16 / 55
14話 王都にて… エドガーside
しおりを挟む田舎の本邸から王都へと戻るとエドガーは溜まりにたまった仕事を再開するが、頭からジュリーの事が離れなかった。
「……」
これからジュリーはどうするのだろう? すぐに嫁ぎ先をさがすのだろうか? 私がジュリーの保護者なら絶対にそうするが……
ジュリーのために私がしてやれることは、良い嫁ぎ先をさがしてやることが1番良いのかも知れないな。
ペン先をインクに浸すとカリカリといくつかの書類に署名をして、インクが渇くようならべて置く。
ふと顔を上げてエドガーの書類を受け取りに来た同僚に声をかけた。
「なぁ、ブリュノ… お前、結婚相手をさがしていると言っていたよな?」
ブリュノは確か子爵家の次男だから。 領地や資産を親から継いではいないが、そこそこ有能で国から受け取る報酬も生活には困らない金額のはずだ。
爵位は無くても夫にするには悪くない相手だ。
たった今、エドガーが仕上げた書類に目を通しながら、同僚のブリュノは問いかけに答える。
「ああ、兄夫婦になかなか子供が出来ないから、叔父に早く結婚して後継者問題を解決してやれと急かされているんだ」
「跡継ぎの子どもか… 私の幼馴染なら……」
見るからに健康そうなジュリーなら大丈夫だろう。 すぐに可愛い後継者を産んで…くれ……る…
エドガーはそこまで考え、同僚の子を産むジュリーの姿を想像した。
生意気そうに笑いながらエドガーを揶揄っていたジュリーが、聖母のように慈愛に満ちた笑みを浮かべ我が子を抱く姿だ。
そんなジュリーの隣で肩を抱く同僚のブリュノが………?!
「おっ? 何だエドガー! 誰か良い令嬢の心当たりがあるのか?」
同僚は書類から視線を上げ、執務机の椅子に座るエドガーにキラキラと期待の眼差しを向ける。
「……っ」
むしょうに腹が立ち、エドガーは同僚を殴りたくなった。
「エドガー? いるなら焦らさず紹介してくれよ。 私は本当に困っているのだからな」
「いや、ダメだ。 お前にあの娘は合わない」
ダメだ! ジュリーにはもっと最高の男でないと。 その辺にいる平凡な奴など絶対に紹介できない!
ブリュノが平凡と言うが… エドガーと同じく将来有望な王太子の側近である。
「エドガー… そんなことは実際に相手と会ってみなければ、わからないさ?」
「いや、私にはわかる。 お前が弟のジョナサンよりも美形なら望みがあったかも知れないがな」
「おいっ… エドガー! 私を揶揄う気か? それとも喧嘩を売っているのか?」
同僚ブリュノは顔を赤くしてムッ… とする。
確かにブリュノはジョナサンよりも美形とは言えない。
「少なくともジュリーには私と同等の能力を持ち、私と同等の資産が当然あって…… それから社会的地位も同等で…」
「そんな奴はお前自身しかいないだろう?」
エドガーのような優良な花婿候補はほとんど婚約者がいるか結婚している。
「うう~んんっ……」
エドガーは腕組みをし唸り声をあげて考えに耽っていると…
「だったらその令嬢、私に紹介しろ!」
どこから2人の話を聞いていたのか… 王太子マクシミリアンがエドガーの執務室へ入って来て口を挟んだ。
「マクシミリアン殿下…?」
エドガーはあわてて立ち上がりブリュノと一緒に頭を下げてお辞儀をする。
「エドガー、お前が選んだ令嬢なら… 私の側妃にしてやっても良いぞ?」
王太子は冗談で言ったのだがエドガーは本気でムッ… と腹をたてた。
「いえ、殿下…」
確かにマクシミリアン殿下なら裕福で能力もあり、顔も王妃ゆずりで美形だが… 側妃だなんて。 ただでさえジュリーは、ジョナサンに妹と浮気されて傷つけられたのに。
「お前が私にすすめるなら、一度その幼馴染の令嬢とやらに会ってみよう」
「殿下、お戯れはやめて下さい! 私は側妃などすすめてはいません」
う゛う゛っ… 面倒な人に聞かれてしまったぞ? 考えようによっては側妃になるのは、女性にとって栄誉かもしれない。
だがジュリーはそんなことで喜ぶ女性ではない。
エドガーは敬愛する王太子も殴りたくなった。
91
お気に入りに追加
1,147
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる