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20話 側妃問題

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 相変あいかわらず、即位そくいの準備で公務は大忙しだったが… ベアトリスは毎晩、夫の温かい腕の中で眠るようになり、体調もすこぶる良く、少しずつ元気を取り戻していた。


「ベアトリス… 側妃をめとるのはやめようと思う…」
 朝食室でマクシミリアンは緊張した様子で、ベアトリスに話を切り出す。

「え…?」

「元々、私が側妃をめとろうと思った理由は… 君が流産して、命の危険にさらされた時に、私は心底おびえたからだ! また、君が私の子を身籠みごもったりしたら… もしかすると、次は君自身を流産で失うかもしれないと…?!」

「まぁ…! そんなふうに、思っていたのですか?!」
 ああ、そうだわ! 私がこの問題について、言い訳を聞きたくないと一方的に拒絶したから… マクシミリアン様は、私に何も言えなかった。
 だから私がこの話を受け入れられそうなタイミングを、ずっと見計みはからっていたのね…?

 『大切な話』 …だとマクシミリアンに言われても、子供のように癇癪かんしゃくを起して、こばんだ自分が恥かしくなり、ベアトリスの頬はうっすらと赤く染まった。

「でも… 君の流産が、子を流す薬のせいだとわかったから…?」

「ええ、そうですね…! 次にマクシミリアン様の子を身籠みごもっても、流産はしないかも知れない…」
 出産は女性にとって命がけだから、絶対ではないけれど…? でも、きっとその可能性が高いはずだわ……

「それとだね… 実はもう1つ、君に相談があるんだ」
「相談?」

「シフナル侯爵家のコンスタンス嬢を、側妃の最有力候補に選んだのは… 彼女が君のように、とても有能な女性だからなんだ」

「…そうなのですか?」
 確か… 彼女が社交デビューしたばかりの時に、学園でも優秀な成績をおさめる才女だと、紹介されたおぼえがあるわ…?

「つまり… 王妃になった後、君の公務をコンスタンス嬢が半分引き受けてくれることを期待してだね…」

「ああ!」
 まさか… マクシミリアン様が、そこまで考えていて下さったとは…?! 

「結局、側妃の方は… あの時、断られてしまったけど…」

 あの時とは… シルヴィー王女と散歩をしていたベアトリスが、庭園のガセボで、マクシミリアンとコンスタンス嬢が密会していたのを見つけた時のことである。

「…あらっ?!」

「だから、彼女に君の側近として働かないかと… 持ちかけたら、彼女はこころよ了承りょうしょうしてくれたんだ」
 マクシミリアンは苦笑を浮かべた。

「コンスタンス嬢がですか?!」
 女性の側近は大歓迎だわ?! 私の側近たちは、みんな有能だけど… 男性ばかりで… たまに女性の私には、都合が悪いことがあるのよね…? 

 女性が活躍する場が少ない、男性優位ゆういの王国ならではの問題である。

「どうだろう、ベアトリス… 嫌かなぁ?」
「コンスタンス嬢と面談をしてから、決めてもよろしいですか?」

「ああ、それで構わないよ!」
 ぱぁっ… とマクシミリアンの表情が明るくなる。
 それほど、ベアトリスの負担が今まで大きかったことが、マクシミリアンはずっと気になっていたのだ。

「ありがとうございます、マクシミリアン様…」
 本当に優しい人だわ! 政略結婚でこんな素晴らしい人にめぐり会えるなんて… 私はなんて幸運なんでしょう?


 椅子から腰を上げ、ベアトリスはマクシミリアンに歩み寄り、唇にキスをした。






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