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第三十二話 知らなくていい真実 3

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「葉月のあほめ」

 ブルーは人里上空を漂いながら、アサキシの屋敷を見下ろしてそうつぶやいた。彼女は葉月の事が心配でその場に残っていたのだ。

「助けに行くか? しかし手を出すなとも言われたし。だがアサキシのやろーに馬鹿にされたし」

  アサキシの罵倒を根に持ち、そう考えているそのとき、ブルーの目の前に黒いジャケットを着た白髪の少女が音も無く出現。突然現れた少女に声をあげて驚くブルー。

「なんだおまえっ!?」

「こんばんわ。きれいな羽の吸血鬼さん。私の名はアトジ」

 ブルーの問いかけに、アトジはにやけながら自らの名前を名乗った。アトジその名を聞いてブルーはさらに驚く。

「なに!? アトジだと!?」
 ブルーのそんな驚きを無視して、アトジは話しかける。

「今あなたがアサキシさんの所に行くと困るんですよ。話がややこしくなる」

「何が言いたい?」

「私が少し戦ってあげますよ。イライラしているんでしょう。馬鹿にされて」
 
「お前に興味は無いね」

 ブルーは相手の唐突な提案に乗らず、断る。その言葉にアトジは腹を抱え笑い挑発する

「あら怖いんですかあ。吸血鬼が。この私に。アッハハハハ凄い間抜け」

 その挑発にブルーは髪を逆立てて激高して叫ぶ。

「いいだろうアトジ。吸血鬼の力を身をもって知れッ!!」

 拳に怒りを込めてアトジの顔面に殴りかかる。拳は風を斬り、パンッと発砲音に似た音を鳴らす。拳の威力は弾丸と同程度であり、常人では到底受け止めることは出来ない。だがしかし、

「ふんッ!!」

 アトジは軽いボール受けるかのように、片手で軽々と受け止めた。そしてブルーに尋ねる。

「戦いに乗ってくれるんですね」

「そうだ!!」

「なら、場所を変えましょう」

 勇ましく答えたブルーの言葉にアトジは満面の笑みで喜び、エルカードを目の前に出現させて発動した。エルカードの音声が二人が居る空間に響き、力を示す。

 <ワールド> 

 エルカードは二人を光で包み込み、夜空から姿を消した。

 ―――
「ここはどこだ!?」

 ブルーは気がつくと森の中に居た。目の前にはアトジが立っていた。ブルーはわが身に起きた出来事に動揺して辺りを見回す。

(バカな!? 私は先ほどまで空の上に居たはずだ!? 幻か!?)

 幻という考えが頭に浮かぶが、周りの木々たちは確かに存在した。 困惑するブルーとは対照的にアトジは落ち着いており、<ワールド>と書かれたエルカードをブルーに見せながらにこやかに話しかけた。

「私が世界を創造するエルカード<ワールド>を使って、新しく世界を作り、貴方を招待したんです」

「世界を創造だと……」

 世界創造という言葉をアトジの口からきいて、内心舌打ちをした。

(チッわざと挑発に乗って、アトジの力を知ろうとしたのはミステイクだったか!?)

 そう彼女はわざと挑発にのり、アトジの力を体験しようとしたのだ。だがアトジの世界創造という神に等しい行為を体験して、恐怖で額に冷や汗をかき、自分のうかつな行動に対して後悔の念を抱いた。そんなブルーの気持ちを無視してアトジは笑いながら宣戦布告する。

「さあ戦いましょう。吸血鬼さん」

「こうなったらやけだッ!!」

 ブルーは翼を広げ、弾丸のようなスピードでアトジに向かって突進を仕掛ける。アトジは笑いながらカードを発動。

 <リキッド> 

 アトジの体は水の様に四散し、突進を回避。そしてそのままブルーの体に生き物の如く纏わりついた。<リキッド>のカードは、体を液状に出来る様にするカードだ。液体になったアトジがブルーの体にう。ブルーは体に這うアトジに不快感をあらわにして叫ぶ。

「気持ち悪い!!」

「そうですか。では元に戻りましょう」

 アトジは力を解いて、元の肉体に戻った。だがその瞬間ブルーに締め付けられる様な痛みが襲った。

「!?ッグウウ」

 元の体に戻ったアトジがブルーに対して、コブラツイストを仕掛けていたのだ。アトジはブルーに組み付けるように、液体から元の姿に戻ったのだ。

「わけのわからんや奴め!」

 ブルーはアトジの力に動揺しながらも、振りほどこうする。だが彼女の力はアトジに力負けしていた。コブラツイストはブルーの体を音を立てながら破壊していく。自分より力が上の強者。その存在に普通の者なら敗北感を抱き、絶望するだろう。だがブルーは違った。

「グオオオ」

自らの体が壊れるのも構わず、何とか脱出を試みようとしていた。そんなブルーの行動にアトジは愛玩犬を見るかの様な笑みを浮かべる。

「あらあら、暴れて。かわいい吸血鬼さん」

「てめえ!!」 

 アトジの言葉に激高して、ブルーは自らの体の骨を折りながらも脱出して距離を取る。そして吸血鬼の力で肉体を高速回復させて叫ぶ。

「力負けなら!!」

 ステンドグラスの様な翼を広げ、<レーザー>と書かれたエルカードを取り出し発動した。 
<レーザー>
エルカード持っていることに、アトジは僅かに驚いた。

「あら貴方エルカードを持っていたんですか?」

「私のメイドは優秀でね!! 探させて持ってこさせたのさッ。お前の力で死ぬがいいッ!!」

 言葉とともに翼のステンドガラスの様な模様が光り輝き、レーザー光線を発射した。<レーザー>のエルカードは文字どうり、発動すればレーザー光線が撃てる様になる。
 (光速の攻撃は避けれまい!!)

 そう考えアトジに致命傷を与えることができるとブルーはふんでいた。だがその期待もアトジのエルカードに踏みにじられる。アトジのエルカードが鳴り響く。

<タイム> 

 その瞬間すべての物質が、彫像のごとく静止した。時が止まったのだ。<タイム>のエルカードを使用すれば時を操ることができる。静止した時の中でアトジはブルーに悠然と歩を進める。

「時を止めてしまえば、どんなにい速い攻撃でも意味がない」

 そう語り、新たにエルカードを発動。

<アースクエイク>

 そして、静止したブルーを殴りつけた。拳を受けたブルーの体はスーパーボールの様に何度も何度も羽飛び、血と肉片をまき散らして、地面にめり込んだ。<アースクエイク>は地震を起こすほどの力を得ることができるカードだ。地震を起こせるほどのパワー。現代兵器でその力を持つのは核爆弾だけである。アトジはボロ雑巾の様になったブルーの惨状に満足して、つぶやく。

「時よ再始動しろ」

 アトジの言葉で全てが動き出した。
 
 レーザーは虚空を貫き、ブルーはわが身に何が起きたのか分からないまま地面にめり込んでいた。

「……いったい何が」

 ブルーは考えを巡らすが、時を止められて地震を起こすほどの力で殴られたことに考えがたどりつかなかった。吸血鬼とはいえあまりにもアトジの力は人智を超えていたのだ。
 アトジは笑いながら、エルカードを取り出して追撃を行う。

「あら、耐えましたか。ではこれならどうです?」

<サン>

 エルカードの音声が響き、ブルーの真上に巨大な太陽が出現した。その瞬間世界はブルーは太陽の力で灰も残らず、何も思えずに即死した。辺りは太陽の出現で燃え盛る。そんな中アトジは口を開けて叫ぶ。


「しまった! 殺しちゃった! やっちゃった! どうしよう!! ……なーんてね。うふふふ」

 アトジは一人で笑いながら、<タイム>のエルカードを発動した。

「時よ戻れ」

 アトジの言葉で辺りの光景が、ビデオの巻き戻しの様に移り変わり、燃え盛る今の時間から、燃え盛る前、ブルーが生きていて時間に巻き戻る。

「ここらでいいか。停止」

 ブルーが生きていた時間までもしたことを確認し、アトジは巻き戻しは止めた。アトジは再び生きているブルーと対面する。ブルーは叫び突進する。

「こうなったらやけだッ!!」

「うふふ楽しいー」

 アトジはブルーを何度も殺した。

 ある時は、<ブラックホール>のエルカード使い、ブラックホールを出現させてブルーを潰して殺し、またある時は、<ジャイアント>のカードで、肉体を大きくして踏みつぶした。
 殺すたびに何度も何度も時を戻し甦らした。『よみがらし方』も<タイム>のカードだけを使うのではなく、魂を司るエルカード<スピリット>を使うなど様々な方法で蘇生させた。
 アトジはブルーを暇つぶしができるおもちゃ程度の存在としか思っていなかった。

