44 / 59
43話 陰口2
しおりを挟むいつもの仲の良い4人で、昼食の時間を楽しんでいると… 近くのテーブルから、悪意の籠った言葉を投げつけられた。
「クレマンの奴… ファーロウ家の娘に媚びを売ってやがる! 情けなくて見ていられないな?!」
ミレイユはハッ… と息をのみ、隣に座るネリーの顔を見ると… ネリーもミレイユを見た。
「……っ?」
「……?!」
すぐに悪態をついた主が誰か… 確かめようとするほど、女子2人はずぶとくなかったため、動きを止めて身体を強張らせる。
だがクレマンとドミニクは、サンドイッチを食べるのをやめて、顔をあげると声の主を見つけてにらみつけた。
「ジョゼフ! 婚約者のミレイユを、僕が心から尊敬しているから出た、正直な言葉を… 君の歪んだ醜い価値観で曲げないでくれるか?」
とても丁寧だが、クレマンはとても失礼な内容でアルブライトン公爵家の次男、ジョゼフに抗議した。
ジョゼフは鼻で笑い、クレマンに言い返す。
「歪んでいるのはお前の方だ、クレマン! 最近は講義室の幽霊みたいな奴と、一緒にいるかと思えば… 今度は、男の真似をする生意気な婚約者をほめて媚びを売って! そんなんで惨めにならないのか?!」
「ジョゼフの言う通りだ、クレマン!」
「ああ、本当に見ているこっちが、恥かしくなってくる!」
同じテーブルに着く、ジョゼフの友人2人が嘲り笑いながら… ドミニクを見て、順番にミレイユとネリーを見た。
「な… なんて、嫌な人たちなの…っ?!」
隣から、ネリーの怒りに耐えかねてもれた声が聞こえ…
ミレイユも黙っていられなくなり、ななめ後ろの席に座るジョゼフたち3人を、クレマンと同じようにキッ…! とにらみつけた。
「私たちの話を盗み聞きするような、不作法な人たちの方が、ずっと情けなくて惨めに見えるわ?!」
ドミニクが家庭の事情を打ち明けてくれたから… 私たちは価値のある、素晴らしい話をしていたのに?! なぜ、関係ない人達が邪魔をするの?!
今までのミレイユなら、黙りこんで怯えていたところだったが… ジョゼフの暴言に腹をたて、しっかりと言い返した。
ミレイユは学園長の指導を受けながら、男子学園生たちと同じ科目を学び、何度かクレマンと議論を戦わせてみたりしている。
そんな毎日をすごすうちに、以前のミレイユには無かった、自信と強さが自然と芽生えて来たのだ。
「なんだと、こいつ… 生意気な…っ?!」
薄ら笑いを浮かべていたジョゼフは… ミレイユに盗み聞きしたと指摘され、顔を赤くして怒り出す。
「紳士なら… 私たちの話がたまたま聞こえても、黙って聞かないようにするはずなのに…?!」
この人は盗み聞いたうえに、私たちの話に勝手に割り込んで… 本当に失礼だわ?! 何がしたくて、こんな嫌がらせをするのかしら?!
「この…っ!!」
ジョゼフがガタッ…! と椅子を蹴倒しながら、立ちあがる。
クレマンも勢いよく立ちあがると、自分の席を離れてミレイユとネリーを隠すように、ジョゼフの前に立つ。
「ジョゼフ! 君は東方の国の有名な教訓で、“やぶ蛇”…という言葉を知らないのか?!」
(やぶ蛇→余計な手出しをして、かえって災いを招くこと)
すらりと高い身長をいかして、クレマンは頭半分背が低いジョゼフを威嚇するように見下ろした。
「な… なんだと?! 何が言いたいんだ、クレマン!」
クレマンを見あげることに屈辱を感じているのか、ジョゼフの手が震えていた。
「ああ… クレマン、もしかしてあの話を確かめたのか?!」
それまで黙っていた、ドミニクがのんびりと口をはさんだ
「うん…! ジョゼフが誰かに課題図書を読むのを任せて、かわりに論文まで書かせたという話だ!」
クレマンはニヤリッ… と笑って、ジョゼフを見た。
近隣国との外交問題について書かれた本に、東方の国の『藪をつついて蛇をだす』という教訓を使って、いくつかの問題を説明した章があるのだ。
その課題図書をジョゼフも読んでいれば、すぐに意味を理解できたはずだった。
「そこにいるジョゼフは、そうやって自分で課題をやらずに人にやらせて、不正をしたせいで、学園側から論文の評価を拒否されたらしいよ?」
ドミニクはモグモグと再びサンドイッチを食べながら、ミレイユとネリーに暴露した。
「あら、あら、あら、あら…!」
「恥ずかしい?!」
ミレイユとネリーは2人そろって、ジョゼフを軽蔑の眼差しで見つめた。
「クソッ…!」
ジョゼフは逃げ出すように、あわてて食堂を去った。
25
お気に入りに追加
1,573
あなたにおすすめの小説
巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません
せいめ
恋愛
「アナ、君と私の婚約を解消することに決まった」
王太子殿下は、今にも泣きそうな顔だった。
「王太子殿下、貴方の婚約者として過ごした時間はとても幸せでした。ありがとうございました。
どうか、隣国の王女殿下とお幸せになって下さいませ。」
「私も君といる時間は幸せだった…。
本当に申し訳ない…。
君の幸せを心から祈っているよ。」
婚約者だった王太子殿下が大好きだった。
しかし国際情勢が不安定になり、隣国との関係を強固にするため、急遽、隣国の王女殿下と王太子殿下との政略結婚をすることが決まり、私との婚約は解消されることになったのだ。
しかし殿下との婚約解消のすぐ後、私は王命で別の婚約者を決められることになる。
新しい婚約者は殿下の側近の公爵令息。その方とは個人的に話をしたことは少なかったが、見目麗しく優秀な方だという印象だった。
婚約期間は異例の短さで、すぐに結婚することになる。きっと殿下の婚姻の前に、元婚約者の私を片付けたかったのだろう。
しかし王命での結婚でありながらも、旦那様は妻の私をとても大切にしてくれた。
少しずつ彼への愛を自覚し始めた時…
貴方に好きな人がいたなんて知らなかった。
王命だから、好きな人を諦めて私と結婚したのね。
愛し合う二人を邪魔してごめんなさい…
そんな時、私は徐々に体調が悪くなり、ついには寝込むようになってしまった。後で知ることになるのだが、私は少しずつ毒を盛られていたのだ。
旦那様は仕事で隣国に行っていて、しばらくは戻らないので頼れないし、毒を盛った犯人が誰なのかも分からない。
そんな私を助けてくれたのは、実家の侯爵家を継ぐ義兄だった…。
毒で自分の死が近いことを悟った私は思った。
今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。
それよりも、こんな私を最後まで見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。
そして私は死んだはずだった…。
あれ?死んだと思っていたのに、私は生きてる。しかもなぜか10歳の頃に戻っていた。
これはもしかしてやり直しのチャンス?
元々はお転婆で割と自由に育ってきたんだし、あの自分を押し殺した王妃教育とかもうやりたくたい。
よし!殿下や公爵とは今世では関わらないで、平和に長生きするからね!
しかし、私は気付いていなかった。
自分以外にも、一度目の記憶を持つ者がいることに…。
一度目は暗めですが、二度目の人生は明るくしたいです。
誤字脱字、申し訳ありません。
相変わらず緩い設定です。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる