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第二十一話 海へ行こう!!

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 昼頃、葉月が布団にごろごろ転がり休日をひましていると、扉を叩く音が聞こえた。扉を開けるとニコニコとした了がいた

「よう葉月、海に行かないか」

 了の提案に葉月は手で後頭部をかきながら、困惑した。

「? いきなりなんだ海だなんて」

「管理所の調査で海にいくんだよそれでお前も来ないか? 菫の奴も一緒だよ」

「仕事だろ?」

「仕事といっても海を少し調べて帰るだけさ」

「私以外を誘えばイイだろうに」

「いざとなったときに葉月は戦えるだろう。他の奴じゃそうはいかない」

「うーん海か」

 葉月は生まれてから海を見たことなく、聞いた話でしか知らなかった。生命の宝庫だとか水が全部しょっぱいだとか。海への興味は多少はあったがわざわざ見に行くほどでもないと思い今まで行かなかった。

(暇つぶしにはいいかもな)

「わかった行くよ」

「良かった。用意が出来たら管理所前に来てくれ」

「わかった」

 うなづいて自室に戻ろうとした葉月に、了が声をかける。

「あとそれとは関係ねーけど、葉月、ムクに謝ったか?」

「…………」

 その言葉に無言で答える葉月。ムクに対してのうしろつめたさから言い出せずにいた。無言の葉月に了は優しく話しかける。

「私も一緒に行こうか」

「余計な気遣いだ私一人で出来る」

「そうかならいいんだ。ムクと仲直り出来たらいいな」

 了はそう言い、葉月の元を去った。葉月は扉をしめ身支度を始めた。

―――<第八話 海に行こう!!>

 人里は昼頃もあって、通りに多くの者たちがいた。葉月が管理所前に着くと、いつもの様に白ジャケットに黒いスカートをはいた了と、ピンクのシャツにジーンズをはいた菫が居た。葉月が了に話しかける。

「またせたな。了」

「平気さ」

「仕事の誘いを受けるなんて暇な奴だな」

 菫は呆れながら葉月に言いそれに対し葉月は「暇だったんだよ。それに二人より三人の方が良いだろう」と答えた。それに菫は納得したのか、文句を言わず、肯定した。

「それもそうだな。じゃあ行くか」

「ところで菫バイクはどうしたんだ? 何処にある」

 葉月がバイクを持ってきてない事を疑問に思い菫に尋ねる。

「メンテナンス中で使えないのさ。全く間が悪い」
 
「そうか残念だ」

 葉月はそれを聞き、内心がっかりした。
 以前に菫の後ろに乗っただけだが葉月はバイクを気に入っていた。ゆえに菫も海に行くと聞き、またバイク乗れるかなと思い楽しみにしていた。 了も今回二人に合わせエルカードを使わず徒歩である。
 菫は葉月のがっかりを察しておちょくる。

「ザクロ感想暴走を聞かせてくれたら、また乗せてやるぜ」

「いいけど、またもってこいよ」

「いいのか……」

 葉月が否定すると思っていた菫は菫の肯定の言葉に面食らい、謎の敗北感を覚えた。葉月にとってザクロ感想暴走の羞恥よりバイクをとったのだ。それぐらいバイクが気に入っていた。

 三人は歩き出し、人の街を抜け外の草原に出た。外には二つに分かれる道があり、一つは暗闇のもりに通じ、もう一つは海に通じる。その二つの道の真ん中に小さな丘がありその上に和風の小さな木造建築の家が建っていた。その家を葉月が指さし二人に尋ねた。

「あれは誰の家だ」

「ありゃ私の家だよ」

 了が葉月の疑問に答えると、菫が便乗して茶々を入れる。

「小屋みたいだろ」

その言葉に、葉月は苦笑するしかできなかったが、了の家を見てあることに気がつく。

「ふーん。人の街の外で暮らしているのか」
 それは了が人の街の外で暮らしている事だった。人の街の外で暮らすことは珍しい上に、了の様な女の子が粗末な家に住んでることに、葉月は驚いた。葉月の呟きに了が答える。

「ああ、アサキシに言われてな」
「へえ」

 その言葉に疑問を感じた葉月だったが、不要な詮索は失礼にあたると思い口に出さなかった。その代わりか、了の家族について聞くことにした。

「一人暮らしなのか家族は?」

 人の街の離れで、その上ボロイ小屋の様な家で、了が一人住んでいるわけがない。そう考えて口にした。しかし了の返答は葉月の考えとは違った。

「家族は居ない。一人暮らしさ」

 そう言う了の顔はどこか寂しそうだった。了の反応をみて、葉月は失言した。言わなきゃ良かったと後悔して、了に申し訳ないと思った。
 そのやりとりを聞いていた菫は、「おい置いていくぞ!」 と言い不快な顔をして先を急ごうとした。菫が不快そうにしたことに、葉月が自分の失言のせいだと思い詫びを入れる。

「すまん。軽率だった」

「別に私は気にしてないよ」

 了は笑ってそう言う。葉月の言葉に菫も「私が不快になったのは、葉月のせいじゃねえ。アサキシのせいだ」と話して、二人より早い足取りで道を進んだ。

―――
 しばらく歩いていると林についた。林は暗闇の森と違い明るく鳥のさえずりが聞こえ、どこかやさしさがあった。そんな林の中を三人は歩く。しばらく歩くと菫が愚痴をこぼす。

「歩くだけで暇だなぁなんか面白いことないのー」

「ないなー特に」

「ないぜー」

 葉月と了は口をそろえて否定した。二人が否定すると菫はあることを提案する。

「恥ずかしい話をしようぜ」

「「なに言っているんだ」」

 提案を聞いた二人は耳を疑う。菫はにやにやとしながら話す。

「恥ずかしい話は聞いていてつまらなくはないだろう?」

「そうだが……」

「しかしなー」

 了と葉月は悩んでいると、菫が懇願する。

「私も話すからよー言いあおうぜ。一種の女子会みたいなもんさ」

「「うーん」」

「話した内容は今日だけの秘密にするからさ」

「それなら……」

「まあうん」

 二人は釈然としないまま了承した。二人が了承したことに菫は笑みをうかべ問いかける。

「じゃあさ! 誰から話す。……そうだなあじゃあ葉月!」

「私かよ!?」

 昼下がり林の中を歩きながら葉月は話始めた。

「そうだな私が家族と暮らしていた子供のころの話だ ある日の私はものすごく腹が減っていた何故だかは居間になってもわからん。でもそういう時はあるだろ?」

 その言葉に頷く菫と頷かない了。それに葉月は反応した。

「了は無いのか。まあお前は大食いで腹をいつも満たしてそうだもんな」

「うっさいよ。そのとおりだけどさ」

 恥ずかしそうにして、葉月に言う了。何時も多くご飯を食っていることは了も自覚していた。

「話に戻るか。私は何かないかと家の食在庫を見て、三つ四つの柿を見つけた。そしてそれを一気に頬張った」

「ザクロのときの様な事になったのか?」

 先ほどのしかしと言わんばかりに、了はにやけながら話す。それに葉月は頬を赤らめる。
 
「あの時の事は忘れるんだ了。で口に入れた瞬間の私は甘いものだと思っていた。しかしそうじゃなかった。クソ苦い味が私を襲った。私は思わずそれをゴバ―と吐き出し毒でも食ったのかと思い泣きわめいた。終わり」

 葉月は過去の恥を語ったせいか、頬だけでなく顔まで赤くなった。しかし話を聞いていた了は苦笑いで、菫は文句を言う。

「それだけかもっとこうなんかないのー」

「それだけだよ菫」

 その言葉で、菫は葉月の話を判定する。

「なんだそんなことか。まあまあだな、次了」

「いや恥ずかしいだろう!? 柿食って泣いたんだぞ!?」

 葉月は自らの恥の低さに、ショックして抗議するも、菫は「ザクロ感想暴走を吐き出した時のほうが恥ずかしいわ」とあしらって了に話を振った。了はいきなり話を振られてきょとんとした。そしてわざとらしく咳払いをして語り始めた。

