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第二十八話 剣と憎しみ 2
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「……阿藤さんや亡くなった旦那さんは、私や親を亡くした奴を大切にしてくれたんだ。家族同然の様に面倒を見てくれた。本当にいい人なんだよ。優しい人なんだよ」
菫は葉月の弁明ともとれる急な話を黙って聞いた。話を聞いた彼女は葉月に疑問をぶつけた。
「なぜいつも会わないんだ。久しぶりというほど、間を開けて」
「何処か会いづらかったから……」
「そっか……」
菫はそれだけ聞いて、後は何も言わなかった。葉月が曖昧な返事をしたのは、何故阿藤と会いづらいのかが、葉月自身もよく分からないからだ。
二人はそんなこんなで次の目的地に着いた。
「で、此処にいるのか?」
「ああ、そうだ。私の友人でもある奴がな。暦といってな、私と同じく阿藤さんに大変世話になった。」
彼女たちはボロい平屋の前にいた。葉月は扉をたたく。中から女の子の元気な声が聞こえた。中から現れたのは、青いリボンを付けた黒い帽子をかぶった、ぽわぽわした印象を与える黒髪の少女、暦が出てきた。歳は葉月と同じぐらいで、背丈は小柄だった。暦は葉月見て、不思議そうな顔で尋ねる。
「どうしたの、葉月。それに連れの人はだあれ?」
「連れは菫と言って、管理所の者だ。少し話が会ってきた」
「そうなのじゃあがって、あがってー」
その言葉に二人は家の中に入る。通された部屋は物があまりない殺風景な部屋だった。その部屋の端に刀が無造作に置いてある。何処か忌避しているような印象を葉月は受けた。
「お父さん、お母さん。お客さんだよー」
暦は誰もいない部屋に話しかける。その行動に困惑した菫がどういうことだと葉月に聞いた。
「暦は親が殺され、封魔に入り、戦いの苦しさで気がおかしくなった」
「へえ……」
それを聞き、菫は顔を引きつらせた。流石の菫も暦の言動には嫌悪などと思う所があった。
暦は葉月の言葉を聞き、頬を膨らませ抗議する。
「何言っているのっお父さんとお母さんはここにいるよ!」
そう言い誰もいない空間に指さす。あるのは薄汚れた壁だけ、誰もいない。そんな暦を葉月は無視し、話続ける。
「そして、気がふれて運が良かったのか悪かったのか、超能力、幻覚をみせる能力に目覚めた」
「なるほどね、超能力を使ってごまかしてるわけか」
それを聞いた菫は、暦の言動に納得した。しかし暦は手を身振り手振りし否定する。
「ちがうのーいるのーここにー」
葉月は暦の親は生きていると言う抗議を無視し本題に入る。
「なあ暦、最近辻切事件があったの知っているか」
「知っているよ」
暦はどこか宙を見ている。葉月が遊びに来たのでは無いとわかり、そっけない返事をした。
「事件が起きた日何していた?」
「その日はずっと家にいたよ。お父さんとお母さんと一緒に」
その言葉を聞き、葉月は少し嫌になる。菫は犯人かもなと呟いた。
「暦…… お前の家族は死んだんだ。もういない」
葉月の言葉に暦はきょとんとした。彼女はまるで狂言を聞いたかのような表情だ。しかし葉月は暦を諭すように話す。
「お前は自分の力を使って、現実から目をそらしているだけだ」
「何言っているの……」
「辛いのも分かるが、いつまで逃げるつもりだ」
「…………」
暦は帽子を深くかぶり、うつむいて何も話さない。二人のやりとりを隣で聞いている菫は、事件に関係ない話に、この場から離れたがっていた。
「なあー関係ない話なら私外にいるぞー」
