従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。

みみぢあん

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38話 淑女をやめる2

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 驚いてピタリッ… と足を止めてしまったクレマンに合わせて、ミレイユも足を止めた。
 

「ミレイユ… 淑女しゅくじょをやめる… て?!」 

「クレマン、私ね… いつもあなたには、私のことを素敵な女の子だと、思っていて欲しかったから、ずっと完璧な淑女しゅくじょでいようと、今まで努力してきたわ…!」
 クレマンと向き合い、ミレイユはジッ… と顔を見上げた。

「うん、確かに僕が知っている中でも、ミレイユは一番の淑女だと思うよ…?」
 自分が愛する女の子は、誰よりも完璧だと… クレマンは、クレマンらしい素直な意見を口にした。 

 クレマンにほめられて、少しれてしまったミレイユは、ほほをピンクにそめて… コホンッ… とせきばらいをしてから、話を続ける。

「と… とにかく私は、あなたがパトリシアを優先していた頃、『パトリシアなんて見ないで、私だけを見ていて』と、いつも心の中ではみにくい嫉妬心を燃やしていたの…」

「そんなふうには、少しも見えなかったよ…? いつも君はおだやかに笑っていたから… でも、そうだったのか?!」
 クレマンもミレイユが笑っていても、寂しそうにしているのは、わかっていた。
 …だが、クレマン自身がパトリシアを、『妊婦にんぷの妹(従妹)』としか見ていなかったせいで… ミレイユが嫉妬心を抱くとは、思わなかったのだ。
 
「そうよ… 私は『淑女』だから、従妹を大切にするあなたに、嫉妬している私のみにくい姿を、絶対に見せたくなかったの! だから、強い怒りや屈辱くつじょくを感じていてもクレマンには隠していたわ」 
 何度も腹をたてて、怒鳴り散らしてやりたかったけれど… でも淑女なら、我慢するべきだと思っていたわ?! お母様にも…『結婚するまで、殿方とのがたに女性の本音を見せてはだめよ』と言われていたし…。
 それに婚約者としてのプライドもあった。

 
「ごめんよ、ミレイユ… 本当に… 何て謝れば良いか、わからないよ!」
 腕をのばしミレイユを抱きしめようとするが… クレマンは自分の抱擁ほうようこばまれるのではないかと、躊躇ちゅうちょする。

「だから私、あなたの前では淑女をやめたいの! もう、本音を隠すのはうんざりだから!」
  ミレイユは無意識で、自分を守るように胸の前で腕を組み… 話し終えると視線を足元に移す。

「クレマンがこんな私は嫌なら、今すぐ婚約解消しても、かまわないわ?!」
 
「ミレイユ…っ…!」
 ミレイユの華奢きゃしゃな肩が、密かに震えていることに気づいたクレマンは、躊躇ちゅうちょするのをやめて… 下を向くミレイユをギュッ… と抱きしめた。

「あ… あなたに… たくさん我がままを、言うつもりだからね! だってパトリシアは、いっぱい言っていたでしょう?! 淑女だからって、私は我がままを言えないなんて、不公平だわ?!」
 下を向いたとたんに、なぜかミレイユの目が熱くなり、涙がにじみだす。

 パトリシアなら顔を上げて同情をひこうと、クレマンに涙を見せつけるところだが… 完璧な淑女が抜けないミレイユは、クレマンに見つかる前に、指先でサッ… と涙をぬぐう。

「我がままを言っても、ミレイユは完璧な淑女だよ?!」
「どうして?」

「だって君は… 僕に何を求めているのか、親切に教えてくれるのだから… それって、僕が君に好かれるためのヒントだろう?」
 人よりも鈍感な自覚があるクレマンには、ミレイユの我がままは、ありがたい申し出にしか思えなかった。

「そ… そうね! 私の我がままをたくさん、聞いてくれたら… あなたのことを、好きになるかも知れないわね?!」
 ぬぐっても… ぬぐっても… 涙がこぼれてしまうわ?! もう、嫌!! 私の泣き虫! こんな時に、なぜ涙が出るの?!

 なぜ、涙がとまらないのか? それは今までのミレイユが我慢に我慢を重ねて、言いたいことを言えずに耐えて来たからである。


「ミレイユには、たくさん我がままを言ってもらわないと!」
 小さな背中をなでながら、クレマンはミレイユの頭の上にあごをのせた。

「だったらクレマン、お言葉に甘えて言わせてもらうけれど… 私も… あなたみたいに勉強がしたいわ?」
「んんん?!」

「私も論文を出す、勉強がしたいの…!」
 お母様は… 『賢すぎる女の子は殿方に嫌われるものよ』と、勉強をやり過ぎないようにと、注意されるけれど… クレマンも賢い女の子は嫌いかしら?!

 淑女として完璧なら、『少しぐらいおろかな方が愛嬌あいきょうがあり、女の子は幸せになれる』というのが… ミレイユの母が、祖母から受け継いだ持論じろんである。

「僕たちがやっている… ことをかい?!」

「ええ、私も変わりたいの!」
 ミレイユは… クレマンの腕の中でささやいた。




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