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12話 体温

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 気持ち良く目覚めると… ベアトリスの背中が熱かった。


「んんんっ……???!」
 何だか今朝は… 熱いわね?

 背中だけではなく、ベアトリスのお腹も熱かった。

 ハァ――… とため息をつき、目覚めたばかりのボンヤリとした頭で、ベアトリスはベッドから見える窓を見つめた。
 薄いレースのカーテン越しに見える空は青く… 良く晴れているとわかる。


「おはよう……」

「…っ?!!」
 かすれたささやき声が背後から聞こえ、ベアトリスはギョッ…! とする。

 目覚めてすぐにお腹や背中が熱かったのは、自分よりも体温が高い、マクシミリアンの大きな身体に包まれているからだと… ベアトリスはようやく気がついた。

 ピタリッ… と背中にくっ付いた、かたい身体からのびた長い腕が… ベアトリスの細い腰に巻きつき、お腹を手のひらでなでる。

「調子はどう…?」
 
「あ……!」
 こうしてマクシミリアン様の熱い身体に包まれて眠ると、目覚めた時… 私の身体も体温が少し高くなって、とても体調が良くなることを思いだしたわ?

「最近… 公務が忙しくて、君はずっと無理をしているだろう? …ベアトリス」

「大丈夫ですわ…!」
 今よりもむしろ… 半年前に医師から夜の生活を受け入れても良いと言われ、そのことをマクシミリアン様に伝えたとたん… この寝室に訪れなくなった。

 ちょうどその頃は、秋から冬へと代わる時期で… 朝方、寝室が冷えるようになり、ベアトリスの体調が安定しなくて辛い思いをした覚えがある。

「本当に身体は平気?」

「はい…」
 マクシミリアン様の熱い体温の恩恵おんけいを、得られなくなってから、体調が乱れて… でも今は1人で眠り、1人で目覚めることが当たり前に慣れてしまい… それが普通だと感じていたけれど?

 そのことをマクシミリアンに伝えようかと思ったが… そんなことを言えば、夫を暖房具扱いしているようだと、結局ベアトリスは何も言わないことにした。

「そうか…」
 ベアトリスのうなじにチュッ… とキスをして、ハァ―――ッ… と背後でマクシミリアンは、大きなため息をつくと……

「あああああ~~~… ベッドから出たくない! 公務なんてしたくない~! 腹黒いオッサンたちの顔なんか見たくない~! このまま綺麗な君の顔だけを見ながら、ダラダラとしていたい~~!」
 マクシミリアンは子供のように駄々だだをこね始めた。

「マクシミリアン様…?!」
 そう言えば… 以前はこうして駄々だだをこねるマクシミリアン様を、私が毎朝なだめていたわね… 忘れていたわ! マクシミリアン様が何の心配もなく、弱音をはける相手は私ぐらいだから……

「ベアトリスゥゥゥ~~~! 国王になんかなりたくな~い!」
 ポロリッ… とマクシミリアンの口から本音がこぼれる。

「ふふふっ… だめですよマクシミリアン様? あなたが国王に即位そくいしなければ、国民が苦労することになりますから」 

 マクシミリアンの腹違いの兄(第1王子)は… 現王に誕生した初めての王子だったため、側妃の母親に甘やかされて育ち、ひどい癇癪かんしゃく持ちなうえに、短絡的たんらくてきで浅はかな性格に成長した。
 つまり周囲の者たちに影響されやすく… あやつり人形にするには持ってこいの人物である。
 
 
 コンッ! コンッ! コンッ! 扉をたたく音が寝室に響く。


「さぁ、マクシミリアン様! 侍女のロッティが起こしにきましたよ、一緒に起きて朝食をとりましょう?」
 ベアトリスは長い腕の中で、コロリッ… と向きを変えて、マクシミリアンのひたいほほにキスをする。

「あ~… 嫌だなぁ…」

「ふふふっ… 一緒に起きましょう? ね?」




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