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第三十話 悲しみの救い
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「誰か助けて……」
古き日本のどこかで、病気に苦しむ女は助けを求めて手を伸ばした。しかし誰にも助けられず看取られずに死を迎えた。そして魂は天にのぼった。
――-
「ここはどこだ!?」
了は眠りから目が覚めると河原に横たわっていた。自分は家で寝ていたはずだ、そんな疑問を持ちながら立ち上がり辺りを見渡す了。
辺りは薄い霧がかかっており、近くには大きな川が流れ、水の音を立てていた。向う岸は霧がかかって見えない。河原には彼岸花が点々と咲いていた。了はここがただならぬ場所だと感じた。
「とりあえず、ここを離れるか」
川に背を向け、彼女が人里に向かい当てもなく歩き出そうとしたとき、バイクの音がした。霧の中、バイクと共に現れたのはズボンにTシャツを着た女、菫であった。菫は驚き了に話しかける
「ん、了お前何故ここに」
「お前こそどうして…… てか、ここどこか知っているのか」
「ここはあの世とこの世の境目、三途の川だ」
「なんだってー!」
「うっせえ!」
了は菫の言葉に目を丸くし、大声を上げた。三途の川とは死んだ者が来る場所である。菫は了が大声を出し驚いた。了は彼女に尋ねる。
「私たち死んだ?」
首を傾げ了は菫に尋ねる。それに対して、菫は呆れながら答えた。
「ちげーよ。お前がここにいるのは知らんが、私は事件の調査でここに着いた」
「事件?」
「お前…… 今夢幻界に、多数の魂があふれ出ているのを知らないのか」
「あーあ、あれね空飛ぶ餅だと思った。」
「そうか、目と頭悪いな。で私は魂がどこからあふれ出ているのかを調べ、人里にある寺の洞窟からだと分かった」
「そうか。でもここが三途の川だとよくわかったな」
(……餅発言は冗談だ)
冗談が通じなかったことに了は顔を赤らめ、菫はここに来た経緯を了に話す。
「それは洞窟が前々から三途の川に続いているじゃないかとの噂があったからだ。まあ、ここが三途の川かは断定できんが、辺りの風景をみるとほぼそうじゃないかな。で洞窟に入り進んでいるうちにここに着き、了が居た」
「そうか、そういや葉月の奴は来てないんだな」
「色々あったろ、それで元気を無くし家にこもっているらしい」
「そうか、心配だな……」
そんな話をしている二人をよそに、川から小舟に乗った少女が現れた。二人は少女に気付き警戒する。やがて少女は岸に着き了達に歩み寄る。少女の顔つきは鋭く恰好は紺色のグラデーションで彩られたスーツで大きな鎌を持っていた。少女は了の顔を見て話しかけてきた。
「あなたが了ですね、初めまして。そちらの方はどなたですか」
了は少女が自分の名を知っていることに驚き、菫は少女に対し威圧的な態度をとる。
「なぜ私の名を知っている」
「あーんてめえ誰だ、変な格好してよー」
「失礼ですねあなた…… 私は夢幻界を担当する死神の一人ゆげんです」
「嘘いってんじゃねーの」
菫の言葉に、ゆげんは目をぎょろりと菫に向けて言い返す。
「言ってません。閻魔様に誓ってもいいです」
その言葉に菫はいまいち信じられない顔をしていたが、了は違った。彼女はゆげんから特別な力を感じ取って、信じた。
「菫どうやらマジらしいぜ……」
そういって菫に語る。その言葉にゆげんは便乗して、話す。
「そうです。本当です。ところで了、夢幻界に魂が溢れている事は知ってますね」
「了のやつは空飛ぶ餅だと、言ってましたあ」
ゆげんが説明していると、菫がよけいなちゃちゃを入れる。それを聞いたゆげんは驚き、了を可哀想な子を見るような目を向ける。
