上 下
40 / 59

39話 淑女をやめたミレイユ クレマンside

しおりを挟む
 自分も論文を出す勉強がしたいのだと、ミレイユから打ち明けられ… 思わずクレマンは黙りこみ、眉間みけんにしわを寄せた。
 
「……」
 勉強?! 僕と同じ勉強かぁ… うう~んん……?

 クレマンはしぶい表情を浮かべた。

「やっぱり、あなたも反対なのね、クレマン!?」
 腕の中から顔をあげたミレイユは、クレマンのしぶい表情を見あげ…    
 顔を真っ赤にして、ドンッ…! とクレマンの胸を突き飛ばし、華奢きゃしゃな身体を離した。

「やっ…?! 違う、違うよ… ミレイユ!」
 ええええ?! ミレイユ、何でそうなるんだ?! 僕は少しも反対なんて、していないのに?!

 クレマンはあわててミレイユの手を取ろうとするが、パシッ…! と振り払われてしまう。 

「私には… あなたのように、出来ないと思っているの?! それとも、女の子は勉強なんて出来ない方が、可愛いと思っているの?!」
 大きな瞳に涙を浮かべて、怒鳴るミレイユに… クレマンは首を大きく横に振った。

「ミレイユ違うよ! 僕はミレイユが勉強するのは、大賛成だいさんせいだよ!」

「…うそっ!! だったらなぜ、そんな嫌そうな顔をするの?!!」
 勇気を出して伝えた気持ちを、クレマンに反対されたと… 怒鳴りながら、ミレイユは涙をポロポロとこぼす。
 
 クレマンの前で淑女しゅくじょをやめると宣言したミレイユは、さっそく淑女らしからぬ大きな癇癪かんしゃくをおこした。

「ミレイユ…?!」
 うわっ?! こんなに短気なミレイユは初めて見たぞ?! うわわっ…?!

 なだめようとクレマンがのばした手を… ミレイユは、小さなこぶしを振りまわして、拒絶する。

「いやいやいやいやっ…! ミレイユ、本当に違うから…?! 僕と君とでは… 学園で学ぶ講義の内容が違うよね…?! 論文を書く勉強の仕方をするにしても… 僕やドミニクとは、まったく同じ内容の勉強じゃないなぁ? …と思っていただけだよ?!」
 同じ学園生でも、騎士課の学園生と、男子と、女子では、普段からそれぞれ、学舎がくしゃで受けている講義の内容が違うから…?! うわっ… どうしよう?? さっそく、ミレイユを泣かせてしまったぁ…!! うわあぁぁぁ!!!

 軽いパニックになるクレマン。

「……?!」
 クレマンに言われて、自分の勘違いかんちがにきづき、ピタリッ… 怒鳴るのをやめたミレイユ。
 
「僕にはほとんど、君に助言ができないから… 君の望みをかなえるには… 誰に頼めば良いのか、考えていただけなんだけど?!」

「……あ」
 ミレイユの瞳からこぼれ落ちる涙が止まる。

「僕は男だから、同じ男のドミニクに教えてもらったけれど?! ドミニクに、女子のことを聞いても… わかるかなぁ…? と思って?」

「本当に?」
 ミレイユは涙で濡れた目元を指でぬぐう。

「ミレイユ、本当に誤解だよ?」
「まぁ……」
「だって… ミレイユと一緒に、別館べっかんの図書室で勉強をできるかもしれないし?!」

「あらっ……?」
 目をり上げて怒っていたミレイユの表情が、恥ずかしそうな表情へと変わる。

「少しでも長くミレイユのそばにいられるのなら、僕としては大歓迎だし…?」
「クレマン……!」
「とりあえず… 勉強のことは、ドミニクに聞いてみようか…?」
「ええ……」

「良かった……!」
 クレマンは振り払われないかと、ビクビクッ… とおびえながら、恐る恐るミレイユの小さな手を取る。
 おとなしくなったミレイユに、拒絶されないとわかると、クレマンは少し大胆だいたんになり、手のこうにキスをして… ニコリッ… と笑った。
 恥ずかしそうなミレイユも、つられてフワリッ… と笑う。

 リンッ…! リンッ…! 
 クレマンのポケットの中で、休憩時間の終わりを告げる、懐中かいちゅう時計の時鐘ソヌリが鳴った。

「いけない! 早く学舎にもどらないと、講義に遅刻してしまう!」
 ううっ… クソッ! ちょうど良いところだったのに?!

「本当だわ、急ぎましょう!」

「少し走ろう…!」
 ミレイユとクレマンは手をつないで、仲良く学舎に向かって走った。



 
 午後からの講義が始まっても… クレマンのニヤニヤ笑いは止まらなかった。

「……」
 ああ~… 可愛かった! ミレイユが僕の前で癇癪かんしゃくをおこすなんて…? すごく新鮮で、本当に可愛かった!! 淑女しゅくじょをやめたミレイユが、あんなに可愛いなんて…?! さっきは僕の心臓が、爆発しなかったのが、不思議なぐらいだよ?!
 あ~… 早く図書室へ行きたいっ…!! ミレイユに会いたい!
 
 さぁ、何がなんでも頑張るぞ!!

 パトリシアの騒動以前よりも… 自分のミレイユへの気持ちが、日々強くなってゆくのがわかり… クレマンは婚約破棄されなくて心底、良かったとあらためて思う。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

処理中です...