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3話 春の庭園

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 色とりどりの春の花が、咲きみだれる庭園を…  ちょうを追いかけるシルヴィー王女とともに、ベアトリスは日傘ひがさをさして散歩する。

「ねぇ、お母様… 見て? 青い蝶がいるわ!」
「まぁ… そうね」
「青い蝶は初めてよ? 黄色い蝶はいっぱい、いっぱい飛んでいるのに!」 

「本当ね… めずらしいわね! とても美しい蝶だわ」
 いつもよりもシルヴィーが、はしゃいでいるわ? きっと寂しい思いをしていたのね? 忙しさを理由にして、シルヴィーの相手をおろそかにしてはいけないわね… もっと会いに来なければ!

「うふふふっ…」
 腰でしばった大きなリボンをフワフワと揺らして、シルヴィー王女は蝶を追いかけパタパタと走って行く。

「あらあら… あまり走ると転んでしまうわよ? ふふふっ… 何日ぶりの散歩かしら…? いつの間にか、こんなに花が咲いているなんてね…」 
 これだけ綺麗に花が咲いている時に… おとなしく昼寝なんて、する気にはなれないわね? シルヴィーの気持ちが、わかった気がするわ。

「マクシミリアン様は… この庭園の花たちがこんなに美しく咲いていることに、気づいているかしら?」
 夜になっても私の寝室に来ないあの方は… 今は何をしているのかしら? 確か今日の午後は、マクシミリアン様は大臣たちとの打ち合わせがあったはずだから… もしかすると、少しだけ顔を見れるかもしれないわね? 彼の執務室に寄ってみようかしら? 

 夫の即位そくいが正式に決まった日から、ベアトリスは公務に追われてまともに庭園の花を、見るひまがなかったのだ。
 そのうえ、夫婦そろっての公務が減り、夫と顔を合わせることも少なくなった。
(王太子夫妻は寝室も私室も別々のため、夫婦でもお互いに会おうとしなければ、会えない日が数日続いたりする)

 ぐるりと庭園を見渡した時に、ベアトリスの視界にガセボ(あずま屋)が入る。
 王太子夫妻がよく、午後のお茶を2人で楽しむ時に使う場所で… そのガセボに人影が見えた。
王妃お義母様かしら?」

 庭園を散歩するベアトリスたちと同じように、護衛をつれた王族の誰かがお茶を楽しんでいるようだ。

 娘のシルヴィー王女も人影に気づいたらしく、真っすぐガセボへと向かって歩いて行く。

「やれやれ、仕方ないわね…」 
 どなたかわかりませんが… このまま素通りできなくなったわ? できれば面倒な挨拶などで、邪魔をしたくなかったのに… どうか、第1王子(夫の政敵せいてき)ではありませんように!

 政敵せいてきの第1王子は長男だが、母親が側妃のため、第2王子で現王妃の子であるマクシミリアンが王太子となった。
 マクシミリアンの即位そくいが決まった今でも、2人の王子の間で争いが絶えない。

 ハァ―――ッ… とベアトリスはため息をつく。
 ガセボの人影に気づかないフリをして、この場を静かにりたかったが… シルヴィー王女が気付いてしまい、挨拶をしに行かなければならない状況となった。

 シルヴィー王女はガセボまで行くと… お茶を楽しんでいる人物に向かって、嬉しそうなかん高いさけび声をあげて抱き付いた。

「お父様―――ッ…!」

「あら… マクシミリアン様なの?!」
 ベアトリスの胸にも、娘のシルヴィーと同じく嬉しさがあふれだし、自然と笑みがこぼれ、歩くのが早くなる。


「おやおやシルヴィー! お散歩か?」
「お母様と蝶を見に来たの! 青い蝶がいたわ!」
「お母さま…?! ベアトリスも一緒なのか?」
「うふふふっ…」

 父と娘の話し声が耳に届き、ベアトリスも仲間に入りたくて、急いでガセボへ向かったが… 夫がお茶を一緒に飲んでいた相手の顔を見て、ベアトリスはガセボの少し手前で、ピタリと立ち止まった。

 相手は未婚の若い令嬢で、王家主催の晩さん会で顔を合わせたことがある。

「確か……」
 シフナル侯爵家のコンスタンス嬢… だったかしら…?


 その時、ベアトリスの脳裏のうりにピンッ… と来るものがあった。
 マクシミリアンと2人でお茶をする令嬢は、側妃候補の1人ではないかと。





  
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