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13話 婚約

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 ニコニコとほほ笑みながら、あつをかけてくる公爵夫人とイザークお兄様の前で、お父様と私は『格が違うから』と、簡単に婚約を断わることなどできなかった。 


「わ… わかりました。 アンリエッタをどうかお願いします、イザーク卿…」
「お任せ下さい、子爵。 アンリエッタを必ず幸せにしてみせます」

「……っ」
 醜聞しゅうぶんになってしまった以上、私は良い相手と結婚はできないと覚悟はしていたけれど。 まさか… こんなに厳しい結婚になるとは、思いもしなかった。
 隣国の王弟殿下と妃殿下のもとへ2年間、行儀見習ぎょうぎみならい(花嫁修業)に行き… そのうえ、この完璧なイザークお兄様の妻になるのだ。 きっと周囲から完璧な妻になることを、私は求められるだろう。

 光り輝く美しい顔で嬉しそうにほほ笑む、イザークお兄様を見つめる自分の顔から、スゥ―… と血の気が引いてゆくのがわかる。


「こんなことになるなら… 最初から婚約させておけば良かったわね」
 公爵夫人はさらりというと、満面の笑みをうかべる。

「はい… 私もそう思います……」
 良識のあるお父様は過去に1度、私とエミール様の婚約が決まる前に、イザークお兄様との縁談えんだんを断わっていたのだ。
 そんな経緯けいいからお父様は公爵夫人に嫌味を言われ、ガクリッ… と肩を落とした。

「話もうまく、まとまりましたし… さっそくですが、書類の確認をお願いします」
 …と言いながら、イザークお兄様は上着の内ポケットから書類を出して、お父様にさし出した。

「イザーク卿、コレは…?」

「はい、婚約契約書です。 父と弁護士に相談して作ってきました」
 完璧なお兄様は、留学と婚約の話をフェアウェル子爵家にもってくる前に、恐ろしいほどの有能さで、完璧な婚約契約の書類まで用意していたのだ。

 お父様はその場で書類に目を通すと… フェアウェル子爵家にとって、これ以上はないと言って良いほどの好条件を、バラスター公爵家から出されていると知り息をのむ。

「本当に… この婚約契約でよろしいのですか?」
「はい、子爵。 私の元婚約者の件でフェアウェル子爵家には、ご迷惑をかけましたから… 謝罪の気持ちも含まれています。 どうか受け取って下さい」 

「そうですか…」
 アンリエッタ個人ではなく、実家のフェアウェル子爵家に公爵家から銀鉱山が譲渡じょうとされるらしい。

 お父様は完璧な書類に、署名しょめいした。


 話し合いの3日後には、身内だけの婚約式をバラスター公爵領の神殿でおこない、私はお兄様の婚約者となっていた。







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