「ああ行け」
「では構いなく」
菫は外に出て、部屋には葉月と暦の二人になった。
「……わかっているよ」
暦は口を開き、葉月を見る。目には涙がたまっていた。それを見た彼女は思わず、目を逸らす。
そして暦が今の状況を分かっている事に対し、葉月は言葉を発した。
「分かっているなら……」
「でもね、私はお父さんお母さんのいない世界に耐えられない。耐えられなかった」
「なら死んだ家族ためにも、私の様に封魔の時の様に戦えばいいだろ」
「戦っても何も残らなかったじゃない。あの戦いは無駄なものだった。しなきゃよかった……」
「何っ!」
彼女はその言葉に激高し、思わず襟首をつかむ。暦は涙をこぼし話す。
「だってそうでしょ、戦って傷ついて結局はこれ……」
彼女は部屋を見渡す。あるのは刀だけだった。誰もいない。ずっと一人で暮らしていたのだろう。家族が居なくなってずっと。
「妖怪を倒しても家族が戻らない、友達も…… ずっと一人ぼっち……」
その言葉に葉月は手を放した。そして、こんな話をした自分が悪いと考え、暦に対し謝罪する。
「すまん……」
「……あっれーなに言っているんだろ私、家族はみんな生きているのにねー。あははははははは」
暦の乾いた笑いが部屋に響く。葉月は居た堪れなくなり、家を出ようと扉に手をかける。すると暦が話しかけてきた。
「ねえ葉月、いつまで戦うの。もうやめようよ。そのままだと…… いつか死んじゃうよ」
「…………」
暦の言葉に葉月は何も言えず扉を開けて出ていく。外に出るとカラスが鳴く夕方になっていた。先に出ていた菫は夕焼けの空を眺めていた。菫に話は終わったことを伝える。
「話は終わった。待たせて悪いな」
「外まで聞こえていたぜ」
「嘘でしょ……」
葉月は余り人には聞かれたくない話だったため、声を落とし反応する。菫は葉月を一瞥し、夕日の方を見ながら悲し気に話しかけた。
「話聞いてさ、私思ったんだけどよ。お前もあいつも似たもんだな」
「いきなりなんだ、菫」
「だってよ、魔物を嫌うのはまあ分かるが今は平和なのにやれ人のためだ世界の為だ、で魔物と戦う。そういや罪も無い奴を襲ったらしいな」
「なにが…… 言いたい」
「お前が戦っているのは、自分に何も残らなかったことを誤魔化したいだけなのさ。要は暦と同じことしてるわけ」
「菫…… 貴様ア」
葉月は怒り刀に手をかける。怒りに気がついたのか、菫は葉月へ振り返る。
「おっとちょい、言いすぎたかな。だがお前がやっていることは無意味に戦って自己満足するためだ」
その言葉に、葉月の頭に傷つけた了や妖怪のムクの顔が浮かび何も言えなくなってしまった。
「…………」
「お前が阿藤に会おうとしないのは、現在の状況が自分にそっくりだったからさ」
「そんなことない! ……ただ会いづらかっただけだ」
そうは言うが、葉月は阿藤の部屋を思い返す。過去のことが尾を引き、誰もいない、何もない部屋を作り出している部屋を。 私も同じ。そんな考えが葉月の脳裏によぎる。菫の言葉は続く。
「なあ、おまえが傷つけた奴にも親しい者がいただろうに」
「うるさい! 魔物なんてみんな屑だ!」
声を絞り出して菫の言葉を否定する。菫は、葉月に語る。
「なら何故月で魔物を助けた? 魔物の街で暴れなかった? 結局の所お前はどこか後ろめたさがあるのさ」
「それは……」
「お前は過去の怒りで自分自身を、今の自分の現実を誤魔化しているだけさ。本当は戦いたく無いんじゃないか?」
「ちがう! そんなことなんて無い!」
強い言葉で菫の言葉を否定する。しかし菫の言葉は続く。
「自分がやってしまったことを誤魔化し、罪から逃げているのさ」
「違う!」
「葉月いい加減、過去を忘れろ。そして今を楽しく生きたらどうだ。きっとその方が幸せだろう」
菫はまるで母親の様に葉月を諭す。その態度が葉月には気にくわず声を荒げる。
「説教でもしているつもりか!?」
「哀れなお前を思って言っているのさ……」
「菫ッ!」
とうとう葉月は刀を抜き、菫に向け否定する。菫はそれを見てため息をつき呆れた。
「ま、お前がそう思うなら…… しかし無駄話が過ぎたな。今日は疲れた。ここらで切り上げるか。何かわかったら管理所まで言いに行けよ」
菫は背をむける。葉月は菫に向かって声を出す。
「……罪がなんだ私に言うが、お前だって月で無駄に魔物を傷つけたじゃないか」
しかし声は本人が思ったより、か細いものだった。だが菫には伝わったらしく、彼女は笑う。
「あははは。そりゃそうだ私もロクデナシさ。過去の怒りでねえ、たしかにねえ。あははは」
菫は自虐の笑い声を発しながら一人去っていく。残された葉月は追いかける気は無く、立ち尽くした。
――――
夜 雨がぽつぽつと夢幻界に降っていた。
葉月は阿藤の家にいた。客間に案内され座る葉月。
「夜分、遅くに申し訳ありません。お話ししたいことが有って着ました」
「なあに話したいことって」
阿藤は笑みを浮かべ、対応する。葉月は静かに言葉を発した。
「単刀直入に言います。今回の辻切事件、阿藤さんあなたがやりましたよね」
その言葉に阿藤は、困惑の表情になる。だが葉月は証拠を見つけての言葉だ。彼女は客間に飾られている刀を指さし、阿藤を見据える。
「客間にある刀から、ほんのわずかに血と妖力を感じました」
超常的な力の発見は、菫など特別な力を持たぬ者には難しい。だが封魔に入り霊力を身に着けた葉月にはわかった。
葉月の言葉に彼女は素知らぬ顔でそんなことないわと言うが、葉月が調べてみればわかることですと言うと、自分には元より不可能だと自身の体に手を当て否定する。
「私は大きな怪我があるのよ、だから無理ね」
「あなたほどの人なら、その程度の怪我なんてことないでしょう」
「ありえない、もしそれが犯行に使った刀ならなぜ隠そうとしないのかしら」
「それは、魔物を斬った自己満足に浸りたいからです。 私も ……覚えがあります」
過去の愚行を思い出しながら葉月は話す、阿藤は顔を伏せ、しばらくの沈黙の後に言葉を発した。
「覚えですって……」
「ええ、私も魔物への恨みを忘れられずにやってしまったことがあります」
阿藤は話を聞き肩を震わせていた。葉月は相手が私の様な愚行を行い恥じて泣いていると思い、説得を試みる。
「今はだれも死んでいません。阿藤さんどうかおやめになって…」
「良かった私以外にもいたなんて……」
阿藤の反応は喜びの表情だった。葉月は彼女の感情が分からなかった
「私一人だけと思っていた…… 今でも魔物を殺したくて殺したくて。ねえ! 葉月ちゃん見せたいものがあるの!」
そう言い、客間から離れ、大きな箱を持ってきた。葉月は異様な雰囲気にのまれて動けない。せいぜい、持ってきた箱に対しての質問をするのが精一杯だった。
「な、なんです。これ……」
「みてみて」
阿藤は笑顔で箱を開けた。葉月は恐る恐る箱の中を覗き見る。そして驚愕した。箱の中には妖怪がいたのだ。ただ普通の姿では無い。四肢は切断されており 何本もの釘や針が顔や体に刺さっていた。そのうえ顔は削がている。目には焼き後のようなものも見て取れた。腹部にも大きな傷跡があった。
悪趣味でグロテスクな生きたオブジェだった。 葉月は凄惨な光景に思わず片手で口をふさぐ
そして刀に手をかけ阿藤に目を向けた。阿藤はニコニコと笑顔を浮かべている。