「なんと! それはそれはお気の毒に病院に行くことをお勧めします……」
「冗談なんです。冗談です!」
菫の言葉を素直に信じそうになったゆげんに、訂正の言葉を赤面しながら伝える了。
そしてゆげんに尋ねる。
「ところで、なぜ私の名前を知っているんです? それに私は家で寝ていたはずなんだけど此処に居て、何か知ってますか」
「あなた一部では少し有名ですからね。ここに居たのは私が事件解決にと呼んだからです」
「そ、そうか。死んではないのか」
了は少しだけ、ほっとした。 菫がゆげんに話しかける。
「ゆげんだっけか、あんた夢幻界に魂が溢れてるの知ってのか。おーん」
「知ってます。魂が溢れているのは、ある魂が神仏に仇すとあの世で暴れだしたからです。それにより魂が人間世界に湧き出て無用な混乱が起きてしまうと予測されたため、溢れ出す先を何とか人間世界から夢幻界に変えました」
ゆげんの説明に「だからか。つーか夢幻界とばっちりだな」了は呆れ、「ゆげんといったか。謝れよー」と菫は怒り、ゆげんに突っかかる。しかしそれに対して、ゆげん何とも思っておらず、たんぱくに返す。
「すみませんね。上に代わって謝罪します」
「それで謝ったつもりかよん」
そう言う菫の言葉に ゆげんは「そうですけど」と、どこ吹く風である。菫はその態度にイラついた。ゆげんはイラつく菫を無視して、了に話しかけた。
「それで、終わりを与える者である、貴方に事件解決をお願いしたいのです」
その言葉に了は気まずい顔になり、菫は怪訝な顔をする。
「なんだ、終わりを与える者ってよ」
「それを話すのには夢幻界に関して話さなくてはなりません」
「ほーん夢幻界が関係してんのか」
「ええそうです。話しますが構いませんね?了」
ゆげんは確認を求め、了は頷き了承した。
「……いいぜ」
「では話しましょう。この世界は異世界、夢幻界であることはご存知ですね」
ゆげんは菫に向かい問いかける。了は静かにしている。
「ああ、夢幻界は人間界とは別の異世界だってことな」
「夢幻界が存在する理由。夢幻界とは、そこに住む人間や魔物に新たに人生に価値を与える場所なのです。救済の場所ということですね。」
「…… それと了に何の関係があるんだ」
菫は了を見た。 彼女は浮かない顔している。
「しかし救われるもの以外に、価値のない不要である者もいます。そういった者や、もはや世界がどうしようもない場合に対して、『全てを終わらせる力』を持つ、終わりを与える者が現れます。それが了です」
「嘘だろ……」
ゆげんから語られた真実に、菫は目を見開いて驚き否定の言葉をつぶやく、しかしゆげんによって否定される。
「嘘ではありません。了の正体は、終わりの力を持ち与える者、『終わりの代行者』で人では無いです」
「代行者ってなんだよ」
「世界の意思や力が具現化したものです。まあ神といった高位の存在といっても過言ではありませんね」
「了が神様かあ。嘘くせえ。コイツは飯が食うことが好きなただのお人好しだぜ?」
「本当のことです。しかし、終わらせる者には人間性や人間の心なんてものは、無い筈ですが…… 了、今の貴方をにはそれがあります。貴方はなぜそれを持っているのですか?」
了を不思議な目で見るゆげん。そんな彼女に了は目を合わさずに話をはじめる。
「私はあることで保護されて人として生活することになった。人として過ごしていくうちに人間性や人の心が芽生え、終わりを与える者でなく誰かを助けたい救える者になりたいと考え、今に至っている……」
「そうですか、なるほど。了貴方は本来の力を封じていますね」
「ああ、終わりを与える力は封じている……」
「使いなさい」
ゆげんは目を合わさない了に対してハッキリと告げる。その言葉に了は動揺してしまう。
「! ……力を使うと人間性や人の心を失ってしまう」
「それがどうかしましたか」
「私は代行者としてで無く、人として生きたいのです……」
了の声は震えていた。確かな思いだからだ。ゆげんはどう対応していいか少し困っている。そんな中で菫がゆげんに話しかける。
「なあ死神さんよー。了の奴が使いたくないっぽいし、使わせなくていいんだろ。それに了の奴は今まで終わらせる力とやらを使わずに事件を解決してきた。頼むよ」
「ふーむ……」
菫の言葉にしばし沈黙するも、それを信頼することした。死神と言ってもゆげんも心を持つ存在。菫の言葉に今の了にかけてみることにした。それに無理に終わりの力を使わせて、恨みを買う事も回避した。
「まあ事件を解決してきたのならいいでしょう。では了、今回の事件お願いします」
「……わかった。事件を起こした魂は何か特別な力をもっていたのか」
「魂自体は力を持っていませんが、無限の代行者であるアトジが生み出したエルカードを持っています。どこでアトジが接触したのかは不明です」
「エルカードを作ったのも代行者なのか?」
菫は驚き死神に聞く。死神は平然と答える。
「そうです。エルカードとは『無限の代行者で、可能性を与える役目を持つアトジ』が生み出したものです。しかしそのアトジも何やら自我に目覚め不可解な行動をしているようですが……」
その言葉を聞いて、ため息をつき呆れる菫。
「そうかい代行者はすごいな、夢幻界に影響与え過ぎだ。て代行者の話しがメインでは無かったな。事件を起こした魂は悪い魂なのか」
「善の魂です。生前の罪はありません」
「なぜそんな奴が暴れているんだ」
「言い難いことです。しかしその魂に惹かれ、ほかの魂も同調し力を増しています。なので早めの対処をお願いします」
「その魂は今どこに」
「夢幻界の空に特殊な空間を作り出し、そこに閉じ込めています。そこにつながる空間通路も用意してありますのでお願いしますよ」
ゆげんは大鎌を振り空間に黒い穴を作り出した。そして乗ってきた小舟に乗り、向うの岸と帰っていった。
河原には了と菫が残された。菫が話しかける。
「まさか、お前が人間じゃなく。神的な高位な存在だったとはな」
「人間じゃないのを黙っていてすまない……」
頭を下げ了は謝罪した。しかし菫は了が人間でなかったことなんてどうでもよく、頭を上げさせた。
「気にしてないさ。了は了だ。終わりを与えるから名前が了で。人間じゃないから布団の使いかたや銭湯の男女別だとか服を脱ぐだとか意味がわからないのか」
「ああ、わからなかった。」
「アトジとは知り合いなのか」
「そうだ、同じ代行者だからな。奴は人間の真似事をしている私をばかにしているだろうさ」
「なあ了、終わりの力とは何だ」
「その名の通り、物事に終わりを与える強大な力で、様々な力に対応できる。絶対無敵、『最強の力』だ。しかし使えば……」
「人間性と心を失うか。余計なこと聞いて悪かったなじゃあ行くか」
「いや、戦うのは私だけでいい。わざわざ死神が私を頼ることだ、余程だろう」
「おーんしかしお前」
「菫は夢幻界に戻って、不測の事態に備えてくれ」
その言葉に菫は了に心配そうな目を向ける。
「何とかしてみるさ。菫がゆげんに力を使わせなくてもいいと言ってくれたこと、とても嬉しかったよ」
喜びの顔を菫に向ける了。それに菫は「うっせ。気にすんな恥ずかしくなる」と言い顔を赤らめた。
そんな彼女に了は改めて、気持ちを伝える。
「そうかい、でも本当にありがとな、じゃあ行ってくる。月に行くとき葉月にお前の事悪く言ったすまない」
「だから、かまわねーよ、事実だからさ。早く事件解決しに行け」
「わかった行ってくる」
