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アナタを愛すためにこの世界に生まれた

3話

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 ―――卒業パーティーが始まる前、サラムは婚約者にエスコートをしてもらえず、孤独をかかえて、1人で会場へ入ろうとしていた。

 真実の愛を見つけたガダル王子と、男爵令嬢の邪魔をするサラムは、学園中から嫌われ、友人だった令嬢たちも離れてゆき… サラムは孤立してしまったのだ。

 屈辱的くつじょくてきな気分をふりはらうことができずに、サラムはうつむきながら廊下ろうかを歩いていたため… 

 ドンッ…!

「あっ…?!」 
 サラムは誰かにぶつかり、石床いしゆかに転んでしまう。

「これは失礼した…! 大丈夫ですか?!」

「は… はい… 私が前を良く見ていなかったので、申しわけありません!」 
 まぁ… 私ったら、なんて恥ずかしいことを… それに、ううっ… 痛いわ…! 床にひざを打ちつけてしまったのね?

 顔を真っ赤にして痛むひざをおさえ、顔を上げると… 見知らぬ男性が心配そうにサラムに手をさし出した。

「立てますか? どこかケガなどはありませんか?」

「ええ、大丈夫ですわ…」
 本当に恥ずかしい! 知らない男性の前で転んでしまうなんて… このかたはどなたかしら? きっと卒業パーティーに出る令嬢の、婚約者か誰かね? ああ、恥かしいわ…!

 ただでさえ落ち込んでいたサラムは、思わず涙がこぼれそうになった。
 それでも眉間みけんに力を入れ、グッ… と涙をこらえると… 見知らぬ男性がさし出した手を取り、サラムは立ちあがる。 

「……っ?」
 あら… なぜかしら? このかたの手に、なつかしさを感じる… 以前にもこんなことが、あった気がするのはなぜ? 
 初めて会ったかたのはずだけど…… んんん? それとも忘れているだけで、どこかで会ったことがあるのかしら? 年齢はたぶん、10歳ぐらい年上ね? それにとてもハンサムだわ… こんなにステキな男性なら、簡単に忘れることは無いはずなのに……?

 見知らぬ男性の顔を、サラムは礼儀を忘れてジッ… と見つめてしまう。
 
「………?!」
 見知らぬ男性も驚いた表情で、ジッ… とサラムを見つめていたらしく視線が合う。

「あの……」
 どこかでお会いしたことがありましたか? などと、聞くのはあまりにも軽いわよね? でも、たずねたいわ?! 本当にどなたかしら?!

 首をひねりながら、サラムが見つめ続けると… 見知らぬ男性は、不意に卒業パーティーの会場の扉に視線をうつす。

「もう、卒業パーティーは始まっていますよ? あなたも卒業生でしょう? 急がなくてよろしいのですか?」

「あっ!」
 すっかり忘れていたわ…!

 サラムは苦笑いを浮かべた。
 パーティーが始まっている証拠に、周囲にはサラムと見知らぬ男性以外は誰もいなかった。

「……」 
 ああ、行きたくないわぁ… 

 ハァ―――ッ… とサラムは大きなためいきをつく。
 見知らぬ男性がサラムの手をはなした。

「……っ」
 男性の手にれていたあいだだけ、忘れていられた孤独が… ふたたびサラムの心に押しよせ、押しつぶされそうになった。
 だからといって、何の理由も無く、見知らぬ男性の手をにぎるわけにもゆかず… サラムは小さくお辞儀をして会場の扉にむかう。

 見知らぬ男性から離れ、一歩進むごとに… サラムの胸の奥から、熱い何かが込みあげてくる。
 胸の中をの正体がわからないまま、サラムは扉を開きパーティー会場へと入る。
 パタンッ…! と扉が閉まる瞬間… サラムはもう一度、見知らぬ男性の姿を見たくてふり返った。

「“マサキ”……?」
 頭の中に言葉が浮かんだ。 

「ああ…」
 ただの言葉じゃないわ! 名前よ… “マサキ” は私の夫の名前だわ?!

 見知らぬ男性… “彼”と出会い、サラムの魂にきざみ込まれた記憶が呼びまされた。 
 サラムは“彼”を愛すために、この世界に生まれたのだと。


「彼は“マサキ”だわ! 私の!」



 扉のむこうにいる“マサキ”のところへ行こうとするが… サラムは大声で背後から名前を呼び止められる。


「待っていたぞ、サラム・コールズヒル侯爵令嬢!」


 意地悪な笑みを浮かべた、婚約者のガダル王子がサラムを待っていた。



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