8 / 15
アナタを愛すためにこの世界に生まれた
3話
しおりを挟む―――卒業パーティーが始まる前、サラムは婚約者にエスコートをしてもらえず、孤独をかかえて、1人で会場へ入ろうとしていた。
真実の愛を見つけたガダル王子と、男爵令嬢の邪魔をするサラムは、学園中から嫌われ、友人だった令嬢たちも離れてゆき… サラムは孤立してしまったのだ。
屈辱的な気分をふりはらうことができずに、サラムはうつむきながら廊下を歩いていたため…
ドンッ…!
「あっ…?!」
サラムは誰かにぶつかり、石床に転んでしまう。
「これは失礼した…! 大丈夫ですか?!」
「は… はい… 私が前を良く見ていなかったので、申しわけありません!」
まぁ… 私ったら、なんて恥ずかしいことを… それに、ううっ… 痛いわ…! 床に膝を打ちつけてしまったのね?
顔を真っ赤にして痛む膝をおさえ、顔を上げると… 見知らぬ男性が心配そうにサラムに手をさし出した。
「立てますか? どこかケガなどはありませんか?」
「ええ、大丈夫ですわ…」
本当に恥ずかしい! 知らない男性の前で転んでしまうなんて… このかたはどなたかしら? きっと卒業パーティーに出る令嬢の、婚約者か誰かね? ああ、恥かしいわ…!
ただでさえ落ち込んでいたサラムは、思わず涙がこぼれそうになった。
それでも眉間に力を入れ、グッ… と涙をこらえると… 見知らぬ男性がさし出した手を取り、サラムは立ちあがる。
「……っ?」
あら… なぜかしら? このかたの手に、懐かしさを感じる… 以前にもこんなことが、あった気がするのはなぜ?
初めて会ったかたのはずだけど…… んんん? それとも忘れているだけで、どこかで会ったことがあるのかしら? 年齢はたぶん、10歳ぐらい年上ね? それにとてもハンサムだわ… こんなにステキな男性なら、簡単に忘れることは無いはずなのに……?
見知らぬ男性の顔を、サラムは礼儀を忘れてジッ… と見つめてしまう。
「………?!」
見知らぬ男性も驚いた表情で、ジッ… とサラムを見つめていたらしく視線が合う。
「あの……」
どこかでお会いしたことがありましたか? などと、聞くのはあまりにも軽いわよね? でも、たずねたいわ?! 本当にどなたかしら?!
首を捻りながら、サラムが見つめ続けると… 見知らぬ男性は、不意に卒業パーティーの会場の扉に視線をうつす。
「もう、卒業パーティーは始まっていますよ? あなたも卒業生でしょう? 急がなくてよろしいのですか?」
「あっ!」
すっかり忘れていたわ…!
サラムは苦笑いを浮かべた。
パーティーが始まっている証拠に、周囲にはサラムと見知らぬ男性以外は誰もいなかった。
「……」
ああ、行きたくないわぁ…
ハァ―――ッ… とサラムは大きなためいきをつく。
見知らぬ男性がサラムの手をはなした。
「……っ」
男性の手に触れていたあいだだけ、忘れていられた孤独が… ふたたびサラムの心に押しよせ、押しつぶされそうになった。
だからといって、何の理由も無く、見知らぬ男性の手をにぎるわけにもゆかず… サラムは小さくお辞儀をして会場の扉にむかう。
見知らぬ男性から離れ、一歩進むごとに… サラムの胸の奥から、熱い何かが込みあげてくる。
胸の中を熱くするモノの正体がわからないまま、サラムは扉を開きパーティー会場へと入る。
パタンッ…! と扉が閉まる瞬間… サラムはもう一度、見知らぬ男性の姿を見たくてふり返った。
「“マサキ”……?」
頭の中に言葉が浮かんだ。
「ああ…」
ただの言葉じゃないわ! 名前よ… “マサキ” は私の夫の名前だわ?!
見知らぬ男性… “彼”と出会い、サラムの魂に刻み込まれた記憶が呼び覚まされた。
サラムは“彼”を愛すために、この世界に生まれたのだと。
「彼は“マサキ”だわ! 私の愛する夫!」
扉のむこうにいる“マサキ”のところへ行こうとするが… サラムは大声で背後から名前を呼び止められる。
「待っていたぞ、サラム・コールズヒル侯爵令嬢!」
意地悪な笑みを浮かべた、婚約者のガダル王子がサラムを待っていた。
12
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
憧れだった騎士団長に特別な特訓を受ける女騎士ちゃんのお話
下菊みこと
恋愛
珍しく一切病んでないむっつりヒーロー。
流されるアホの子ヒロイン。
書きたいところだけ書いたSS。
ムーンライトノベルズ 様でも投稿しています。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~
二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。
そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。
+性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
絶倫と噂の騎士と結婚したのに嘘でした。死に戻り令嬢は本物の絶倫を探したら大神官様だった。
シェルビビ
恋愛
聖女を巡る恋の戦いに敗れたリオネルと結婚したレティ。リオネルは負け犬と陰で囁かれているが、もう一つの噂を知らない人はいない。
彼は娼婦の間で股殺しと呼ばれる絶倫で、彼を相手にすると抱きつぶされて仕事にならない。
婚約破棄されたリオネルに優しくし、父を脅して強制的に妻になることに成功した。
ルンルンな気分で気合を入れて初夜を迎えると、リオネルは男のものが起たなかったのだ。
いくらアプローチしても抱いてもらえずキスすらしてくれない。熟睡しているリオネルを抱く生活も飽き、白い結婚を続ける気もなくなったので離縁状を叩きつけた。
「次の夫は勃起が出来て、一晩中どころが三日三晩抱いてくれる男と結婚する」
話し合いをする気にもならず出ていく準備をしていると見知らぬが襲ってきた。驚きのあまり、魔法が発動し過去に戻ってしまう。
ミハエルというリオネルの親友に出会い、好きになってしまい。
色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました
灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。
恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる