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第三十四話 菫の始まり

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 了が居なくなった部屋で菫は物思いにふけっていた。
「……なぜこんなことになったんだろうな」
 菫は過去を思い返す。

 ―――

 菫は普通の村の普通の家に生まれて、とくに問題もなく暮らしていた。
 そんな菫は幼少のころから超能力者や妖怪といった存在に会って、なぜ夢幻界が、摩訶不思議なモノが溢れているのか、興味を持ち調べていた。
 しかし大人になっても答えは一向に出なかった。彼女は疑問を抱えたまま暮らしていた。
 ある時期に、『先導師』なる存在が現れた事を聞いた菫は、どのような存在なのか? と心が躍った。しかし、先導師は彼女の村には来ず、遠い村に良く出没した。

 先導師は人々に様々な技術を与えていた。それを聞いた菫はぜひともそれを見てみたいと思った。彼女の知的好奇心が体を支配し行動させていく。
 菫は親に先導師に会いに行くと言ったら、引き留められた。引き留める理由は、やれ妖怪がなんだ、そんなものに会ってどうなるんだといった言葉であった。
 それらは菫の気持ちを不快にし苛立出せた。そんな菫は親にこの家にはもう戻らんと告げて、親の言葉を無視して家を飛び出した。家出である。

 彼女が目的地に向かう途中妖怪に出会ったが、封魔なる者たちに助けられ事なき事を得た。
 封魔の身なりは、血とドロで汚れており、手には刀が握られていた。目はぎらぎらと輝いており、菫はそれを見て委縮した。
 そして助けられたことを彼らに丁重に感謝を述べると、彼らは妖怪を倒すのが使命ですからと、足早に去っていった。その姿にどこか、妖怪に対する恐怖に似たものが、菫の心に浮かんだ。

 それからしばらくして、菫は目的の先導師が出没するという村についた。村は大きくまた清潔であり、活気づいていた。そんな賑やかで活気が溢れている光景に、彼女は目が眩みながらも、この地に滞在する場所を探した。
 しばらく滞在して菫はある事が分かった。それはこの村の村長がアサキシという女性である事だ。
 彼女は女の村長とは大変珍しいと思いアサキシの人となりを調べた。そして分かったのは彼女はとても優秀で、家族思いであることだけだった。また前の村長は、アサキシの父親で、母親共に亡くなっている事も分かった
 菫はそんな彼女の事を調べていると、先導師に遭遇した。先導師は村長の家に入り込んでいたのだ。
先導師の姿は至った普通な人間であり、これといって特徴は無かった。アサキシと先導師の関係を菫は探ることにした。理由はもちろん、知的好奇心からである。そして



 菫は調べなければ良かったと、とても後悔した。


 今菫、管理所という施設に勤めている。アサキシの下で。
 なぜ管理所で菫が働いているのかと言うと、この世界の真実を一つ知ってしまったからだ。
 彼女は知らなければよかった。知ってしまった事で、かつての知的好奇心は無くなり、菫の心はイラ立ちが支配していた。そのためか事件を力で解決する際、やり過ぎてしまっていた。

 そんなある日、アサキシがある少女を保護した。名前を了、という。少女の存在は菫にとって、ありふれたものにしか映らなかった。
 菫がアサキシに何故保護したのか尋ねると、アサキシは了の事を話し始めた。

「彼女はエルカードを所持しており、それを使い瞬く間に悪党を鎮圧した。それを見た私は彼女に近づき、何者か行き場はあるのか、と尋ねたところ、無いと答えたので保護した。力をあるものは管理しなければならない」

「何とも胡散臭い話だ。 ……今後了をどうするつもりだ?」

「人の街の外で暮らさせ人としての教育を受けさせる」

 人の街の外で暮らさせると言う部分に菫は苛立った。アサキシはその気持ちを察してか、笑いながら答えた。

「彼女は力を持っている。迂闊に人の街に住ますのは嫌なんだ」

「ああそうかい。嫌な奴だよお前は。了の奴を結局の所、どうしたいんだ?」

「彼女を育て上げて、部下にするつもりだ」

 菫はその話はアサキシとって都合のいい人を作り上げる詭弁だとわかった。それがわかった菫はアサキシに頭を垂れて、戦いの仕方や生活の方法を教えるから、了の教育に関わらせてくれと懇願した。
 菫がこうするのは了を思ってのことで了がアサキシのそばに居たら、あることない事吹きこまれて使い捨てられると危惧したからだ。

 アサキシは逡巡したのち、少しならと承諾した。

____

 アサキシとの話し合いの後、菫は了に会ってみることにした。了は今管理所の一室に居る。
 菫は扉を叩き、部屋に入った。部屋に椅子がぽつんと置かれていた。その椅子に白いジャケットを着た了が鎮座していた。菫は了に向かって大きな声で話しかけた。

「私の名は菫、お前の友人となる者だ」

 自分で言っといて、菫は赤面した。同年代の友人は居なくなった為接し方を忘れたからだ。
故にこんな言葉を発してしまった。

 了は菫の言葉に、ポカンとした顔を一瞬浮かべて、笑顔で答えた。

「私の名前は了、よろしくね」
 これが、了との出会いであった。そして菫は了と共に世界を守るため戦い続けた。『大災害』の死者が無駄にならない様に。
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