婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん

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3話 男爵と伯爵 エドガーside

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 ――― 1週間後。

 ジョナサンから連絡を受けて急遽きゅうきょ、王都から男爵邸へかけつけたジョナサンの兄、ファゼリー伯爵エドガーは、ジュリーの父セイフォード男爵と話し合うこととなった。

「セイフォード男爵、私の弟が迷惑をおかけして申し訳ない」
 まったく… 弟のジョナサンにも困ったものだ。
 いきなり早馬はやうまで王都の伯爵邸タウンハウスに、連絡を寄こし、婚約者を姉から妹に交代させろだと? 学園生時代に散々遊びまわっておいて… 父上が亡くなり、ようやく落ち着いたと思ったら… この忙しい時に、クソッ!

「いや… こちらこそ王宮の忙しい職務を置いてまで、わざわざ来てもらって申し訳ない」
 エドガーは男爵夫人のおいにあたり、近い親戚しんせき同士ではあるが、男爵とは血のつながりはない。
 年齢差も親子ほど離れているが… 王太子の側近を務めるエドガーに男爵は敬意を表し、伯爵位を継いでからは特に丁寧ていねいな対応をするようになった。


 応接間のテーブルに、使用人がお茶を用意して退室すると… エドガーは出されたお茶には手を付けず、口を開く。

早速さっそくですがセイフォード男爵、ジュリー嬢と弟ジョナサンの婚約は、すぐにでも解消しましょう。 ここで2人を無理に結婚させれば、男爵家と伯爵家は横暴おうぼうで冷たい者ばかりだと、さらに醜聞しゅうぶんが大きくなるでしょうから」
 とにかく話をまとめて、さっさと王都へ帰ろう。

 ファゼリー伯爵エドガーは、無駄な雑談をはぶき、問題にとりかかった。

「確かに… 使用人たちにも知られてしまい、ジョナサンとアリアーヌの関係を、隠してはおけませんから」
 ジュリーの父、セイフォード男爵は大きなため息をつく。
 
「セイフォード男爵、後から2人の関係が周囲に知られるよりは、結婚をする前にわかって、良かったではありませんか?」
 疲れた顔をしている男爵を… 2年前に父から伯爵位を継承したばかりの若いエドガーがなぐさめた。

「ええ、それはそうですけど…」

「そこでセイフォード男爵、どうせ醜聞しゅうぶんになるのだから、面倒ごとは1度で終わらせてしまった方が、良いとは思いませんか?」
 正直、私自身が目が回るほど忙しい。 これ以上、田舎と王都を行ったり来たりして、時間を無駄にしたくない。

「1度ですませるとは…?」
「ええ… 準備していた結婚式の花嫁を、ジュリー嬢からアリアーヌ嬢にかえて行うのです」

「それは… いくらなんでも…」
 あまりにも突飛とっぴな提案に、男爵が困惑を隠せずにいると…
 エドガーは、弱気な男爵の不安をあおるように話を続けた。

男爵邸こちらへ来る途中、近くの町で食事をとったのですが… すでに、ジョナサンとアリアーヌ嬢の醜聞は、広がりつつありました。 ですから2人の結婚を1日でも早く行わなければ…」

「そ… そこまで?」

「招待状を送る前ですし。 招待客も近隣の貴族に限定すれば良いのでは?」
「確かに、その通りですが…」

「……」
 結婚式を行うのも王都から遠く離れた田舎の、セイフォード男爵領内の小さな神殿だ。
 それも、領地をほとんど出ることのない、男爵家の次女と、伯爵家の次男の小さな結婚式だ… 上手くやれば、醜聞を最小限でおさえられる。
 何より、気分屋のジョナサンが、アリアーヌ嬢への興味を失う前に、結婚させてしまいたい。

 色々な思惑おもわくがあるエドガーは、自分の意見を通そうと… しばらくの間、男爵をジッ… と黙って見つめる。
 エドガーは金色の瞳から放った、するどい視線で圧力をかけ、その場の空気を支配した。

 男爵とエドガーに、親子ほどの年の差があっても… 王太子の側近として、毎日、腹黒い上級貴族たちに囲まれて働くエドガーの方が、押しの強さや精神の強靭きょうじんさでは男爵に勝っている。

 エドガーの圧力に負けて、男爵はハァ―――ッ… と長いため息をつく。
「わかりました。 結婚式は予定通り行うとしましょう」

「ええ、それが良いですよ」
 男爵家に面倒なジョナサンを押し付けるようで悪いが… 先にジョナサンを婿養子むこようしに欲しいと申し込んだのは、男爵の方だと亡くなった父上に聞いた。
 ついでに病弱な妹のアリアーヌを、私と婚約させようとしたらしいが? そっちは断って正解だったな。 父上に感謝しないと。



 男爵の説得に成功し、エドガーは力強くうなずき微笑んだ。





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