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7話 イザークの婚約者

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 エミール様の衝撃的な告白を聞いてから一週間以上すぎた。


「お友だちが心配しているわ。 そろそろ学園へゆきなさいアンリエッタ」
 …と、私はお母様にお小言こごとを言われてしまう。

「エミール様には会いたくないけれど、お友だちには会いたいから… 明日から学園へ行きます」
 …と私はしぶしぶお母様にこたえた。
 
 そこへイザークお兄様が、深刻しんこくそうな顔つきでたずねてきて……  私とエミール様の話は、思わぬ方向へところがった。


「ひさしぶりだね、イザークきょう
「まぁ、イザークきょう… 少し見ないあいだに、りっぱになられましたね! ふふふっ…」

「ご無沙汰ぶさたしております。 フェアウェル子爵、子爵夫人」
 イザークお兄様はお母様の顔を見ると、サッ… と手を取りあいさつのキスをして、お父様にはあくしゅの手をさしだす。

 変な誤解をされるのが嫌で、私は世間体せけんていを考えて、イザークお兄様と距離をとり、会わないようにしていたけれど。
 お兄様も婚約者のロスモア伯爵令嬢のことを考え、私とは距離をおき、フェアウェル子爵家へおとずれる回数が、以前よりも少なくなっていたのだ。

「アンリエッタ、元気だった?」
「ええ、お兄様。 毎日のように綺麗きれいなお花と、おいしいお菓子のお見舞いをありがとう」

「よしよしっ… 少しは傷がえた?」
 …と、まぶしいほど美しい笑みをニコリッ… と浮かべ、イザークお兄様はギュッ… と私にハグをした。

「ええ」
 未婚の男女のあいさつとしては、情熱的すぎるし不作法ぶさほうだが… 幼い頃から私たちは仲良しの兄妹のように、こんなあいさつを続けてきた。
 だから両親は、ハグをする私たちの姿に何も言わず受け流す。
 …もちろん、賢くて完璧なお兄様は私と家族の前でしか、こんなあいさつはしない。

「イザークきょう。 大切な話があるとのことでしたが…」
「はい、子爵」

 イザークお兄様は先触さきぶれで、『なるべく家族全員と話したい』 …と、お父様に要望を伝えていた。 弟は学園に行っていて不在だが。

 フェアウェル子爵家の居間に私とお母様。 それにお父様が集まり、お茶を一ぱい飲むと… お兄様が口を開く。
 
「先日、アンリエッタの話を聞いたあと… 私は婚約者のロスモア伯爵家のレティシア嬢の訪問を受けました」
「私とお兄様がお話をした、日ですか?」

「そうだよ。あの後、アンリエッタと入れかわるように、レティシア嬢があらわれた」
 イザークお兄様は私にうなずき、話を続けた。

「…アンリエッタと婚約者のエミールきょうが、ケンカをしたことを、なぜかレティシア嬢が知っていたのです」
  
「ああ、つまりレティシア嬢はエミールきょうから、アンリエッタとケンカをしたその日に話を聞いたと… そういう意味ですね? …それにしても、そんな私的プライベートな話をするなんてエミール君とレティシア嬢はそんなに親しいのか?」
 イザークお兄様の話にお父様が反応し、首をかしげる。

「そうです、子爵。 レティシア嬢はエミールきょうから話を聞き、私とアンリエッタが付き合っていると誤解し… それで、ひどく腹を立てていました」


「…私のせいだわ! ああ、どうしよう」
 イザークお兄様まで婚約者のレティシア嬢に誤解されてしまった! 私が腹をたてて、お兄様をまきこんでしまったから… 

 癇癪かんしゃくをおこさず、エミール様にもっと強く『違う!』 …と、イザークお兄様との関係を否定し続ければ良かった!




 
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