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45話 終息
しおりを挟む王太子マクシミリアンは、『側妃を娶れ』と王妃(実母)や重臣たちにかけられる、日増しに強くなる圧力に嫌気がさしていた。
そこで… 信頼する側近、ファゼリー伯爵エドガーの結婚式にお忍びで参列するという名目で、休養をかねてしばらくの間だけ、王都から逃げ出して来たのだ。
「男爵の考えも分からなくはないが… だが一つの家に2人の当主を置けば、不和の種になるとは思わないか? この大きな王国に、血の繋がった2人の王子がいるだけでも、激しい争いが起きていると言うのに…」
王太子となり、その立場は盤石に見えるマクシミリアンでも… いまだに腹違いの兄(側妃の子)、第1王子との諍いが絶えない。
「……」
王太子殿下の言う通りだわ。 それも夫婦でもなく… 実の兄弟でもない私とジョナサンを競わせるようなことをすれば… 当然諍いが起こる。
婚約していた時でさえ、ジョナサンは『自分を見下している』と私を嫌っていたのに。
「……っ」
男爵は不満そうに眉間にしわを寄せる。
プライドの高いジョナサンと一緒に、ジュリーを男爵家にとどめて置けば、不利益になることも男爵は理解していた。
だが、自分が育てた有能な娘を、後継者にしたいという未練を、どうしてもすてられなかったのだ。
そんな男爵の願いも、次の国王となる王太子に逆らうことなど出来ず… すてるしかない。
「お父様… お願いです!」
お願い! 私とエドガーの結婚を許して! どうか『うん』と言って!
エドガーの腕に守られながら、ジュリーは切実に願った。
「お前が… 男なら…」
男爵は悔しそうにつぶやいた。
それ以上、男爵は何も言わず… ジュリーに背中を向けその場を去っていく。
「お父様…」
結局、お父様は最後まで、私の花嫁姿に何も言わなかった…
ジュリーは感傷的になり、無性に泣きたくなった。
「幸せになりなさい、ジュリー…!」
男爵夫人はジュリーの手をなで、エドガーに微笑みかけた後… 王太子マクシミリアンへ、優雅に頭を下げて別れを告げ、男爵の後を追った。
セイフォード男爵夫妻が、祭壇前広間を去ってい行く姿を、その場にいた全員が黙って見送る。
入り口付近でジョナサンが… 男爵について行こうか? その場にとどまろうか? …と、取り残されてウロウロとしていた。
そんなジョナサンの迷う姿があまりにも情けなくて、エドガーは弟をにらみつけ、手を上げて『参列者席に座れ!』と、祭壇前の参列者席を指し示す。
エドガーの意図に気づいたジョナサンは、あわてて一番前の席まで駆けて来て腰を下ろした。
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