「こ、これは……」
「これは妖怪よ。人里で歩いてる所を誘拐して拷問にかけたの」
恩師の犯罪行為に戦慄する葉月。そして震え声で尋ねた。
「……なんでこんなことを」
「ああ何でしたかってことね。それはね魔物は憎いからよ」
その言葉で、阿藤から狂気がにじみ出し、部屋の空気を鉛の様に重くした。阿藤の狂気が葉月を襲い、心の底から恐怖を湧き出た。葉月は怯えを隠すように大きな声で尋ねた。
「妖怪を憎んでいるなら、封魔が解散する際に何も言わなかったんですか!?」
「あの時は、まだ私が魔物に嫉妬と怒りを爆発させるなんて考えていなかったからよ」
「嫉妬!? 魔物に何で!?」
「私は魔物に大切な子供と夫を殺され、平和になっても何も戻らず。家に帰ってもずっと一人。なのに魔物どもは幸せに暮らしている。そう思ったら妖怪に憎しみと嫉妬が湧き出たのよ」
「そんな……」
「葉月ちゃんも私と同じ気持ちでしょう?」
「…………」
菫と一緒に訪ねた時に葉月に見せた阿藤の悲しい笑みは、自分の境遇が葉月の境遇に似ていることに、同情の気持ちと自分と同じで、葉月が今でも魔物を恨んでいる事を知って、喜びの気持ちが顔に現れたものだった。
そんな阿藤の言葉に、葉月は何も言えず、ただ圧倒されている。
「憎んでも憎んでも死者は戻らず。だから怒りで妖怪を斬っちゃっり、誘拐して拷問にかけたりねっ」
そう言って阿藤は箱を思い切り蹴る。葉月の耳に魔物のうめき声が、かすかに聞こえた。魔物は生きていたのだ。阿藤は笑う。
「でも、もうこんな下らない事は止めにして、本格的に行くわ」
「何をする気なんです……」
「管理所に保管してあるエルカードを手にし、魔物の街を襲うの。いいえそれだけじゃないわ、魔物は全て皆殺しよ」
「何をいっているんですか…… 止めてくださいよ」
葉月はかつての優しい阿藤と、目の前の人間が同一人物だと信じられなかった。否信じたくなかったのだ。だけど目の前の彼女が、それを否定するかの様な言葉を口にする。
「葉月ちゃんも家族や友人を魔物に奪われたでしょ。私と一緒にやらない?」
「っ! 私は……」
そう誘われた彼女は阿藤が恐ろしくなり、目線を箱の中の魔物に移す。箱の中の魔物が何かつぶやいているのが聞こえた。
「殺して…… 痛い殺して」
妖怪は自身の死を懇願していた。
「誰が喋っていいと言ったっ!」
妖怪の声に阿藤は激怒して、刀を手に取り妖怪に突き刺した。魔物の叫び声が響き、箱から血が染み出てきた。もう声は聞こえなくなった。それに満足して阿藤は葉月に笑顔を見せる。
「ごめんなさいね、うるさくて。どう葉月ちゃん手伝ってくれる。一緒に来てくれる?」
「……い、嫌だ」
「どうして、ねえ?」
「そ、それは…… 第一、管理所の物を盗むだなんて、不可能だ!」
「幻覚を操る暦ちゃんの力があるわ、心配ない」
暦が賛同したとの言葉を聞き、葉月の心に深い絶望がやってくる。
「嘘だ。賛同するわけがない……」
そして阿藤の言葉を否定した。それに阿藤は困った顔で答える。
「そうねえ、賛同してくれなかったわ。だけどね力づくでね、手伝ってもらうことにしたの」
(阿藤さんは私たちに暴力何て振るわないのに…… なのに、暦を。いったい何を言っているんだ)
阿藤が何を言っているのか葉月は理解できない。いや理解したくなかったのだ。もはやこの状況を夢だと思い、葉月は阿藤に尋ねる。
菫は葉月の弁明ともとれる急な話を黙って聞いた。話を聞いた彼女は葉月に疑問をぶつけた。
「なぜいつも会わないんだ。久しぶりというほど、間を開けて」
「何処か会いづらかったから……」
