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31話 惚気(のろけ)

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 昼食が終わり、それぞれの学舎がくしゃへ戻ろうと4人が席を立ったところで… ふとミレイユは、疑問に思ったことをドミニクにたずねた。

「ねぇ、ドミニク?」
「…何だい?」

「あなたは… ギヨームの話を聞いて、クレマンとパトリシアが本当に浮気をしているとは、少しも思わなかったの?」
 私でさえクレマンが浮気をしていると… 疑っていたのに? たぶん、他の人たちも私と同じように、思っていたはずだわ?

「ああ…! ミレイユ、それはねぇ… 図書室で会うたびに、クレマンはずっと、君と出会った時の惚気のろけを、僕に言い続けていたからだよ…」
 ドミニクは少しだけ、意地悪いじわるな笑みを浮かべてクレマンを見た。

「……っ!」
 そんなドミニクの視線から逃げようと、頬を赤くそめたクレマンは… 食堂にられた壁紙を、素晴らしい絵画を見るように、熱心にながめた。

 いつも黙って話を聞いてくれる、聞き上手なドミニクは何でも話しやすく… つい、甘えてクレマンは他人には言えない惚気のろけ愚痴ぐちを、言ってしまうのだ。

「クレマンが… 惚気のろけ?」
 ミレイユが首をかしげていると、ネリーが話にいついた。

「あら、どんな惚気のろけ? 聞きたいわドミニク!」

「やっ… やめろよ、ドミニク!」
 クレマンは話すのを止めさせようとするが、ドミニクは揶揄からかう気、満々まんまんで話を続ける。

「僕が東方の算術を暗記している時でも、クレマンはおかまいなしに…『今日のミレイユは格別に可愛かった』とか… 『ミレイユは誰よりも優しくて、美しい心の持ち主なんだ』とか… 『そろそろ唇にキスをしたいけど、どう思う?』とか… 『唇にキスしてミレイユに嫌われたら僕は、生きて行けない』とか……」
「うあああああ―――っ! 大変だぁ! 壁紙にミイラ化した虫があぁっ?!!」
 ドミニクの話をさえぎろうと、耳まで真っ赤にそめたクレマンが、意味不明なさけびごえをあげた。

「まぁ……」
 唇にキス……? クレマンは私とキスしたいの? まぁ… まぁ…?!!! そんな話、初めて聞いたわ?! 男の子たちは、そんな話までするの?! もう、なんだか恥ずかしいわぁ…?!

 ポポポポッ… とミレイユは顔を真っ赤にして、足元の絨毯じゅうたんり切れて白くなった部分を、熱心に観察する。

「いきなり騒ぐなよクレマン、うるさいぞ?! …とにかく、ずっとそんな惚気のろけを聞いていたから、僕にはクレマンの浮気を、疑う余地よちがなかったよ」

「なるほど、クレマンが惚気のろけね…!」
 ネリーがクスクスと笑う。 

「でも最近はその惚気がピタリと止んで、我がままな従妹の愚痴ぐちばかりこぼしていたから… 正直、うんざりしていたんだ! まぁ、彼女は妊娠してたらしいし、それでクレマンが従妹の我がままに、厳しい態度をとれなかったのも、今は少しだけわかる気がするよ…?」
 性体験のない成人前の男子にとって、女性の妊娠は未知の世界の出来事である。

「惚気の次は愚痴だなんて… 確かにそんなことばかり、聞いていたら… 浮気を疑う気にはならないわね…?」

 ネリーとドミニクは顔を真っ赤にした、ミレイユとクレマンをながめた。



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