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50話 一休み

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 ミレイユとクレマンは王宮に入ってから、それほど時間は過ぎてはいなかったが、2人はひどく疲れを感じていた。
 
「お母様… あまりの人の多さに、私… 疲れてしまったわ?」
 ああ、たくさんの人の中にずっといるから、頭痛までする…

 ミレイユはこめかみを押さえて、ハァ―――ッ… とため息をつく。

「ファーロウ夫人、母上… 少しだけミレイユと外に出ても良いですか?」
 夜会に招待された大勢の人に酔い、疲れた顔をしているミレイユを気づかい… クレマンは王宮の庭へ出る扉をチラリッ… と見ながら、2人の母親たちに許可をもらおうとたずねた。

「あまり遠くに行かなければ大丈夫かしら…?」
「ええ、そうね… 私たちの目が届くところにいてね、クレマン?」

 ミレイユの母は同意し、クレマンの母もうなずいた。

「はい、扉の近くにいます…」
 母親たちに言い残し、クレマンはミレイユを外へ連れ出した。



「ああ… 疲れたよぉ~…!」
「もう、へとへとだわ…?!」

 2人は扉の外へ出たとたん… そろって愚痴ぐちをこぼす。
 人の数だけ熱気がこもった室内とは違い、外の空気はひんやりと心地ここち良かった。

 ミレイユとクレマンのように、人の多さにうんざりし、扉の外へ逃げ出して来た人たちが… 一定間隔いっていかんかくで置かれたランタンの明かりで照らされた、庭の奥へと続く散歩道をのんびりと歩いて行く姿が見える。

「このまま、庭園まで夜の散歩がしたいけれど… さすがに僕たち、2人だけで行くのはまずいからなぁ…?」

「そうね… 今夜は満月で夜空も美しいから… 本当に残念ね…」
 ミレイユは空を見あげて微笑んだ。  
 
「……っ」
 そんなミレイユをクレマンは、しばらくの間見惚みほれていた。

 カチャッ… とミレイユたちが出て来た扉が背後で開く。
 新たにもう1組のカップルが、手にグラスを持ったままあらわれ、シャンパンを飲みながら談笑を始める。

「ああ… なんだかのどがかわいたわ……」
 他人が美味しそうにシャンパンを飲む姿を見るうちに、ミレイユは急にのどのかわきを感じ、むしょうに飲み物が欲しくなる。

「何か飲み物を取ってくるよ… ここで待っていてくれる?」
 自分たちのまわりを見てクレマンは、何組かのカップルが、楽しそうに話し込んでいる姿があるのを確認する。

「ええ… お願いクレマン!」
 もう、のどが渇いてカラカラだわ!

「ふふふっ… わかったよ、大急ぎで取って来る!」
 出て来た扉から戻って飲み物を取りに行く、クレマンの後ろ姿を見送った。
 1人でいても目立たないよう、ミレイユは扉の前から建物の陰へと移動する。


 シャンパンを飲み終わったカップルが空のグラスを、庭へおりる階段わきの小さな噴水ふんすいに置き、ランタンで照らされた散歩道を歩いて行く。
 周囲にいた人たちは、いつの間にか散歩道に入って行き、その場にはミレイユ1人だけが残された。


「……」
 クレマンはまだかしら? 

 自分が思っている以上に、ミレイユは疲れていたらしく、視線を暗い足元に移しぼんやりとしてしまう。


 ザリッ… ザリッ… ザリッ… と地面をみしめ近づいて来る足音が聞こえ、ミレイユは顔を上げた。

「…クレマン?」

 暗くて誰かはハッキリしないが… 男が無言で近づいて来る。
 ドクンッ…! とミレイユの心臓が、胸の中で跳ねた。




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