「そっか……」
菫はそれだけ聞いて、後は何も言わなかった。葉月が曖昧な返事をしたのは、何故阿藤と会いづらいのかが、葉月自身もよく分からないからだ。
二人はそんなこんなで次の目的地に着いた。
「で、此処にいるのか?」
「ああ、そうだ。私の友人でもある奴がな。暦といってな、私と同じく阿藤さんに大変世話になった。」
彼女たちはボロい平屋の前にいた。葉月は扉をたたく。中から女の子の元気な声が聞こえた。中から現れたのは、青いリボンを付けた黒い帽子をかぶった、ぽわぽわした印象を与える黒髪の少女、暦が出てきた。歳は葉月と同じぐらいで、背丈は小柄だった。暦は葉月見て、不思議そうな顔で尋ねる。
「どうしたの、葉月。それに連れの人はだあれ?」
「連れは菫と言って、管理所の者だ。少し話が会ってきた」
「そうなのじゃあがって、あがってー」
その言葉に二人は家の中に入る。通された部屋は物があまりない殺風景な部屋だった。その部屋の端に刀が無造作に置いてある。何処か忌避しているような印象を葉月は受けた。
「お父さん、お母さん。お客さんだよー」
暦は誰もいない部屋に話しかける。その行動に困惑した菫がどういうことだと葉月に聞いた。
「暦は親が殺され、封魔に入り、戦いの苦しさで気がおかしくなった」
「へえ……」
それを聞き、菫は顔を引きつらせた。流石の菫も暦の言動には嫌悪などと思う所があった。
暦は葉月の言葉を聞き、頬を膨らませ抗議する。
「何言っているのっお父さんとお母さんはここにいるよ!」
そう言い誰もいない空間に指さす。あるのは薄汚れた壁だけ、誰もいない。そんな暦を葉月は無視し、話続ける。
「そして、気がふれて運が良かったのか悪かったのか、超能力、幻覚をみせる能力に目覚めた」
「なるほどね、超能力を使ってごまかしてるわけか」
それを聞いた菫は、暦の言動に納得した。しかし暦は手を身振り手振りし否定する。
「ちがうのーいるのーここにー」
葉月は暦の親は生きていると言う抗議を無視し本題に入る。
「なあ暦、最近辻切事件があったの知っているか」
「知っているよ」
暦はどこか宙を見ている。葉月が遊びに来たのでは無いとわかり、そっけない返事をした。
「事件が起きた日何していた?」
「その日はずっと家にいたよ。お父さんとお母さんと一緒に」
その言葉を聞き、葉月は少し嫌になる。菫は犯人かもなと呟いた。
「暦…… お前の家族は死んだんだ。もういない」
葉月の言葉に暦はきょとんとした。彼女はまるで狂言を聞いたかのような表情だ。しかし葉月は暦を諭すように話す。
「お前は自分の力を使って、現実から目をそらしているだけだ」
「何言っているの……」
「辛いのも分かるが、いつまで逃げるつもりだ」
「…………」
暦は帽子を深くかぶり、うつむいて何も話さない。二人のやりとりを隣で聞いている菫は、事件に関係ない話に、この場から離れたがっていた。
「なあー関係ない話なら私外にいるぞー」
「ああ行け」
「では構いなく」
菫は外に出て、部屋には葉月と暦の二人になった。
「……わかっているよ」
暦は口を開き、葉月を見る。目には涙がたまっていた。それを見た彼女は思わず、目を逸らす。
そして暦が今の状況を分かっている事に対し、葉月は言葉を発した。
「分かっているなら……」
「でもね、私はお父さんお母さんのいない世界に耐えられない。耐えられなかった」
「なら死んだ家族ためにも、私の様に封魔の時の様に戦えばいいだろ」
「戦っても何も残らなかったじゃない。あの戦いは無駄なものだった。しなきゃよかった……」
「何っ!」
彼女はその言葉に激高し、思わず襟首をつかむ。暦は涙をこぼし話す。
「だってそうでしょ、戦って傷ついて結局はこれ……」
彼女は部屋を見渡す。あるのは刀だけだった。誰もいない。ずっと一人で暮らしていたのだろう。家族が居なくなってずっと。
「妖怪を倒しても家族が戻らない、友達も…… ずっと一人ぼっち……」
その言葉に葉月は手を放した。そして、こんな話をした自分が悪いと考え、暦に対し謝罪する。
「すまん……」
「……あっれーなに言っているんだろ私、家族はみんな生きているのにねー。あははははははは」
暦の乾いた笑いが部屋に響く。葉月は居た堪れなくなり、家を出ようと扉に手をかける。すると暦が話しかけてきた。
「ねえ葉月、いつまで戦うの。もうやめようよ。そのままだと…… いつか死んじゃうよ」
「…………」
暦の言葉に葉月は何も言えず扉を開けて出ていく。外に出るとカラスが鳴く夕方になっていた。先に出ていた菫は夕焼けの空を眺めていた。菫に話は終わったことを伝える。
「話は終わった。待たせて悪いな」
「外まで聞こえていたぜ」
「嘘でしょ……」
葉月は余り人には聞かれたくない話だったため、声を落とし反応する。菫は葉月を一瞥し、夕日の方を見ながら悲し気に話しかけた。
「話聞いてさ、私思ったんだけどよ。お前もあいつも似たもんだな」
「いきなりなんだ、菫」
「だってよ、魔物を嫌うのはまあ分かるが今は平和なのにやれ人のためだ世界の為だ、で魔物と戦う。そういや罪も無い奴を襲ったらしいな」
「なにが…… 言いたい」
「お前が戦っているのは、自分に何も残らなかったことを誤魔化したいだけなのさ。要は暦と同じことしてるわけ」
「菫…… 貴様ア」
葉月は怒り刀に手をかける。怒りに気がついたのか、菫は葉月へ振り返る。
「おっとちょい、言いすぎたかな。だがお前がやっていることは無意味に戦って自己満足するためだ」
その言葉に、葉月の頭に傷つけた了や妖怪のムクの顔が浮かび何も言えなくなってしまった。
「…………」
「お前が阿藤に会おうとしないのは、現在の状況が自分にそっくりだったからさ」
「そんなことない! ……ただ会いづらかっただけだ」
そうは言うが、葉月は阿藤の部屋を思い返す。過去のことが尾を引き、誰もいない、何もない部屋を作り出している部屋を。 私も同じ。そんな考えが葉月の脳裏によぎる。菫の言葉は続く。
「なあ、おまえが傷つけた奴にも親しい者がいただろうに」
「うるさい! 魔物なんてみんな屑だ!」
声を絞り出して菫の言葉を否定する。菫は、葉月に語る。
「なら何故月で魔物を助けた? 魔物の街で暴れなかった? 結局の所お前はどこか後ろめたさがあるのさ」
「それは……」
「お前は過去の怒りで自分自身を、今の自分の現実を誤魔化しているだけさ。本当は戦いたく無いんじゃないか?」
「ちがう! そんなことなんて無い!」
強い言葉で菫の言葉を否定する。しかし菫の言葉は続く。
「自分がやってしまったことを誤魔化し、罪から逃げているのさ」
「違う!」
「葉月いい加減、過去を忘れろ。そして今を楽しく生きたらどうだ。きっとその方が幸せだろう」
菫はまるで母親の様に葉月を諭す。その態度が葉月には気にくわず声を荒げる。
「説教でもしているつもりか!?」
「哀れなお前を思って言っているのさ……」
「菫ッ!」
とうとう葉月は刀を抜き、菫に向け否定する。菫はそれを見てため息をつき呆れた。
「ま、お前がそう思うなら…… しかし無駄話が過ぎたな。今日は疲れた。ここらで切り上げるか。何かわかったら管理所まで言いに行けよ」
菫は背をむける。葉月は菫に向かって声を出す。
「……罪がなんだ私に言うが、お前だって月で無駄に魔物を傷つけたじゃないか」
