上 下
52 / 55

50話 元婚約者2

しおりを挟む


  ジュリーは、いくら自分が真実を話しても、ジョナサンはその真実をゆがめて受けとめるとわかっていた。
 それほどジョナサンはジュリーのことが嫌いで、自分のプライドを守るために必死なのだ。


「……っ」
 もう、面倒だわ! いつもなら、そんな不毛ふもうな話し合いを続けることに苦痛を感じて、私が先に折れて、適当てきとうに話を合わせてしまうけど…
 でも、今夜の私はエドガーの妻になったのだから! ここで私が受け入れれば、夫のエドガーは『私にだまされたマヌケな男性』…だと、認めることになってしまう。
 エドガーの名誉めいよのためにも、私は1つもジョナサンのゆがんだ話を、黙って受け入れてはいけないのよ!


「僕が学園生時代に、少し遊んでいたから… 婚約者だったお前は、そのことで嫉妬して、今まで僕を苦しめたんだろう?!」
 多少は恥じらいを感じているのか、ジョナサンは包帯ほうたいだらけの顔を赤くしてジュリーに怒鳴った。

「嫉妬はしていないわ… ただ、あなたは浮気を簡単にできる男性なのだと、失望しただけよ! アリアーヌもそのうち気づいて、あなたに失望するのではないかしら?」
 私は男爵家の長女として… ジョナサンがどれだけ不誠実な人でも、受け入れるという選択肢以外は無かったから… 結局、大騒ぎしないで忘れることにしたの!

「お前は、なんて性悪な女なんだ?! そのうえ僕がだめだから、次は兄上を狙うなんて…!」

「私は子供の頃からずっと、エドガーを愛してきたわ! 求婚されてどれだけ嬉しかったか… あなたはきっと一生、理解できないわね?!」
 ジュリーがどれだけ話しても、平行線になる話に疲れ…
 ハァ―――ッ… と大きなため息をついた。

「だったらなぜ、僕と婚約したんだ?! なぜ、今まで僕に何も言わなかった?!」
 フンッ… とジョナサンは嘲笑あざわらった。

「長男のエドガーと長女の私は結婚できないと分かっていて… あなたに私の気持ちを告白して、どうなるというの?」
 昔から仲が良いとはいえなかった、ジュリーとジョナサンの関係が増々悪化するだけだ。

「昔から好きだっただと?! そんなウソくさい話を、誰が信じるものか!! 兄上をたぶらかした詐欺さぎ女! お前なんか伯爵夫人だと認めないからな! 早く兄上に結婚は無効むこうだと言え!」


「…っ」
 ちょうどその時、ジュリーたちがあがって来た、階段をはさんだ向こう側から、エドガーが歩いて来るのが見えた。
 興奮して怒鳴り声をあげているジョナサンは、歩いて来るエドガーに背を向けていて、気づいていない。


 本当にそれは、アッ… という間のできごとだった。

 エドガーが悪魔のような顔で走って来て、背中にりを入れ… ジョナサンが吹っ飛んだ。



 兄弟流の話し合いが始まったらしい。






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

3歳で捨てられた件

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,621pt お気に入り:140

婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,633pt お気に入り:1,841

この結婚は間違っていると思う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:930pt お気に入り:757

【本編完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,640pt お気に入り:10,161

わたしはお払い箱なのですね? でしたら好きにさせていただきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,656pt お気に入り:2,322

都市伝説探偵 イチ ~言霊町あやかし通り~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:50

2度目の声優人生に突入いたします!

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:37

旦那様は別の女性を求めました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:846pt お気に入り:495

処理中です...