了は穴に飛び込んだ。穴は了を入れ閉じた。菫は夢幻界に戻ろうと来た道をバイクで走った。
古き日本のどこかで、病気に苦しむ女は助けを求めて手を伸ばした。しかし誰にも助けられず看取られずに死を迎えた。そして魂は天にのぼった。
――-
「ここはどこだ!?」
了は眠りから目が覚めると河原に横たわっていた。自分は家で寝ていたはずだ、そんな疑問を持ちながら立ち上がり辺りを見渡す了。
辺りは薄い霧がかかっており、近くには大きな川が流れ、水の音を立てていた。向う岸は霧がかかって見えない。河原には彼岸花が点々と咲いていた。了はここがただならぬ場所だと感じた。
「とりあえず、ここを離れるか」
川に背を向け、彼女が人里に向かい当てもなく歩き出そうとしたとき、バイクの音がした。霧の中、バイクと共に現れたのはズボンにTシャツを着た女、菫であった。菫は驚き了に話しかける
「ん、了お前何故ここに」
「お前こそどうして…… てか、ここどこか知っているのか」
「ここはあの世とこの世の境目、三途の川だ」
「なんだってー!」
「うっせえ!」
了は菫の言葉に目を丸くし、大声を上げた。三途の川とは死んだ者が来る場所である。菫は了が大声を出し驚いた。了は彼女に尋ねる。
「私たち死んだ?」
首を傾げ了は菫に尋ねる。それに対して、菫は呆れながら答えた。
「ちげーよ。お前がここにいるのは知らんが、私は事件の調査でここに着いた」
「事件?」
「お前…… 今夢幻界に、多数の魂があふれ出ているのを知らないのか」
「あーあ、あれね空飛ぶ餅だと思った。」
「そうか、目と頭悪いな。で私は魂がどこからあふれ出ているのかを調べ、人里にある寺の洞窟からだと分かった」
「そうか。でもここが三途の川だとよくわかったな」
(……餅発言は冗談だ)
冗談が通じなかったことに了は顔を赤らめ、菫はここに来た経緯を了に話す。
「それは洞窟が前々から三途の川に続いているじゃないかとの噂があったからだ。まあ、ここが三途の川かは断定できんが、辺りの風景をみるとほぼそうじゃないかな。で洞窟に入り進んでいるうちにここに着き、了が居た」
「そうか、そういや葉月の奴は来てないんだな」
「色々あったろ、それで元気を無くし家にこもっているらしい」
「そうか、心配だな……」
そんな話をしている二人をよそに、川から小舟に乗った少女が現れた。二人は少女に気付き警戒する。やがて少女は岸に着き了達に歩み寄る。少女の顔つきは鋭く恰好は紺色のグラデーションで彩られたスーツで大きな鎌を持っていた。少女は了の顔を見て話しかけてきた。
「あなたが了ですね、初めまして。そちらの方はどなたですか」
了は少女が自分の名を知っていることに驚き、菫は少女に対し威圧的な態度をとる。
「なぜ私の名を知っている」
「あーんてめえ誰だ、変な格好してよー」
「失礼ですねあなた…… 私は夢幻界を担当する死神の一人ゆげんです」
「嘘いってんじゃねーの」
菫の言葉に、ゆげんは目をぎょろりと菫に向けて言い返す。
「言ってません。閻魔様に誓ってもいいです」
その言葉に菫はいまいち信じられない顔をしていたが、了は違った。彼女はゆげんから特別な力を感じ取って、信じた。
「菫どうやらマジらしいぜ……」
そういって菫に語る。その言葉にゆげんは便乗して、話す。
「そうです。本当です。ところで了、夢幻界に魂が溢れている事は知ってますね」
「了のやつは空飛ぶ餅だと、言ってましたあ」
ゆげんが説明していると、菫がよけいなちゃちゃを入れる。それを聞いたゆげんは驚き、了を可哀想な子を見るような目を向ける。
「なんと! それはそれはお気の毒に病院に行くことをお勧めします……」
「冗談なんです。冗談です!」
菫の言葉を素直に信じそうになったゆげんに、訂正の言葉を赤面しながら伝える了。
そしてゆげんに尋ねる。
「ところで、なぜ私の名前を知っているんです? それに私は家で寝ていたはずなんだけど此処に居て、何か知ってますか」
「あなた一部では少し有名ですからね。ここに居たのは私が事件解決にと呼んだからです」
「そ、そうか。死んではないのか」
了は少しだけ、ほっとした。 菫がゆげんに話しかける。
「ゆげんだっけか、あんた夢幻界に魂が溢れてるの知ってのか。おーん」
「知ってます。魂が溢れているのは、ある魂が神仏に仇すとあの世で暴れだしたからです。それにより魂が人間世界に湧き出て無用な混乱が起きてしまうと予測されたため、溢れ出す先を何とか人間世界から夢幻界に変えました」
ゆげんの説明に「だからか。つーか夢幻界とばっちりだな」了は呆れ、「ゆげんといったか。謝れよー」と菫は怒り、ゆげんに突っかかる。しかしそれに対して、ゆげん何とも思っておらず、たんぱくに返す。
「すみませんね。上に代わって謝罪します」
「それで謝ったつもりかよん」
そう言う菫の言葉に ゆげんは「そうですけど」と、どこ吹く風である。菫はその態度にイラついた。ゆげんはイラつく菫を無視して、了に話しかけた。
「それで、終わりを与える者である、貴方に事件解決をお願いしたいのです」
その言葉に了は気まずい顔になり、菫は怪訝な顔をする。
「なんだ、終わりを与える者ってよ」
「それを話すのには夢幻界に関して話さなくてはなりません」
「ほーん夢幻界が関係してんのか」
「ええそうです。話しますが構いませんね?了」
ゆげんは確認を求め、了は頷き了承した。
「……いいぜ」
「では話しましょう。この世界は異世界、夢幻界であることはご存知ですね」
ゆげんは菫に向かい問いかける。了は静かにしている。
「ああ、夢幻界は人間界とは別の異世界だってことな」
「夢幻界が存在する理由。夢幻界とは、そこに住む人間や魔物に新たに人生に価値を与える場所なのです。救済の場所ということですね。」
「…… それと了に何の関係があるんだ」
菫は了を見た。 彼女は浮かない顔している。
「しかし救われるもの以外に、価値のない不要である者もいます。そういった者や、もはや世界がどうしようもない場合に対して、『全てを終わらせる力』を持つ、終わりを与える者が現れます。それが了です」
「嘘だろ……」
ゆげんから語られた真実に、菫は目を見開いて驚き否定の言葉をつぶやく、しかしゆげんによって否定される。
「嘘ではありません。了の正体は、終わりの力を持ち与える者、『終わりの代行者』で人では無いです」
「代行者ってなんだよ」
「世界の意思や力が具現化したものです。まあ神といった高位の存在といっても過言ではありませんね」
「了が神様かあ。嘘くせえ。コイツは飯が食うことが好きなただのお人好しだぜ?」
「本当のことです。しかし、終わらせる者には人間性や人間の心なんてものは、無い筈ですが…… 了、今の貴方をにはそれがあります。貴方はなぜそれを持っているのですか?」
了を不思議な目で見るゆげん。そんな彼女に了は目を合わさずに話をはじめる。
「私はあることで保護されて人として生活することになった。人として過ごしていくうちに人間性や人の心が芽生え、終わりを与える者でなく誰かを助けたい救える者になりたいと考え、今に至っている……」
「そうですか、なるほど。了貴方は本来の力を封じていますね」
「ああ、終わりを与える力は封じている……」
「使いなさい」
ゆげんは目を合わさない了に対してハッキリと告げる。その言葉に了は動揺してしまう。
「! ……力を使うと人間性や人の心を失ってしまう」
「それがどうかしましたか」
「私は代行者としてで無く、人として生きたいのです……」