―――
「葉月のあほめ」

  ブルーは人里上空を漂いながら、そう愚痴っていた。葉月の事が心配でその場に残っていたのだ。

「助けに行くか?しかし手を出すなとも言われたし。だがアサキシのやろーに馬鹿にされたし」

 アサキシの罵倒を根に持ち、そう考えているそのとき、ブルーの目の前に黒いジャケットを着た白髪の少女が音も無く出現。突然現れた少女に声をあげて驚くブルー。

「なんだおまえ」

「ここまで時が戻りましたか。私の名はアトジ。貴方を館に返す者です」

「なにを言って!?」

「ではさようなら。また会う日まで」

 そう言い、エルカードを使用した

<メモリー> 記憶を操る事が出来る。

 アトジはブルーから自分の記憶を消し、館に向かっていると記憶を改ざんさせて、ブルーを館の方向に向かわせた。

―――

暗闇の森
 ブルーの館。
 了とブルーに恵みは暗い顔でテーブルを囲んでいた。ブルーは葉月が屋敷に残ったと伝え、了と恵みは何もない事を祈った。助けに行くことも考えたが侵入がばれたことと、葉月のおいてけ発言もあり動けずにいた。ブルーは恵みに尋ねた。

「で、どうする?」

「どうって……」

「記事だよ。大災害とアカネ真実を書くのか書かないのか」

「……私には重すぎます、これを世間に発表するのは出来ません。……ごめんなさい」

 恵みは頭を下げて周りに謝罪した。このことに誰も責めなかった。誰も彼女を責める立場に居ないからだ。恵みの言葉にブルーはうなづく。

「まあ、今の自分の生活が崩れるもんな。了はなんかある」

その言葉に了は頷き答える。

「私は菫に会いに行く」

「菫? ああ、日記に書いてあった女か。会ってどうする?」

 菫という名前に、ブルーはアサキシの日記に書かれていた書かれていた女の事を思い出して、了に尋ねた。尋ねられた了は重苦しそうな顔をしながら語る

「菫にアサキシについて話す。菫がアサキシ側の人間かどうかを確かめる。それとアトジの奴の行動を止める、奴のせいで多くの者のが苦しんだ。奴自身もそれを楽しんでる止めなくては……」

 了の言葉にブルーは腕を組んでため息をつき、周りに自分の意思を伝えた。

「そうか、私は大災害やアカネの事について知れたし、しばらくはのんびりするよ。アサキシの奴は気にくわないから向う側にはつかない。安心してくれ。……これから大変だな」

 ブルーのこれからが大変という言葉の重みに誰も何も言えず、沈黙した。

 その後、朝になり了は恵みを家まで送り返した。別れ際に恵みは震え声で了に話しかけた。

「私、記者でしたけどこんな真実、知りたくありませんでした。これからどうすれば……」

「……何もかも忘れることにしな。そのほうがいい」

 了は優しく話しかけて、恵みの元を離れた。その後葉月の安否を確認するため、呉服屋に向かった。呉服屋の店内は、多くの人が働いており、その中には五体満足の葉月も存在した。

「無事でよかった」

 葉月が無事であることに安心して、了は葉月に話しかける。

「葉月無事だったんだな。良かったよ」

「ああ」

 話しかけられた葉月は了の方を振り向きた。了は葉月の顔を見て驚いた。葉月の顔に涙の跡が残っていたからだ。了は不安になり恐る恐る尋ねた。

「……昨日アサキシのもとに残り何をしていたんだ?」

「……後で話すよ昨日の事で気分が良くないんだ」

「そうか」

「ごめんな……」

 そう言って葉月は涙の跡が残る顔で、乾いた笑顔を了に向けた。了はその顔を見て、辛くなった。
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