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39話 花嫁のエスコート
しおりを挟む神殿へ向かうために自室を出たジュリーは… ふと、妹のことが気になった。
「アリアーヌは…?」
あの子は… 急に決まった私の結婚を祝福してくれるかしら?
ジュリーに付き添い、手を引く使用人は、困った顔でヒソヒソと小さな声で答えた。
「アリアーヌお嬢様は… また微熱が出ているため、今夜のことは後からお伝えすると、奥様はおっしゃっていました」
「そうなの? 仕方ないわね…」
アリアーヌが私とエドガーの結婚を祝福しても、反対しても… きっと感情をおさえられずに、あの子は泣いてしまうのでしょうね… 今夜はみんな忙しくて、アリアーヌをなだめているヒマなんて無い。
可愛そうだけど、お母さまが言う通りにした方が良さそうだわ。
アリアーヌの部屋の前を静かに通りすぎ、ジュリーは階段を下りた。
ジュリーが神殿へつくと… 日頃から懇意にしている、老齢の女性神官が祝福をくれた。
アリアーヌを厳しくしかり、説教をした神官である。
花嫁の控室へゆくと、一足先に神殿へつき、ジュリーを待っていた男爵夫人から、誓いを立てる祭壇までのエスコート役を紹介された。
本来ならエスコート役は父親の役目だが、男爵にはギリギリまで『婚姻の儀』を行うことを伏せているため、代役を立てることにしたのだ。
「ジュリー、お父様の代わりに… 王都からエドガーに会いにいらしたお客様が、祭壇までエスコートして下さるそうよ」
「ジュリー嬢、私のことは気軽にマクシミリアンと呼んでくれたまえ」
にこやかに笑うエスコート役の男性は、姓はあかさず名前だけ名のった。
見るからに上級貴族だとわかる服装で、そのうえ護衛の騎士が5人も背後に控えている。
「マクシミリアン様、お会い出来て嬉しいですわ」
エドガーは職場の上司が、ファゼリー伯爵邸に遊びに来たと言っていたけれど… なぜお母様はマクシミリアン様の後ろで、顔を強張らせて緊張しているのかしら?
ジュリーは花嫁のベール越しに、エドガーの上司を見つめながら首を傾げた。
「やっと会えたね、ジュリー嬢。 君の話はエドガーから聞いているよ」
「まぁ、私の話をですか? お恥ずかしい…」
嫌だわ… エドガーは職場で私の話をしているの? どんな話かしら… やっぱり、お転婆だった子供のころの話かしら?
「君からも、エドガーの話を聞きたいな」
「ふふふっ… お安いごようです。 マクシミリアン様、私のエスコート役を引き受けて下さり、ありがとうございます。 祭壇までドレスの裾を踏んで、転ばずに済みますわ」
子供のころ、エドガーが井戸に落ちて一晩中すごした話を、教えてあげようかしら? それとも転んだ時に、エドガーが馬糞に手を突っこんだ話が良いかしら?
マクシミリアンに差し出された手を取りながら、ジュリーはニヤニヤと笑った。
「ふふふっ… 任せてくれ。 エドガーの宝物を転ばせたりしないと誓うよ」
「はい」
神殿まで手を引き、付き添ってくれていた使用人が… 花嫁用にアレンジし直した、青バラと白バラのブーケをジュリーに手渡しながら報告する。
「お嬢様、エドガー様が神殿に到着されたそうです」
ジュリーはほとんど待たされることなく、『婚姻の儀』が始まった。
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