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13話 パトリシアの婚約者

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 兄のルドヴィクは1つずつ確認するように、ミレイユに話す。


「確か… そのクレマンの従妹パトリシアが、婚約破棄した元婚約者とは… コッドソール伯爵家のシャルルだよな?!」

「はい… そうです!」
 王都の治安維持ちあんいじがおもな仕事の、王立騎士団に所属しているから、お兄様は貴族のことも、良く知っているかただけど… まさかパトリシアがコッドソール伯爵家のシャルル様と、婚約していたことまで、知っているなんて?! 本当にお兄様はさすがだわ!

「やっぱり、あの令嬢かぁ…! うう~ん…」
 ルドヴィクはまゆをひそめて、うなり声をあげる。

 口調などから無骨ぶこつな印象を他人にあたえる兄のルドヴィクだが… 頭の中は上級文官の父親に似て、恐ろしく良く回り聡明で、ミレイユは幼い頃からそんな兄を、尊敬していた。

「お兄様、何か… あるのですか?!」

「シャルルと言えば… 何かと女ぐせが悪く、何度か上級貴族が開いた夜会で問題を起こし、出入り禁止にされた家もあるらしいと、ミレイユは知っているか?」
 兄は自分の記憶にある、パトリシアとその元婚約者の話を語り始める。

「あっ! そのお話なら… デビューした時、お母さまに聞いたことがあります!」
『コッドソール伯爵家の、シャルル様のような放蕩者ほうとうものには、けして近づくな』と、しつこく言い聞かされた覚えがある。
 シャルル様はとてもステキな男性らしく… 声をかけられ、ぼぅ~… と見惚みほれているうちに、未婚の若い女性はもてあそばれて、醜聞しゅうぶんに巻き込まれてしまうことが多いらしい。

 それでもシャルルに近づき、醜聞しゅうぶんになり破滅はめつする未婚女性が後をたないのは、シャルルの容姿が飛びぬけてうるわしく、そのうえコッドソール伯爵家が裕福だからだ。

「騎士は基本的に、口がかたいから… 仕事中に目撃したことは黙っているが…」 
「お仕事中に? 何があったのですか?!」

淑女しゅくじょのミレイユの耳には、あまり入れたくない話なのだが… シャルルが婚約者パトリシアと王宮舞踏会で、みだらな行為にふけっていたという話は… 我々、王立騎士団の騎士たちのあいだでは有名なんだ」

みだらな行為…?!」

「あれでは… 結婚前に婚約者パトリシアが妊娠したとしても、私は驚かないだろうね…」
 ルドヴィクが舞踏会を開催中の王宮内を巡回じゅんかいしていた時、実際に裏庭でその現場に遭遇そうぐうし、他の騎士たちと一緒に2人を王宮から追いだした。
 
「……っ?!」
「だから… 今さら2人が婚約破棄をするなんて、私には少し信じがたい話だよ?」

「……」
 クレマンは…… パトリシアが元婚約者と、みだらな行為をしていたことを、知っているのかしら?! もしかしてクレマンも、パトリシアと… 淫らな行為をしているの?!


 ミレイユは青ざめ、言葉を失った。





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