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26話 求婚 エドガーside

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 大げんかの後、すっかり落ち込み黙りこんでしまったジョナサンを執務室へ置いて、エドガーは当主の間へ夕食を運ぶよう執事に指示を出し自室へ戻る。


「まったく… 今日こそジュリーに会いに行けると期待していたのに。 ジョナサンのせいで結局、夜になってしまったじゃないか! これでは男爵邸へは行けないぞ… クソッ…!」
 彼女に無理いをしたくないから… 先に私の求婚をジュリーが受け入れてくれるかどうか、早くジュリーの気持ちを確かめたい。 

 父親のセイフォード男爵に求婚の許可を求める前に、エドガーはジュリーの気持ちを確認したかった。
 普通の貴族ならジュリーはとつぎ先さえあれば、どこに嫁がされてもおかしくないほど切羽詰せっぱつまった状況のはずである。

 だが……
 
「好条件を突きつけたら私との結婚を何の迷いもなく、男爵は受け入れると思っていたが……」
 まさかジュリーを男爵家にしばりつけようと考えているとは思わなかった。 誰が見ても完璧な婚前契約書を作ってきたのに。 それを見せても男爵は私の求婚を受け入れないということか?

「つまり… ジョナサンの話だと正攻法せいこうほうではジュリーを手に入れられないということなのか…? ああ、クソッ……!」
 ただでさえ、気がいてイライラとするのに。 どうすれば良い?!

「いっそのこと、ジュリーとけ落ちでもするか?」
 結婚に関する必要な書類は、王太子の側近の地位を使い急いでそろえた。
 やろうと思えばやれるぞ。 ジュリーは“成人の儀”を終えているから… 結婚を自分で決める権利を、王国法で認められている。
 その代わり… さらに醜聞しゅうぶんが大きくなるが。 まぁ、結婚さえ出来れば何とでもなるさ! 

「……いや! その前にジュリーが私を受け入れればの話だが…」
 どうもジュリーは私を兄のように思っている気がする。
 確かに私は弟のジョナサンと同じように、4歳年下の彼女を妹のように扱って来たから。
 うう~ん…… なんとも、由々ゆゆしき(不吉な)事態だ!

 エドガーは顔をしかめながらシャツのそでをひじまでまくり上げ… 壁際にある洗面台へ行き、水を注いでジャブジャブと顔を洗い、ゴシゴシと布でふく。

「よしっ! 夕食を終えたら湯あみをするぞ。 旅の汚れを綺麗に落として少しでも良い男に見えるようにしなければ! ジョナサンのように華やかな美男子にはなれないが」
 いや、顔のつくりは似ているから、私だってそんなに悪くはないはずだ! たぶん……?

 壁にかけてある鏡の中の自分をながめ、エドガーは顔をしかめる。  
 
「それにしても… ジュリーに異性として見てもらえなかったらどうしよう……?」
 いや、ジュリーは私に心を開いてくれた。 兄で何が悪い? 彼女にとって兄のような存在だったからこそ… 今までジュリーは私に親しみを感じていたのだし。

 最初は兄で十分だ。 結婚さえできれば… その後で男の能力を全開にして、ジュリーを誘惑すれば良いことだ! 

「うん、それで良い!」
 鏡の中の自分がうなずく。


 エドガーは鏡を見るのをやめて、真っ暗になった窓の外へと視線をうつし… もう一度うなずいた。





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