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44話 陰口3
しおりを挟むクレマンたちに、自分からケンカをしかけておいて、アルブライトン公爵家の次男ジョゼフは、都合が悪くなるとその場から逃げ出した。
ジョゼフの友人も後を追う。
「もう… あの人は何がしたかったの?」
急いで食堂から歩き去る、ジョゼフの後ろ姿をにらみながら、ネリーが嫌そうにつぶやいた。
「人に論文を書かせて、不正をしたと言っていたけれど… 本当なの?」
信じられないわ?! あのジョゼフと言う人は、そんな恥ずかしいことをしておいて、クレマンや私を侮辱したの?!
「うん、そうらしいよ? な、ドミニク?」
立ちあがってジョゼフをにらみつけていたクレマンは、ミレイユにたずねられ… 椅子に腰を下ろしながら、隣に座るドミニクに視線をうつす。
「あいつは僕と同じ時期に、論文を出す勉強を始めたから… 他の2人と一緒に、僕たちは学園長の指導を受けたんだけどね…」
ドミニクがいう指導とは、休日や講義の終った午後を利用し、少人数の学園生に教師や学園長が付いて、議論をまじえながら参加型の講義を受けることである。
そのため、普段学園生たちが集団で受けている講義よりも、もう一歩ふみ込んだ、レベルの高い内容となるのだ。
ちなみに『領地運営の基礎』を学び始めたばかりのミレイユは、年下の男子学園生と一緒に指導を受けている。
「でも… 自分で論文を書かないと、他の学園生たちと議論なんて、出来ないのではないかしら?」
だって… その時によって、学園長とも議論するでしょう?
ミレイユが首を傾げていると…
「さすがだね、ミレイユ!」
クレマンがニヤリッ… と笑った。
ドミニクがミレイユの疑問に答える。
「ミレイユが言う通り、ジョゼフは僕たちと議論ができずに、学園長に論文の内容を聞かれても、何も答えられなかったよ… それ以来、ジョゼフは指導されなくなったし、学園長もそのことについては触れなかった」
ジョゼフが不正をしたとしても、希望者にのみ指導する勉強のため、学園で公式に処罰されることは無く…
逆に言えば、学園長や教師たちの善意で行われるため… 教師たちは指導を行う義務も無い。
「あっ… そうだわ?!」
お父様にクレマンが勉強を始めたことを報告した時に、言っていたお話は… こういうことなの?!
『学園の成績が良いだけの、応用がきかない無能な者がよくいるんだ…』
『そんな愚か者が、間違って文官試験に受からないように…』
「ねぇクレマン? もしかして… あのジョゼフと言う人も、下級文官の試験を受けるつもりなのかしら?」
だとしたら… ジョゼフはお父様が、1番嫌いなタイプの人だわ…!
「確かに… 以前はジョゼフも、受けると言っていたけどね…? 僕が文官の試験を受けると話したとたん… あんなふうに、ガラリと態度が悪くなったんだよ?」
クレマンは人あたりの良さから、それまでジョゼフとも良好な友人関係を築いていたが… 今ではジョゼフを敵認定している。
恐らくジョゼフのほうも、クレマンを敵認定しているのだろう。
「裕福なアルブライトン公爵家の出身でも… ジョゼフは僕と同じで次男だから、いずれ家を出るか… 長男の補佐をするかだし…? 文官になろうと思ったようだね」
しみじみとドミニクが言うと… 気分を落ち付けるために、お茶を飲みながらネリーが口を開く。
「話だけを聞いていると… あの感じの悪いジョゼフは、クレマンにライバル心を燃やしているように、聞こえるけれど?」
「クレマンだけではないよ? 僕もだけど… ミレイユやネリーまで勉強を始めたから… 不正して挫折したジョゼフのプライドは、今頃こなごなに砕け散っているだろうね?」
少しだけお行儀悪く、ズズッ… と食後のお茶を飲みながら、賢いドミニクは結論を綺麗にまとめた。
「……」
あんなふうに私たちを侮辱するから、よけいに自分の傷口を悪化させているように見えるわ…?! あのジョゼフという人は、なんて愚かなのかしら?
ハァ―――ッ… とミレイユが大きなため息をつくと… 向かいがわの席でクレマンも、続けてハァ―――ッ… とため息をつく。
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