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7話 ジュリーとエドガー
しおりを挟む2人は馬で昔よく来ていた丘の上までのんびりと来ると… 手前にある小さな森の向こうがわに広がる、青々とした田園風景を見下ろした。
「ああ、やっぱりここからのながめが一番良い!」
丘の上から見える美しい景色に、エドガーが感嘆の声をあげる。
2人が来た丘があるのはセイフォード男爵領のはしっこだが、小さな森の向こうがわに見える広大な土地はすべてファゼリー伯爵領だった。
それだけエドガーは裕福なのだ。
「私も時々、1人になりたい時はよくここに来るわ」
大人たちの事情など何も知らなかった子供の頃は、ずっとエドガーが好きだった。
エドガーも私を好きなら結婚できると… そう思っていた時期がある。
だから好きになって欲しくて、私は一生懸命エドガーから好みを聞きだして努力をしたり……
懐かしい思い出にひたり、ジュリーはふわりと微笑んだ。
「私がここに来るのは何年ぶりだろう? ずっとこの場所が恋しかった」
エドガーも良い思い出にひたっているのか、単に美しい風景に見惚れているのかは、わからないが微笑みを浮かべた。
ジュリーはチラリと大人になったエドガーの顔を盗み見る。
「……」
ジョナサンとの結婚が決まり、長女として男爵家のために私はエドガーへの恋心を、心の奥底に封印した。
私はあの時もこの丘の上に来て、ファゼリー伯爵領を見つめながら泣いた記憶があるわ… 確か、エドガーが学園を卒業する年だった。
その頃すでに、エドガーは王太子殿下の側近候補に決まっていて… 私には遠い存在となっていた……
不意にエドガーは振り向き、ジュリーにニヤリと笑った。
「そうだ、ジュリー! 君の代わりに私がジョナサンを殴っておいたから」
「…えっ?!」
「3発だ! 顔を3発、殴ってやった! それ以上やると、歯が砕けるから止めたけどね」
「まぁ……!」
思わずポカーンと口を開けたジュリー。
「顔がちょっと腫れて… 図鑑で見た“アライグマ”みたいな痣ができたけど… ジョナサン自慢の甘い顔も、結婚式までには元通りに治るだろう」
伯爵家の兄弟は、基本的に顔のつくりはよく似ているが、それぞれ持っている雰囲気がまるで違う。
兄のエドガーが近寄りがたい印象をあたえる、眼光のするどい迫力ある美形なら… 弟ジョナサンは社交的で人好きする性格から、華やかで甘い印象を相手にあたえる、優男風(ナルシスト気質少々あり)の美形だ。
そんなジョナサンは人の容姿の美醜を、とても重要視しているらしく…
『ジュリー、淑女なら日焼けなんてするな』とチクチク嫌味を言われたことがある。
だからジュリーではなく、白い肌で美しい妹アリアーヌに目移りしたのだろう。
ブフッ…! と吹き出し、ジュリーは子供のように爆笑した。
「ふふふっ… “アライグマ”?! あの目のまわりが黒い新大陸に生息する動物ね? もう、エドガーっ…! あははははっ!」
もう、ダメよ。 エドガー! また好きになってしまいそう。
エドガーは魅力的だけど、私自身には何の魅力もないわ。 家柄も、美しくない容姿も。 エドガーが私を選ぶとは思えない。
それに王都へ帰ってしまう人を好きになるなんてバカげているわ。
ジュリーの思いなどとは関係なくエドガーはニヤニヤと笑い… 男友達にするように、気安くジュリーの肩を抱いた。
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