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16話 王立図書館2

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 ベルナール様が放蕩ほうとう者だという、ウワサ話を母親から聞いていたけど、実際に自分の目で見たことがないから。 恐る恐る… 見たことがあるらしいイネスにたずねてみた。


「ベルナール様は… そんなに女性たちに人気があるの?」
「私の記憶では… いつも女性に囲まれていたわ」

「そうよね。 もちろん人気があるでしょうね…? 妻の私が言うと夫自慢に聞こえそうだけど。 ベルナール様ほど美しい男性には、私も他に会ったことが無いから」

 イネスは私の言葉でホッ… とした様子を見せた。

「ええ、そうなの! 女性たちはレオニーの旦那様があらわれると、うっとりとながめているか… 少しでも近づきたいと、必死で声をかけようとするのよ」
 まだ婚約者がいないイネスは、婚活こんかつ中なのだ。
 
「ふぅ~ん… ねぇイネス? どんな女性がベルナール様と仲が良いか知っている?」
 胸の中がモヤモヤッ… とする。 自虐行為じぎゃくこういだとわかっていても、聞かずにはいられない。 ベルナール様の恋人が誰か知りたいわ。

 ギョッ… として、イネスは私から目をそらした。 イネスはウソがつけない人だから。

「ああ… うん。 そうね、知っているわ」
「ベルナール様には特定の女性とか… いるの?」
「うん…」
「昨夜も… ベルナール様は夜会へ出かけたけれど、もしかしてその決まった女性と一緒にいたのかしら?」

「そ… そうね……」
 イネスは私から目をそらしたまま、私の質問に答えたくなさそうにする。

「ねぇ、イネス? 教えてくれないかしら?」
「ええっとぉ…… その、昨夜は… ラプリー伯爵邸で舞踏会があって… 偶然かもしれないけれど…」

「ラプリー伯爵邸… それってアンヌ様の実家よね? そこにベルナール様がいたの?!」
 私から元婚約者のフレデリック様を奪って… 今はウォルコート子爵夫人となったアンヌ様。

「うん……」

「ああ、もしかして… あなたがそんなに言いにくそうにしているのは… ベルナール様はアンヌ様と仲が良いのね?」
 動揺で自分の声が震えているのがわかる。

「……」
 イネスは黙ったまま、コクリッ… とうなずいた。

「そう。 他には?」
「私が知っているのは… アンヌ様だけよ」

「ふぅ~~ん………」
 アンヌ様は元婚約者だけではなく、私の夫まで奪うつもりなの?! 許せないわ! フレデリック様は私を嫌っていたから、仕方ないと納得したけれど。
 でも、ベルナール様は私と結婚した夫なのよ?! あんな人、絶対に許せない!  
 
「レオニー… 大丈夫?」

「ええ……」
 悔しくて。 苦しくて。 ねたましくて。 瞳からじわりと涙がにじみ出る。 歯を食いしばり涙が出るのを我慢した。
 そうしていると湯気ゆげが出そうなほど頭が熱くなり、今にも癇癪かんしゃくを起こしそうになった。

「ごめんね、レオニー… 新婚のアナタにこんな話をするなんて… ごめんね」
 おろおろとイネスが謝って来たが、強引に聞きだそうとしたのは私の方だ。 私がたずねておいて、自爆しただけなのだ。

「いいえ… こちらこそ、ごめんなさい。 私… 今日、借りる本を… 探してくるわ… ごめんねイネス、失礼するわ」

「あ… 明日…  あなたのお宅へうかがっても良いかしら?」

「ええ… 大歓迎よ、イネス」
 あわてて立ち上がり、イネスを置いて私は本棚の奥へと逃げる。



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