しかし声は本人が思ったより、か細いものだった。だが菫には伝わったらしく、彼女は笑う。
「あははは。そりゃそうだ私もロクデナシさ。過去の怒りでねえ、たしかにねえ。あははは」
菫は自虐の笑い声を発しながら一人去っていく。残された葉月は追いかける気は無く、立ち尽くした。
――――
夜 雨がぽつぽつと夢幻界に降っていた。
葉月は阿藤の家にいた。客間に案内され座る葉月。
「夜分、遅くに申し訳ありません。お話ししたいことが有って着ました」
「なあに話したいことって」
阿藤は笑みを浮かべ、対応する。葉月は静かに言葉を発した。
「単刀直入に言います。今回の辻切事件、阿藤さんあなたがやりましたよね」
その言葉に阿藤は、困惑の表情になる。だが葉月は証拠を見つけての言葉だ。彼女は客間に飾られている刀を指さし、阿藤を見据える。
「客間にある刀から、ほんのわずかに血と妖力を感じました」
超常的な力の発見は、菫など特別な力を持たぬ者には難しい。だが封魔に入り霊力を身に着けた葉月にはわかった。
葉月の言葉に彼女は素知らぬ顔でそんなことないわと言うが、葉月が調べてみればわかることですと言うと、自分には元より不可能だと自身の体に手を当て否定する。
「私は大きな怪我があるのよ、だから無理ね」
「あなたほどの人なら、その程度の怪我なんてことないでしょう」
「ありえない、もしそれが犯行に使った刀ならなぜ隠そうとしないのかしら」
「それは、魔物を斬った自己満足に浸りたいからです。 私も ……覚えがあります」
過去の愚行を思い出しながら葉月は話す、阿藤は顔を伏せ、しばらくの沈黙の後に言葉を発した。
「覚えですって……」
「ええ、私も魔物への恨みを忘れられずにやってしまったことがあります」
阿藤は話を聞き肩を震わせていた。葉月は相手が私の様な愚行を行い恥じて泣いていると思い、説得を試みる。
「今はだれも死んでいません。阿藤さんどうかおやめになって…」
「良かった私以外にもいたなんて……」
阿藤の反応は喜びの表情だった。葉月は彼女の感情が分からなかった
「私一人だけと思っていた…… 今でも魔物を殺したくて殺したくて。ねえ! 葉月ちゃん見せたいものがあるの!」
そう言い、客間から離れ、大きな箱を持ってきた。葉月は異様な雰囲気にのまれて動けない。せいぜい、持ってきた箱に対しての質問をするのが精一杯だった。
「な、なんです。これ……」
「みてみて」
阿藤は笑顔で箱を開けた。葉月は恐る恐る箱の中を覗き見る。そして驚愕した。箱の中には妖怪がいたのだ。ただ普通の姿では無い。四肢は切断されており 何本もの釘や針が顔や体に刺さっていた。そのうえ顔は削がている。目には焼き後のようなものも見て取れた。腹部にも大きな傷跡があった。
悪趣味でグロテスクな生きたオブジェだった。 葉月は凄惨な光景に思わず片手で口をふさぐ
そして刀に手をかけ阿藤に目を向けた。阿藤はニコニコと笑顔を浮かべている。
「こ、これは……」
「これは妖怪よ。人里で歩いてる所を誘拐して拷問にかけたの」
恩師の犯罪行為に戦慄する葉月。そして震え声で尋ねた。
「……なんでこんなことを」
「ああ何でしたかってことね。それはね魔物は憎いからよ」
その言葉で、阿藤から狂気がにじみ出し、部屋の空気を鉛の様に重くした。阿藤の狂気が葉月を襲い、心の底から恐怖を湧き出た。葉月は怯えを隠すように大きな声で尋ねた。
「妖怪を憎んでいるなら、封魔が解散する際に何も言わなかったんですか!?」
「あの時は、まだ私が魔物に嫉妬と怒りを爆発させるなんて考えていなかったからよ」
