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25話 兄弟げんか3 エドガーside
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恥ずかしげもなくべそべそと泣き、エドガーに殴られて腫れあがった自慢の顔を使用人に手当てをさせながら、ジョナサンは文句を言った。
「痛ててっ…! ひどいよ兄さん、もうすぐ結婚式なのに… 顔を殴るなんて!! アリアーヌに嫌われたらどうしてくれるんだよ?」
ソファセットの長椅子に腰をおろしたジョナサンは、鼻が折れ、歯が欠けて… 少し面白い顔になっていた。
「ジュリーを傷つけ泣かしておいて… お前が選んだ『愛する女性』はその程度でお前を嫌う女性なのか? ジョナサン」
こいつは今まで顔が良すぎて令嬢や貴婦人たちの心をもてあそんで来たからな。 殴られて少しぐらい悪くなった方が、ちょうど良いんだ。
「ジュリーは泣いてなんかいないさ! あいつは僕を愛していないんだから。 でもアリアーヌは繊細なんだ! 彼女が僕の顔を見て怖がったらどうしてくれるんだ?」
「その程度ですてられたら、お前はただのマヌケだと言うことになるな」
ジュリーが泣いてないだって? 馬鹿を言え!! 恥を知る誇り高いジュリーは、人前では泣かないだけだ。 辛くても我慢していたジュリーの気持ちを考えて、そのことは秘密にしておくが。
まったく… 私の弟は大人になっても人の心がわからない、自分こそが薄情者になってしまったと本当に気付いてないのか?
ソファセットの1人用の椅子に座ったエドガーはフンッ! と鼻を鳴らして嘲笑すると… ティーカップを口に運びお茶を飲む。
エドガーは王都からの長い旅を終えて、ようやく一息つくことができた。
「ひどいよ!! どうして兄さんはそんなに薄情なんだ? 僕は弟なのに、こんなにひどい仕打ちをするなんて」
「たとえ弟でも私が愛する女性を目の前で侮辱されたんだ。 黙って笑っていたら、それこそマヌケじゃないか」
ああ、思いだしたら怒りが込みあげて来た。 この愚かな弟のせいで、どれだけジュリーが泣かされたのかと思うと… 腹が立って仕方がない!!
ティーカップをカチャッ… と皿に下ろし、エドガーは『お前はまだ、殴られたりないか?』と怒りを込めてにらむ。
ジョナサンの手当てを終えた使用人はエドガーが置いた空になったカップに、気をきかせてポットからお茶を注いでから部屋から出て行った。
エドガーは気持ちを落ち着かせようと… ふたたびティーカップを口に運ぶ。
ずっと昔に亡くなった母のために父が特別にブレンドさせていた、ベルガモットやオレンジ、レモンの華やかな柑橘系の芳香を楽しんでから、ゆっくりとお茶を飲む。
「そ… それは……… だって本気で兄さんが、あのジュリーを好きだなんて… 思わなかったから。 だって子供の頃からそんな感じではなかっただろう?」
「ああ、私は彼女を愛しているが… 彼女が私をどう、思っているかは求婚してみないとわからないな」
お茶を飲みながらジロリ… とにらむ。
ジョナサンはようやく自分の無礼を少しは恥じる気分になったのか… 気まずそうに下を向く。
「……」
「それで? なぜ酒浸りになっていた? くだらない言い訳はするな、それ以上顔を歪ませたくないならな」
「それは……」
ジョナサンは重い口を開き… 将来、自分はお飾りの男爵にさせられ、実質的なことは全部ジュリーにやらせると言われたことを話した。
「……つまりセイフォード男爵はジュリーをどこにも嫁がせずに、男爵家にしばり付ける気なのだな?」
父親とは思えない! 娘の幸せを少しも考えていないのか? まぁ… 元はと言えばこの愚弟が浮気をして婚約解消したことが1番悪いのだが。
「ジュリーはそのことに関して、何か言っていたか?」
クソッ…! ジュリーはそのことをどう思っているんだ? 彼女は男爵家に誇りをもっていたし、何より男爵領を愛していたから…… 喜んでいるのか?
