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3話 婚約者2
しおりを挟むファーロウ家の馬車の前で、御者と2人で話し込んでいた婚約者のクレマンは、不意にふりむき… ミレイユとネリーの姿を見つけて、ニコリッ… と笑って手をあげた。
「やぁ、ミレイユ…!」
「クレマン… なぜ、今日の昼食を一緒にとる約束を破ったの?」
私はあなたのせいで、こんなにも落ち込んでいるのに…? なぜ、あなたは、そんなふうに平気な顔で、笑っていられるの?! 前はあなたの笑顔が大好きだったけれど、今はムカムカするわ!!
婚約者の無神経な笑顔に、腹が立ち… クレマンの返事がどんな内容か予想できても、ミレイユはたずねずにはいられなかった。
「ごめんよ、ミレイユ…! 実はそのことで、君に謝りに来たんだ! 従妹のパトリシアが、不安がって泣き出してしまって… あのまま、彼女を置いて、君のもとへ行けなかったから… 本当にごめん?!」
ミレイユの怒りを感じ取り、クレマンは笑顔をサッ… と引っ込め、表情を曇らせる。
「だと、思ったわ!」
ほらね、予想通りの答えが返ってきたわ!
「本当に悪かったよ、ミレイユ! それで… 少し話をしないか?」
クレマンはチラリッ… とネリーを見た。
「私の家の馬車もむかえに来ているから… 私はここで失礼するわ!」
ネリーは心配そうにミレイユを見たが、『がんばれ!』 …とミレイユの腕をトンッ… トンッ… とたたいた。
「ネリー、本当に今日はいろいろとありがとう!」
「ふふふっ… どういたしまして! ミレイユ… また、明日会いましょう!」
「ええ… また明日ね、ネリー!」
いつも気がきくネリーに、ミレイユは感謝を込めてほほ笑んだ。
2人でネリーを見送った後… クレマンと一緒にいる姿を、好奇心をむきだしにして、視線を向けて来る学園生たちに気づき、ミレイユは小さな声でつぶやいた。
「ああ、もう… 嫌っ!」
食堂でクレマンに約束を破られたと知らずに、待ち続けていた私を… きっと、どこかで見ていた、人たちだわ?!
ミレイユは冷淡な声で、クレマンに声をかけた。
「ここは目立つから、裏庭へ行きましょ?」
「ああ、そうだね…」
「……」
これ以上、人の目にさらされて、恥かしい思いはしたくないわ!
クレマンを待たずに、ミレイユはくるりと向きをかえて、来た道をもどる。
あわててミレイユに追いつき、クレマンは隣にならんで一緒に歩く。
2人は無言のまま…
いつもクレマンが従妹のパトリシアと、密会している場所へと向かった。
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