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18話 ギリスの思惑 ギリスside

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 侯爵家の執事にギリスは追い出され… ブツブツと口汚くののしりながら、ガルフェルト侯爵邸の玄関ホールを出た。


「クソッ…! なんでこの私が、執事ごときに追い返されなければ、いけないんだ!! 王立騎士団の執務室へ来いだって?!」

 門へ向かうとちゅうでギリスはピタリッ… と足を止めた。
 
「いや、ここで簡単に帰ってはダメだ! 絶対、団長に会わなければ… 私が会いに来たことを、あの執事が団長に、伝えていないに決まっている!」
 王立騎士団時代、団長は私に口では厳しいことを、言っていたが… 本当は私の実力を認めていて、近衛にまで推薦すいせんしてくれたんだ! 今は会わないだなんて… 団長がそんな薄情はくじょうなことを、言うはずがないだろう?!
 生意気なまいきな執事だ!! あんなやつはクビにするよう、団長に忠告してやろう!

 執事に追い払われたギリスは、あきらめられずに屋敷の裏庭へまわり、こっそりと敷地の奥へ入ってゆく。


「クソッ!」
 せっかく近衛騎士団へ移籍いせきしたのに… あの性悪で我がままな王女のせいで、今までの苦労が全部ムダになったじゃないか!
 だが、私はこんなところで、終わるような人間じゃないからな?!
 もう一度、王立騎士団へ戻って、今度は王立騎士団の騎士団長になってやる! 私の能力なら、絶対に出来るはずだ! 私は他の凡人ぼんじん騎士たちとは違う!! 

 玄関前の大きな庭は、左右対称に整然と花や木を並べた整形庭園だが…
 小さな裏庭は、庭師ガーデナーたちが田舎にあるガルフェルト侯爵領で採取した、草花やハーブを育てて、丁寧ていねい移植いしょくし、マリエルの好みにあわせた、田舎道をイメージして作られている。

 そんな裏庭の道端みちばたで咲く、白や黄色の小さな草花たちを… ギリスは何の躊躇ちゅうちょもなく、乱暴にみつぶして庭の奥へとすすんだ。
 
「とにかく! 副団長…」
 …ではなくて、騎士団長に直接会って、王立騎士団への復帰を認めてもらわないと! それまで私は、何もできないじゃないか?!」



 クスクスと笑う人の声がどこかから聞こえ、ギリスはピタリッ… と足を止めた。
 どこから声が聞こえるか、キョロキョロとまわりを見まわすと…

「あっちか?!」
 道ではない木と木のあいだを、ガサガサと強引にかき分けて抜け、奥に石造りのあずま屋ガセボを見つけた。

 騎士団長のセインは、ギリスに背中を向けて座っていたが、その隣で、ミントグリーンの軽やかなドレスを着た、滅多めったに見ない美しい貴婦人が立っている。

「誰だ…、あの女性は?!」
 確か騎士団長は、私がすてたタムワース男爵家のマリエルと結婚したと聞いたが…? あれは聞き間違いだったのか?!

 ギリスは自分の記憶にある、マリエルを思い出す。


 結婚前のマリエルは、貧乏男爵家を支えるために、自分のことはいつも後回しにして、双子の弟たちを優先していたため……
『お母さまのドレスは、良い生地を使っているから… まだまだステキだわ!』 
 ドレスも亡くなった母親が、若いころ着ていた流行おくれの古い物を、マリエルは自分でつくろい直して着たりと、質素しっそで化粧っけもなかった。

 以前のマリエルはギルスの目に…
『頬や身体もせて、なんて貧相ひんそうな娘なんだろう…?!』
 …という姿に見えていた。

 だが、今ギリスの視線の先にいる貴婦人は、自分を溺愛できあいする夫を喜ばせるために…
『マリエルはそういう色が、似合うなぁ? 綺麗な瞳が、もっと輝いて見えるよ!』    
 愛する夫がめた、淡い色のドレスを着て、薄く化粧をした美しい姿だった。 


 セインと貴婦人がいるあずま屋ガセボまで、ギリスがもう少し近づくと、何を話しているのかが、はっきり聞こえた。

「マリエル、久しぶりに観劇かんげきに行かないか?」
「まぁセイン! 今は、お忙しいのでしょう? 無理はしないでくださいな?」

「いいかい、マリエル…? 君の夫は、子育てに奮闘ふんとうする妻をねぎらうために、観劇へ連れて行けないほど、無能な男ではないよ?」
 夫は、子育てを乳母まかせにしない生真面目きまじめな妻を、疲れはててしまわないかと、心配しているのだ。

「嬉しいわ、セイン!」



「・・・っ?!」
 マリエル?! まさか… あの女なのか?! 本当にあの貧乏な男爵令嬢なのか?!

 ギリスは信じられないと… 目をむいた。





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