19 / 21
18話 奇妙なウワサ
しおりを挟む留学の準備のため、学園を退学した私は… 学園から帰って来た弟のリシャールに、元婚約者のエミール様とレティシア嬢が婚約したと聞かされる。
「なんですって?! 悪い冗談だわ、リシャール」
自分の耳をうたがった。
「冗談ではありませんよ、姉上。 僕もそう思って… エミール卿の従弟にたずねてみたら、本当に2人は婚約したと言っていました」
「まぁ…… それにしても、変な組み合わせね?」
「そうなのです、姉上。 すごい格差ですよね!」
エミール様のアップトン男爵家は、3代前の当主がお金で爵位つきの土地を買って、貴族の仲間入りをした、まだまだ新参の男爵家。
それに対するレティシア嬢のロスモア伯爵家は、長い歴史のある名門中の名門。
王家に近い、バラスター公爵家のイザークと婚約していたぐらいだから。
「私とイザークぐらい格差があるわ」
いかにも、何かあるという組み合わせだわ。 気になる。
「それで… エミール卿とレティシア嬢に関する奇妙なウワサが流れていて…」
「奇妙なウワサ?」
「はい。 それが… 2人は… その、姉上と婚約していたころから愛しあっていて、学園で密会をくりかえしていたという話です」
「……2人が愛しあっているかは、聞いてみないとわからないけれど。 でも、私をだましてイザークとの関係を、聞きだそうとしていた時は… 2人は確かに密会していたはずだわ。 それを誰かに見られたのかしら?」
「なるほど! そうかもしれませんね。 それで『自分たちが結婚するために、エミール卿は姉上との婚約破棄を企てた』 …というウワサに発展したのかも?」
好奇心まるだしで、瞳をキラキラとさせる弟のリシャールに… 私は苦笑する。
「あらあら… 陰謀説まで出ているの?」
ウワサの真相が知りたくて、活発に社交活動をするお母様にたずねると…
「それならイザーク卿に聞きなさい」
「イザークに… ですか?」
「ええ。 その話は彼の方が、よく知っているから」
なぜかお母様はニヤリ… と意地悪そうな笑みをうかべる。 確実にお母様は何かを知っている。
私はお母様に言われた通り、イザークから真相を聞きだそうと、バラスター公爵家へ行く。
「ああ、その話か。 なんだもう、君の耳にまでとどいたのか」
「ええ、弟が学園でウワサになっていると言っていたわ」
「うん。 実は君が『悪女』だとウソの醜聞を広げたエミール卿に、激怒した母上がね… 逆に彼らの醜聞を作って広げたんだよ」
「醜聞を作った? 公爵夫人が?!」
わぁ~ 驚いた。 信じられない!
「うん。 母上を怒らせると、本当に怖いんだ… 君も気をつけるんだよ」
…と言いながら、イザークはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。 私のお母様と同じ反応だ。
私はコクッ、コクッ… とうなずいた。
「もう、イザークったら… 本当は自分も一緒に醜聞を流したのではないの?」
「ふふふっ… 聞きたい?」
「ええ、聞きたいわ」
「だったら、ほら! おいで」
イザークは居間のソファに座り、自分の膝をポンッ、ポンッ… とたたく。
自分の膝に座れと、私に催促しているのだ。
「イザーク! 私はもう、小さな子供ではないのよ」
「でも、話の続きを聞きたいだろう? だったら、先に報酬をくれないとね」
「もう…!」
好奇心をおさえられなかった私は… 結局、イザークの膝に座り、長い腕でガッチリと抱きしめられた。
「それで?」
「うん。 嫉妬を燃やすレティシアにうんざりした私は、彼女を無視し続けた。 それで傷ついた彼女は、エミール卿に慰められるうちに、2人は愛しあうようになった。 ……と友人知人に聞かれたら話すようにしたんだ」
その醜聞を知ったロスモア伯爵は、娘をアップトン男爵家にあわてて嫁がせることを決めたのだ。
「なるほど… でもエミール様にはその話がご褒美だったみたいよ?」
「ご褒美?」
「ええ。 弟の話だと… エミール様はレティシア嬢と婚約できて、大喜びしていたと… 彼の従弟が話していたらしいわ」
本当に最低。 エミール様は私を愛していると言っていたクセにね。
まぁ、私もイザークと婚約して、今は良かったと思っているから、おたがいさまだけど。
「エミール卿はレティシアのわがままが、怪物級だと知らないからな」
「怪物… 級?」
「プライドの高いレティシアが、数段も格下の男爵家に嫁ぐことになったのに… おだやかでいられると思う?」
「ああ! 確かに。 イザークの話を聞いただけでも、レティシア嬢はかなり、激しい性格のようだから……」
想像すると、うんざりする。
「喜んでいられるのは今だけさ。 きっとエミール卿は、地獄を見ることになるだろうね」
イザークはそう言うと、また意地悪そうにニヤリと笑う。
そして… エミール様に浮気をされて傷ついた私は、『イザークに慰められるうちに、2人に愛が芽生え婚約した』 …という話をウワサにつけくわえ……
イザークと公爵夫人は、社交界で私をロマンチックなヒロインに仕立てあげた。
バラスター公爵家の影響力は、それほど大きいのだ。
200
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
愛を疑ってはいませんわ、でも・・・
かぜかおる
恋愛
王宮の中庭で見かけたのは、愛しい婚約者と私じゃない女との逢瀬
さらに婚約者は私の悪口を言っていた。
魅了で惑わされた婚約者への愛は消えないけれど、
惑わされる前と変わらないなんて無理なのです・・・。
******
2021/02/14 章の名前『後日談』→『アザーズ Side』に変更しました
読んで下さりありがとうございます。
2020/5/18 ランキング HOT 1位 恋愛 3位に入らせていただきました。
O(-人-)O アリガタヤ・・
コメントも感謝です。
とりあえず本編の方の更新を優先させていただきますので、申し訳ありませんがコメントの返答遅くなります。
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました
よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。
そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。
わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。
ちょっと酷くありません?
当然、ざまぁすることになりますわね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる