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5話 エドガーの誘い
しおりを挟む王都で王太子の側近をつとめるファゼリー伯爵エドガーは、弟のジョナサンから連絡を受け、大量の仕事を残したまま、王都から急遽かけつけた。
そのため、いつまでも田舎の領地でゆっくりしてはいられず。
エドガーはジュリーの父親との話し合いが済んだら、一刻も早く王都へ帰らなければならなかった。
だが…
『ジュリー、久しぶりに馬で丘の上まで行かないか?』
婚約解消が決まった翌日、王都へ立つ前にエドガーはジュリーに面会を求めて来た。
「ふふふっ…」
私は時々、1人で丘のうえまで行くけれど… エドガーはもう何年も、あの場所へは行っていないのね?
使用人に渡されたエドガーからの手紙を見て、ここ数日ジュリーから消えていた笑顔が浮かんだ。
「良いわ、久しぶりにあなたの顔も見たいし、お供するわ」
エドガーの顔を見たら、元気が出そうだし。
田舎にあるエドガーが育ったファゼリー伯爵家の本邸は、ジュリーが暮らすセイフォード男爵領から、馬で1時間半ほどの場所にある。
ジュリーの母親がファゼリー伯爵家の出身で母親同士も仲が良く、 2人は従兄妹同士でもあり、幼馴染でもあった。
「私もいつまでも、落ち込んではいられないわ。 王都で頑張っているエドガーに、 じめじめした顔を見せるのは恥ずかしいもの」
辛くても… これ以上、自分を憐れむのは、やめないとね。
ジュリーはエドガーの手紙をそっと胸に抱きしめた。
ファゼリー伯爵家の兄弟は王都の学園に入るまでは、セイフォード男爵家の姉妹と、頻繁に会っていたが… ジュリーは男爵邸から一番近くにある女学院へ進んだため、ほとんど会うことが無くなっていた。
先代伯爵が王族に仕えていたのが縁で、当時ファゼリー伯爵の後継者だったエドガーも、学園を卒業すると王太子の側近となり王宮で働くようになった。
弟ジョナサンは学園を卒業し、しばらくの間は王都で暮らしていたが、先代伯爵が亡くなる少し前に、田舎の本邸にもどった。
兄のエドガーは伯爵領の運営は、優秀な領地管理人にまかせ、現在は王都の伯爵邸で暮らしている。
「滅多に会えない人に会えるのだから… 元気な顔を見せないと」
どうせなら… 彼の心に私の良いイメージを残したいわ。
アリアーヌとジョナサンの浮気を目撃して以来、部屋に閉じこもっていたジュリーは、エドガーの誘いを受け入れ、乗馬用のドレスに着替えた。
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