「嫉妬!? 魔物に何で!?」
「私は魔物に大切な子供と夫を殺され、平和になっても何も戻らず。家に帰ってもずっと一人。なのに魔物どもは幸せに暮らしている。そう思ったら妖怪に憎しみと嫉妬が湧き出たのよ」
「そんな……」
「葉月ちゃんも私と同じ気持ちでしょう?」
「…………」
菫と一緒に訪ねた時に葉月に見せた阿藤の悲しい笑みは、自分の境遇が葉月の境遇に似ていることに、同情の気持ちと自分と同じで、葉月が今でも魔物を恨んでいる事を知って、喜びの気持ちが顔に現れたものだった。
そんな阿藤の言葉に、葉月は何も言えず、ただ圧倒されている。
「憎んでも憎んでも死者は戻らず。だから怒りで妖怪を斬っちゃっり、誘拐して拷問にかけたりねっ」
そう言って阿藤は箱を思い切り蹴る。葉月の耳に魔物のうめき声が、かすかに聞こえた。魔物は生きていたのだ。阿藤は笑う。
「でも、もうこんな下らない事は止めにして、本格的に行くわ」
「何をする気なんです……」
「管理所に保管してあるエルカードを手にし、魔物の街を襲うの。いいえそれだけじゃないわ、魔物は全て皆殺しよ」
「何をいっているんですか…… 止めてくださいよ」
葉月はかつての優しい阿藤と、目の前の人間が同一人物だと信じられなかった。否信じたくなかったのだ。だけど目の前の彼女が、それを否定するかの様な言葉を口にする。
「葉月ちゃんも家族や友人を魔物に奪われたでしょ。私と一緒にやらない?」
「っ! 私は……」
そう誘われた彼女は阿藤が恐ろしくなり、目線を箱の中の魔物に移す。箱の中の魔物が何かつぶやいているのが聞こえた。
「殺して…… 痛い殺して」
妖怪は自身の死を懇願していた。
「誰が喋っていいと言ったっ!」
妖怪の声に阿藤は激怒して、刀を手に取り妖怪に突き刺した。魔物の叫び声が響き、箱から血が染み出てきた。もう声は聞こえなくなった。それに満足して阿藤は葉月に笑顔を見せる。
「ごめんなさいね、うるさくて。どう葉月ちゃん手伝ってくれる。一緒に来てくれる?」
「……い、嫌だ」
「どうして、ねえ?」
「そ、それは…… 第一、管理所の物を盗むだなんて、不可能だ!」
「幻覚を操る暦ちゃんの力があるわ、心配ない」
暦が賛同したとの言葉を聞き、葉月の心に深い絶望がやってくる。
「嘘だ。賛同するわけがない……」
そして阿藤の言葉を否定した。それに阿藤は困った顔で答える。
「そうねえ、賛同してくれなかったわ。だけどね力づくでね、手伝ってもらうことにしたの」
(阿藤さんは私たちに暴力何て振るわないのに…… なのに、暦を。いったい何を言っているんだ)
阿藤が何を言っているのか葉月は理解できない。いや理解したくなかったのだ。もはやこの状況を夢だと思い、葉月は阿藤に尋ねる。
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大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
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全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
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この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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