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40話 婚姻の儀
しおりを挟む婚姻の儀をおこなう広間の扉が開かれ、マクシミリアンにエスコートされたジュリーは、シュルッ… シュルッ… と裾の長いドレスから、衣擦れの音を立ててゆっくりと進む。
陽が落ちて暗くなり、蝋燭の炎で照らされた祭壇前は… 昼間、信徒たちに見せる厳かな雰囲気からがらりと変わり、琥珀色の幻想的な世界となっていた。
チラリッ… とジュリーが参列者席を見ると、子供の頃から知っている使用人たちが満面の笑みを浮かべて、ジュリーを見つめている。
「……」
みんな… 忙しいのに来てくれたのね? ありがとう!
参列者の顔を見ただけで、感動したジュリーの瞳が涙で潤み出した。
急遽、決まった婚姻の儀(結婚式)だったため、男爵家と伯爵家の手があいた使用人たちと… 話を聞きつけて集まった、男爵領の領民たちだけが参列していた。
招待状をもらい、義理で参列したのではなく… ジュリーとエドガーを心から祝福したくて、集まった人たちである。
「……っ」
お母様と私たちだけの寂しい式になると、覚悟していたのに… こんなにたくさんの人たちに見守られながら、婚姻の儀をむかえられて、私は幸せ者だわ!
参列者席の真ん中にある通路を歩き、礼装に着替えたエドガーと老齢の女性神官が待つ祭壇前へジュリーはまっすぐ進む。
エスコート役のマクシミリアンから花婿のエドガーへ、花嫁のジュリーがたくされると… エドガーがベール越しにジュリーの耳元でヒソヒソと囁いた。
「…今日の君は女神のようだ」
「…っ!」
女神様の前で… 『女神のようだ』 …と私にお世辞を言うなんて。 エドガー! あなたはなんて不謹慎な人なの?
クスクスとジュリーから、嬉し気な笑いがこぼれる。
「ファゼリー伯爵、エドガー。 セイフォード男爵家の長女ジュリーの婚姻の儀式を執り行ないます」
老齢の女性とは思えない、朗々とした声を神殿の広間に響かせて、女神を祀る祭壇の前で、女性神官は婚姻の儀を始めた。
順調に儀式も終盤まで進み、夫婦の誓いを立てるところまできて…
「ジュリー―――ッ!! 私はこんな結婚など認めないぞ!!!」
大声で婚姻の儀を邪魔する、不届き者があらわれた。
怒り狂ったジュリーの父、セイフォード男爵が神殿にあらわれたのだ。
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