

「へぇ~ 良い女じゃないか!」
「当然だ。 レオニーは完璧なんだ」

「確か奥さんは、キンレット男爵家の令嬢だろう? 一時期、麻薬エフティヒアの売買に関わっているかも知れないと、疑っていた…」
「ああ、そうだ」

 国王陛下の側近をする叔父に誘われても、私は第4騎士団へ入団するか… 最初は迷っていた。
 迷う私に叔父は配慮はいりょし、北方辺境騎士団に私を所属させたまま、第4騎士団が行う調査任務を研修というかたちで体験させた。 それがキンレット男爵家の調査だった。

「私がキンレット男爵家の潔白けっぱくを証明した」
 関わっていたのはレオニーをすてた、元婚約者のウォルコート子爵家のほうだ。
 
「顔に似合わず、ベルナールは健気けなげだね? その時、奥さんに一目惚れしたのか?」

「うるさいぞ!」
 私は初仕事で出会ったレオニーが気になり、ずっと見守って来た。 王立図書館にも時々足を運び、レオニーが元気にしているかだけ確認したりと… 

 だが去年、季節外れの台風で収穫前の穀物こくもつが畑で腐り、キンレット男爵家は領地を手放す一歩手前まで、経済状況が悪化してしまう。
 キンレット男爵は妹のレオニーに、そのことを隠していたようだが… 私は職業柄その情報を手に入れていた。

 私は傍観者ぼうかんしゃでいられなくなり、キンレット男爵家を支援するため、レオニーに求婚したのだ。




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