お飾り妻の私になぜか夫はキスをしたがります

みみぢあん

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12話 悪夢

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 ふと… 目覚めると、暗闇の中でひどく苦しそうな、うめき声が聞こえた。

「ううっ… 止めろ… ぐっ… ううっ… ケダモノに… ううっ」 


「……?!」
 ベルナール…様? いつの間にか、帰って来たのね…

 ベッドの上で寝返りをうち、反対側を向いて手をのばした。 汗で湿気しけった熱い身体に触れる。

「くっ… うううっ… 止め…ろっ…… エフ…ティ…ヒ…ア 」

「ベルナール様……」
 すごく、苦しそうだわ? どうしよう。 起こした方が良いかしら? 

「ダメだ… 飲むな… 止…めろ…! 誰か…止めて」

 おろおろと躊躇とまどっているあいだも、ベルナール様は夢の中で苦しそうに、もがき続けている。 

「ベルナール様! ベルナール様! 起きて下さい。 夢ですよ…」
 こんなに長い間、夢の中で苦しみ続けるなんて… やっぱり起こした方が良いわ!

 たくましい肩をつかみ、揺すりながら何度も呼びかけた。

「……はっ!」
「ベルナール様…?!」

「あ…?」
 ピタリッ… と、うめき声が止まる。 ベルナール様はむっくりと身体を起こした。

「うなされていたので… 起こしてしまいました。 すみません」
「…そうか」

 じっとりと汗をかきながら、ベルナール様が眠っていたことを思い出し、私はベッドを出た。 

「べ… ベルナール様。 今、水を……」
 テーブルにある水差しからカップに水を注ぎ、ベルナール様に手渡す。

「ああ… ありがとう…」
 手渡されたカップの水をゴクゴクッ… と音を立ててベルナール様はいっきに飲み干すと、フゥ――… と息をつく。
 
「もっと飲みますか?」
「いや… もう、いいよ」

 ベルナール様の手からカップを受け取り、水差しの隣に戻すとベッドに戻った。

「ずっと、うなされていたけれど。 そんなに怖い夢でしたか?」
「うん… 怖いというか、昔の記憶が… 今も時々、悪夢となってよみがえるんだ」
「昔の記憶…? 夢でうなされるほど、怖い経験をしたのですか?」

「2年前まで… 私は北方辺境騎士団にいたんだが…」

「えっ?! 北方の… 辺境騎士団? 北方の辺境と言えば、魔獣がたくさん出る激戦地だったはず…」
 と言うことは… ベルナール様は騎士だったの? 体格は騎士みたいだと思っていたけど。 まさか本当にそうだとは思わなかったわ!

「うん… まぁ… こんな私にも血気盛けっきさかんな時があったんだよ」

「そんな危険なところにいたなんて…? 今のベルナール様からは、想像できません…」
 だってベルナール様は放蕩ほうとう者のイメージが強過ぎて… 騎士とはかけ離れているから。 

 ベルナール様は髪をかきあげると… 気怠けだるそうな笑い声をあげた。

「ふふふっ… うん。 だろうね… 私もあの頃のことは、なるべく言わないようにしているから」

「……」
 暗くて表情は見えないけれど。 たぶん… ベルナール様は、苦笑いを浮かべているだろう。

「すまないレオニー… こんな夜中に起こしてしまって。 今夜は自分の寝室で眠るべきだったよ」

 貴族の場合、基本的に夫婦でも寝室は別々である。 2人が今いる寝室はレオニーの部屋で、ベルナールの寝室は隣にある。

「いいえ、私はこれぐらいのことは、気にしません」
 私はお飾り妻だけど… 夫が辛い時こそ家族として支えたいから。

「本当に?」
「はい」
「明日から毎晩、一緒でも良い?」
「…はい」

 私の手を取り、ベルナール様はキスを落としもう一度、確認する。

「本当に一緒に寝ても良いの?」
「はい… ベルナール様がそうしたいなら」

「そうか。 嬉しいよ!」
 ベルナール様はギュッ… と私を抱きしめ、唇を奪った。

「…っ?!」
 カッ… と自分のほほが熱くなる。 ベルナール様が私にたずねた、質問の本当の意味にようやく思いいたる。

 しつこく2回も『一緒で良いのか?』 …とベルナール様が私にたずねた理由は… つまり、いつでもベルナール様との情交を、私に『受け入れる気があるか?』 …という意味で確認されたのだ。



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