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第二十三話 日常の疑問

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人里の昼 葉月は呉服屋で働いていた。服の整理をしているところに声をかけられ、相手をする。声をかけたのは菫だった。葉月には菫はどこか苦手な相手だった。けして診療所での叫びの事は関係無いと葉月は思う。

「よう、葉月」

「何の様だ、菫」

「まあ、少し話をしたくな」

 菫はへらへら笑っている。葉月は手を止めずに話を聞く。

「葉月はなんで封魔に入ったんだ」

 封魔の事を聞かれたことで、驚き仕事の手が止まる。 そして菫の方に顔を向けた。

「なぜそんなことを聞くんだ?」

「今に至るまで魔物を憎む気持ちの根元が気になったからだ。同じ戦う物として」

 そう語る菫の顔は先ほどのへらへらした顔ではなかった。それを見て葉月は話をはじめる。

「聞いてもつまらんぞ…… 魔物に家族を殺されたからだ」

「それは先導師が現れてた時期か」

「そうだ。だからなにさ」

「別に、それと管理所の危険な仕事を何で手伝っていんのかなて、気になってね」

「それはもしかして事件を起こしたのが妖怪かもしれないからだ。もしそうなら人を守るために立ち向かう」

「たいそうな考えですこと」

「もし魔物関係で困っていたら頼ってもいいぞ」

「考えとくわ。お前はまだ魔物を恨んでる?」

 その菫の言葉には、寂しさや悲しみが含まれていた。それを察して葉月は静かに答える。

「ああ……」

「おまえいつまで恨むの?」

 その言葉に葉月は、逡巡してから答えた。

「それは…… いつまでもだ」

 葉月の答えは何処までも戦うという意思だった。しかし菫には葉月のこの言葉は自分自身に言い聞かせているように思えた。

「そうか…… 苦しい人生だな」

 菫はどこか悲しげに笑う。普段と違う菫に、困惑した。

「何が言いたいんだ」

「いや別に。お前を憐れんでいるのさ、悲しい現実にいる、お前をな」

「……? 家族がいないことか?」

「まあそうであり、全てでは無い」

「わけわからんぞ」
 菫の含みのある言葉に、葉月は首を傾げるも、菫は無視した。

「ま、気にするな。お前幸せか?」

「? まあ、何とも言えんが生きているからそうなんじゃないか」

「じゃあいいか」

「何が」
 当然の疑問を口にする葉月。しかし菫は答えない。

「知らない方が良いのさ。幸せなら」

 菫の言葉に葉月は首を傾げて不思議に思う。

「? わけわからんがお前はどうなんだ。妖怪との戦いでスーツが壊れて不幸せじゃないのか?」

「修理にだしてるし、他のもある」

「スーツて何種類あるんだ?」

「七つだ。私が使った物の他に、『空を飛ぶもの』や『工事用』のもある。私は平気さ」

「そっか、ところでなんで幸せかどうか聞いたんだ?」

「幸せなら知らない方が良い、じゃあな」

 菫は疑問に答えず店から出て行った。葉月は彼女の言葉にどこか引っかかりながらも、話したことは大したことない世間話だと思うことにした。
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