「…珍しく泣いていた… それで僕は泣き声を聞いて、最初はアリアーヌが泣いているのかとあわてたんだけど… 叔母上(男爵夫人)にすがって泣いていたよ」
「お前はそれでもジュリーを侮辱し… 自分を憐れみ、酒浸りになっていたのか? お前のほうがよほど薄情に見えるが。 そんな態度でお前はどうして『自分を愛してない』とジュリーを責められるんだ?」
「……っ」
ジョナサンは黙りこみ、それ以上… 何も話さなかった。
「痛ててっ…! ひどいよ兄さん、もうすぐ結婚式なのに… 顔を殴るなんて!! アリアーヌに嫌われたらどうしてくれるんだよ?」
ソファセットの長椅子に腰をおろしたジョナサンは、鼻が折れ、歯が欠けて… 少し面白い顔になっていた。
「ジュリーを傷つけ泣かしておいて… お前が選んだ『愛する女性』はその程度でお前を嫌う女性なのか? ジョナサン」
こいつは今まで顔が良すぎて令嬢や貴婦人たちの心をもてあそんで来たからな。 殴られて少しぐらい悪くなった方が、ちょうど良いんだ。
「ジュリーは泣いてなんかいないさ! あいつは僕を愛していないんだから。 でもアリアーヌは繊細なんだ! 彼女が僕の顔を見て怖がったらどうしてくれるんだ?」
「その程度ですてられたら、お前はただのマヌケだと言うことになるな」
ジュリーが泣いてないだって? 馬鹿を言え!! 恥を知る誇り高いジュリーは、人前では泣かないだけだ。 辛くても我慢していたジュリーの気持ちを考えて、そのことは秘密にしておくが。
まったく… 私の弟は大人になっても人の心がわからない、自分こそが薄情者になってしまったと本当に気付いてないのか?
ソファセットの1人用の椅子に座ったエドガーはフンッ! と鼻を鳴らして嘲笑すると… ティーカップを口に運びお茶を飲む。
エドガーは王都からの長い旅を終えて、ようやく一息つくことができた。
「ひどいよ!! どうして兄さんはそんなに薄情なんだ? 僕は弟なのに、こんなにひどい仕打ちをするなんて」
「たとえ弟でも私が愛する女性を目の前で侮辱されたんだ。 黙って笑っていたら、それこそマヌケじゃないか」
ああ、思いだしたら怒りが込みあげて来た。 この愚かな弟のせいで、どれだけジュリーが泣かされたのかと思うと… 腹が立って仕方がない!!
ティーカップをカチャッ… と皿に下ろし、エドガーは『お前はまだ、殴られたりないか?』と怒りを込めてにらむ。
ジョナサンの手当てを終えた使用人はエドガーが置いた空になったカップに、気をきかせてポットからお茶を注いでから部屋から出て行った。
エドガーは気持ちを落ち着かせようと… ふたたびティーカップを口に運ぶ。
ずっと昔に亡くなった母のために父が特別にブレンドさせていた、ベルガモットやオレンジ、レモンの華やかな柑橘系の芳香を楽しんでから、ゆっくりとお茶を飲む。
「そ… それは……… だって本気で兄さんが、あのジュリーを好きだなんて… 思わなかったから。 だって子供の頃からそんな感じではなかっただろう?」
「ああ、私は彼女を愛しているが… 彼女が私をどう、思っているかは求婚してみないとわからないな」
お茶を飲みながらジロリ… とにらむ。
ジョナサンはようやく自分の無礼を少しは恥じる気分になったのか… 気まずそうに下を向く。
「……」
「それで? なぜ酒浸りになっていた? くだらない言い訳はするな、それ以上顔を歪ませたくないならな」
「それは……」
ジョナサンは重い口を開き… 将来、自分はお飾りの男爵にさせられ、実質的なことは全部ジュリーにやらせると言われたことを話した。
「……つまりセイフォード男爵はジュリーをどこにも嫁がせずに、男爵家にしばり付ける気なのだな?」
父親とは思えない! 娘の幸せを少しも考えていないのか? まぁ… 元はと言えばこの愚弟が浮気をして婚約解消したことが1番悪いのだが。
「ジュリーはそのことに関して、何か言っていたか?」
クソッ…! ジュリーはそのことをどう思っているんだ? 彼女は男爵家に誇りをもっていたし、何より男爵領を愛していたから…… 喜んでいるのか?
「…珍しく泣いていた… それで僕は泣き声を聞いて、最初はアリアーヌが泣いているのかとあわてたんだけど… 叔母上(男爵夫人)にすがって泣いていたよ」
「お前はそれでもジュリーを侮辱し… 自分を憐れみ、酒浸りになっていたのか? お前のほうがよほど薄情に見えるが。 そんな態度でお前はどうして『自分を愛してない』とジュリーを責められるんだ?」
「……っ」
ジョナサンは黙りこみ、それ以上… 何も話さなかった。
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