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32話 キス

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 セイフォード男爵家の玄関ホールで、ジュリーは唐突とうとつにエドガーから求婚されキスをされた。

 あまりにも驚いたジュリーは空色の瞳をパチパチとまばたきをしながら、エドガーの嬉しそうな顔を見つめていた。
 ジュリーはふと… 視界のすみで動く影に気がつく。

 男爵邸の玄関扉を開き、エドガーをむかえ入れた使用人とジュリーは目があった。

「……まぁっ?!」
 あら、やだっ…! エドガーと話に夢中になっていたから、あまり気にしていなかったけれど…… 使用人たちが私たちを見ているわ! キスを… 見られてしまった?

 驚いてぼうぜんとしていたジュリーの顔が、急激に恥かしさで真っ赤にそまる。

 そんなジュリーの気持ちをエドガーは知ってか、知らずか…? いつくしむようにジュリーのほほを大きな手のひらでつつみ、エドガーはひたいにキスを落とし…

「ジュリー… ありがとう! 私の求婚を受け入れてくれて…!!」
 普段よりも少し高めの、よく通るエドガーの声が玄関ホールに響きわたる。
 使用人たちの耳に届く音量で、エドガーは自分がどれだけジュリーに求婚を受け入れられて嬉しいかを派手に表現した。

 使用人の誰かが… 『まぁ! ジュリーお嬢様は伯爵夫人になるのね!』 …と驚く声が聞こえジュリーはあせる。 

「ジュリー…!」

「エドガー、待っ……」
 待ってエドガー!! ここは玄関ホールで… 使用人たちが見ているわ!!

 ふたたびエドガーの唇とジュリーの唇は重なった。

「……っ」
 ここではダメよエドガー! ああ、ダメッ! 唇が…っ! まぁ…! まぁ…?! まぁ~……っ?! エドガーの… 唇… なんて柔らかいの?! 生まれて初めて男性の唇にキスをするけれど… まぁ…っ?!!

 子供の頃、初恋の人エドガーとのキスにあこがれ、ジュリーは何度も想像した。

 エドガーの手で口に入れられた砂糖菓子ボンボンの誘惑にさえ負けてしまったジュリーが… ずっと夢見ていたエドガーの唇の誘惑に勝てるはずがなく……。

「……!」
 信じられないっ…! エドガーとキスしてる?! 私… あのエドガーとキスをしているわ?!!



 恥かしがっていてもジュリーがキスを嫌がらず、逃げないとわかると… エドガーは何度か顔の角度を変えながら、大きな手のひらをジュリーの頬から首筋へ、首筋からうなじへと移動させる。


 いつの間にか使用人たちの視線を忘れたジュリーは、大きな花束を両手で抱えたまま… うっとりと瞳を閉じて初恋の人とのキスにおぼれてゆく。







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