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6話 休養
しおりを挟むエミール様の告白でショックを受けた私は、体調をくずして学園を休んでいた。
そんな傷心の私を心配したイザークお兄様から… 毎日、お見舞いの花たばと、甘いお菓子がとどいている。
「お嬢様、今日もバラスター公爵家からお見舞いの花たばが、とどきましたよ」
「まぁ、今日の花はムラサキ色の薔薇ね。 ふふふっ… 綺麗だわ! イザークお兄様にお礼の手紙を書かないと」
侍女の手から受け取った、イザークお兄様が贈ってくれた花たばを見て… 思わず笑みがこぼれた。
フルーティーで爽やかな花の香りを楽しんだ後、侍女の手に薔薇の花たばをかえす。
「花ビンにかざって」
「はい、お嬢様」
「それとお茶をお願い。 お兄様がとどけてくれた甘いお菓子を、綺麗な薔薇の花を見ながら楽しみたいの」
ああ、なんて贅沢な時間かしら? これでは学園を休んでいるあいだに、ふとってしまいそう!
「はい」
侍女はニッコリと笑い、薔薇の花たばと甘いお菓子の入った箱をもって部屋を出てゆく。
「ふふふっ… イザークお兄様は私が、ピンクや赤よりも… 1番ムラサキ色の薔薇が好きだとおぼえていたのね」
それも、今は薔薇が咲く季節ではないから、温室で育てられた貴重な花を贈ってくれたのだわ。
瞳を閉じてフゥ――…とため息をつく。
ちなみに……
私を心配する友人たちからも、手紙がとどいているのに、エミール様からは、何一つとどいていない。 私の心はますます冷めた。
「それにしても、憎らしいほどステキな心づかいね!」
こんな、心づかいができるイザークお兄様のことを、私はしみじみと考えた。
「やっぱり完璧だわ。 イザークお兄様ほど、完璧で特別な男性はいない」
社交デビュー前の私は、学園に入学してたくさんの令嬢たちと出会い、交流するようになってから…… こんな心づかいができるイザークお兄様は、特別な男性なのだと知った。
『アンリエッタ様のお話を聞けば聞くほど、イザーク卿はお優しくて… 本当にステキな男性だわ!』
『ステキなのは姿だけではなかったのね。 私の婚約者もイザーク卿に少しでも似ていたら良かったのに』
『そのうえ、イザーク卿は未来のバラスター公爵様よ? うふふっ…』
『あら、それだけではないわ。 イザーク卿のお母様は第3王女殿下で、バラスター公爵家に降嫁されたかたよ』
つまりイザークお兄様は、順位が下のほうだが王位継承権もある。
私の母が公爵夫人と仲が良いのは… 公爵夫人が結婚する前の王女時代に、母が侍女をしていたからだ。
――――そしてある日。
エミール様と私が婚約していることを知らない令嬢が、私がイザークお兄様の幼馴染みで親しいと聞き、誤解したのだ。
『仲が良い幼馴染みのあなたなら、未来のバラスター公爵夫人になるのも、夢ではないのね! ああ、アンリエッタ様がうらやましいわ!』
『いえ、違うわ。 私には婚約者がいるから…』
『え? …でも』
『それにイザークお兄様にも、ステキな婚約者がいるの』
『あら… そうなの? でも……』
“でも、アンリエッタ様はイザーク卿が好きなのでしょう?” …と言いたげな、その令嬢のまなざしに私はギョッ… とした。
『……本当よ! 私は将来、アップトン男爵夫人になるのを、楽しみにしているの』
その話をお母様に相談したら、私とイザークお兄様と距離をおくようにした方が良いと助言され… お兄様に会いに行くのをやめて、友人たちの前で、幼馴染みの思い出を語ることもやめた。
もちろん、エミール様の前でもお兄様の話はしないようにした。
「大人になるのは、さびしいことだと我慢していたのに… それでも、こんなことになるなんて……」
私の我慢は報われなかった。 完璧で特別な幼馴染みがいると、こんな苦労をするのだ。
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