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27話 クレマンの友人

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 クレマンのエスコートで、学園の正門前で馬車をおりると… ミレイユは学園生たちの好奇心こうきしんに満ちた、強い視線を感じた。
 食堂でパトリシアと騒ぎをおこし、以前よりもさらにうわさ話が、大きくなってしまっているのだ。


「……っ」
 このまま、くるりと学園に背を向けて、乗って来た馬車にもどり… そのままファーロウ家へ帰って自分のベッドに、頭からもぐり込みたいわ?! パトリシアと会わなくてすむのは、気楽だけど… あ~あ……  

 クレマンの腕につかまり、ミレイユは深く落ち込み、うつむいたままトボトボと学園の門をくぐる。


「おはよう、クレマン! ミレイユ嬢! なんだ… 今日は2人そろって来たのか?!」
 クレマンの友人らしき男子学園生が、チラチラとミレイユを見ながら声をかけて来た。

「……」
 私の知らない人だわ? クレマンのお友だちらしいけれど……

 ミレイユとはほとんど面識のない、男子学園生だったため… 自分の名前を呼ばれたが、クレマンに紹介されるまでは、気軽に話すことをひかえ、ミレイユは朝のあいさつも軽い会釈えしゃくだけでこたえた。

「ああ、おはよう… ギヨーム」
「それでクレマン、ミレイユ嬢とは仲直りは出来たのか?」
「仲直り?」

「だって、ほら! 君たちは食堂で、派手にケンカしていただろう?」
 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、クレマンの友人は不躾ぶしつけな質問をする。 

「……っ」
 嫌だわ、この人…! 本当にクレマンのお友だちなの?! 自分の好奇心を満たすために、私たちからパトリシアとの騒動の話を、引き出そうとしているのね?! しばらくはこういう人が、たくさん近寄って来るだろうとは、思っていたけれど… なんて不愉快な人!! 

 不快な気持ちを無表情でかくし、ミレイユは黙ってクレマンが友人のギヨームに、どんな対応をするか見守った。

「ギヨーム… 僕とミレイユはケンカなんてしていない、それにケンカしたとしても… 君になぜ、その報告をしなくてはいけないんだ?!」
 クレマンにしては珍しく、不快感をはっきり顔に出して答えた。
 そんなクレマンの態度に、友人のギヨームは驚きをかくせないようすで、意地いじの悪いニヤニヤ笑いを引っ込める。

「な… なんだよ、クレマン? 今朝けさはずいぶんと、機嫌が悪いな?!」

「…っ?!」
 本当に驚いた?! 今日のクレマンは、いつもと違うわ?!

 友人のギヨームやミレイユが驚くのも当然で、以前のクレマンなら『僕たちはケンカなんてしないさ』 …とニコニコと笑って、友人の質問を誤魔化ごまかしていただろう。
 そうやって波風を立てないで、人と付き合って行く。
 それが今まで使っていた、クレマンの処世術しょせいじゅつだった。

「ギヨーム… そんな話をするつもりなら、呼び止めてまで、僕に話しかけないでくれ!」
「クレマン…?!」

「行こうミレイユ…」
 クレマンは友人のギヨームを拒絶し、ミレイユに微笑みかける。

「ええ…!」
 本当にどうしたのかしら?




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