了の声は震えていた。確かな思いだからだ。ゆげんはどう対応していいか少し困っている。そんな中で菫がゆげんに話しかける。
「なあ死神さんよー。了の奴が使いたくないっぽいし、使わせなくていいんだろ。それに了の奴は今まで終わらせる力とやらを使わずに事件を解決してきた。頼むよ」
「ふーむ……」
菫の言葉にしばし沈黙するも、それを信頼することした。死神と言ってもゆげんも心を持つ存在。菫の言葉に今の了にかけてみることにした。それに無理に終わりの力を使わせて、恨みを買う事も回避した。
「まあ事件を解決してきたのならいいでしょう。では了、今回の事件お願いします」
「……わかった。事件を起こした魂は何か特別な力をもっていたのか」
「魂自体は力を持っていませんが、無限の代行者であるアトジが生み出したエルカードを持っています。どこでアトジが接触したのかは不明です」
「エルカードを作ったのも代行者なのか?」
菫は驚き死神に聞く。死神は平然と答える。
「そうです。エルカードとは『無限の代行者で、可能性を与える役目を持つアトジ』が生み出したものです。しかしそのアトジも何やら自我に目覚め不可解な行動をしているようですが……」
その言葉を聞いて、ため息をつき呆れる菫。
「そうかい代行者はすごいな、夢幻界に影響与え過ぎだ。て代行者の話しがメインでは無かったな。事件を起こした魂は悪い魂なのか」
「善の魂です。生前の罪はありません」
「なぜそんな奴が暴れているんだ」
「言い難いことです。しかしその魂に惹かれ、ほかの魂も同調し力を増しています。なので早めの対処をお願いします」
「その魂は今どこに」
「夢幻界の空に特殊な空間を作り出し、そこに閉じ込めています。そこにつながる空間通路も用意してありますのでお願いしますよ」
ゆげんは大鎌を振り空間に黒い穴を作り出した。そして乗ってきた小舟に乗り、向うの岸と帰っていった。
河原には了と菫が残された。菫が話しかける。
「まさか、お前が人間じゃなく。神的な高位な存在だったとはな」
「人間じゃないのを黙っていてすまない……」
頭を下げ了は謝罪した。しかし菫は了が人間でなかったことなんてどうでもよく、頭を上げさせた。
「気にしてないさ。了は了だ。終わりを与えるから名前が了で。人間じゃないから布団の使いかたや銭湯の男女別だとか服を脱ぐだとか意味がわからないのか」
「ああ、わからなかった。」
「アトジとは知り合いなのか」
「そうだ、同じ代行者だからな。奴は人間の真似事をしている私をばかにしているだろうさ」
「なあ了、終わりの力とは何だ」
「その名の通り、物事に終わりを与える強大な力で、様々な力に対応できる。絶対無敵、『最強の力』だ。しかし使えば……」
「人間性と心を失うか。余計なこと聞いて悪かったなじゃあ行くか」
「いや、戦うのは私だけでいい。わざわざ死神が私を頼ることだ、余程だろう」
「おーんしかしお前」
「菫は夢幻界に戻って、不測の事態に備えてくれ」
その言葉に菫は了に心配そうな目を向ける。
「何とかしてみるさ。菫がゆげんに力を使わせなくてもいいと言ってくれたこと、とても嬉しかったよ」
喜びの顔を菫に向ける了。それに菫は「うっせ。気にすんな恥ずかしくなる」と言い顔を赤らめた。
そんな彼女に了は改めて、気持ちを伝える。
「そうかい、でも本当にありがとな、じゃあ行ってくる。月に行くとき葉月にお前の事悪く言ったすまない」
「だから、かまわねーよ、事実だからさ。早く事件解決しに行け」
「わかった行ってくる」
了は穴に飛び込んだ。穴は了を入れ閉じた。菫は夢幻界に戻ろうと来た道をバイクで走った。
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