「私か。私は人の街にある銭湯にいって風呂に入ろうとしたとき、周りの者に止められた」

「「?」」

「私が入ろうとしたのは、男湯だったんだよ」

「まじに言ってんのか女だろう」

 葉月は話の内容に赤面しながら問い詰め、菫は了の話に呆れていた。しかし了は嘘偽りなく答える。

「まじさその時はよくわからなかったんだ。でまた訪れた」

「「ええ……」」

 了の恥を聞き、二人はドン引きした。話の内容の他に恥をかいた銭湯にまた言ったのも含めてだ。二人に十分な衝撃を与えた了の話はまだ続く。

「今度は女の所に行き、風呂に入ろうとしたがまた止められた」

「……なんで」

 葉月が恐る恐る尋ねる。それに対して、腕を組みながら了は答えた。

「服を着たままだった。脱ぐとは知らんかった」

「お前には人としての常識がないのお!?」

 その言葉に葉月は声をあげて了の頭を心配した。葉月の声に了は驚きながらも自分を擁護する。

「そうおどろくな。女の私が男の所に言っただけさ。人の常識もよくわからんかった時だしな」

「そんな時あんの?」

 驚きで葉月は目が点になりながらも尋ねる。それに対して、「うん」とあっけらかんに答えた。それに葉月は何も言えなくなり、「そっか……」と呟くしかなかった。葉月は了の話に頭が真っ白になって菫に目をやり菫の話を目で催促した。菫は了の話を面白がっていて、顔をにやけさせて言葉を発した。

「私は特にねえ」

「何だと!?」

 菫の言葉に声を上げて反応する葉月。菫はにやにやしながら答える。

「無いもんは話せないねえ」

「いや私は菫の恥ずかしい過去知っているぜ」

 しかし了がそう発言すると「え、うそ」と言って、菫のにやけは止まり真顔になった。そして了は菫の恥ずかしい過去を話しはじめた。

「菫の奴はパワードスーツを持っているだろあれを使う時、ふりつけつけるかを考えている菫を見た。こうやって」

 そう言いながら腰をくねくねさせた。傍から見たら子供が変身ポーズを考えているようにしか見えない。それを菫がやっていると葉月はふふと声に出して笑った。当の話された菫は、「了テメー―――」と顔赤らめながら大声を上げて、了に飛びかかった。二人はしばらくの間、取っ組み合いそれを葉月はぼーっと眺めていた。
ーーーー

「「はあはあはあ」」

「もういいか?」

「「うん」」

 葉月はボロボロになった二人に持参した水筒を渡した。二人は交互にぐびぐびと飲む。
「のみすぎだぞ」

「後でエルカードで補充するから」

「帰りに私を背負う権利をやるから」

「了の提案はうけるが、菫のはいらん」

 そんな話をしながら、再び歩き出す三人。了と菫の取っ組み合いで時間は少しロスした。葉月はボロボロになった二人に問いかける。

「すぐに殴り合って、お前たちは本当に仲が良いのか?」
 その問いかけに、二人は肩を組みあって、

「あたりまえだよなあ」

「うんうん仲良し―」

 そう答えるが、足元では互いの足を踏みあっていた。そんな低レベルな争いを見て葉月は疑問を口にする。

「じゃあ仲いいと証明してくれよ。互いに思った数字を言うとか」

その葉月の言葉に菫と了はやる気になった。

「んじゃそれする。行くぞ了!」

「よっしゃあ来い菫」

 二人は大げさに見つめあい、そしてわかったと口をそろえて答えた。

「せーので行くぞ」

「おけー菫」

 二人は息をそろえ数字を答えた。

「0」

「5」

「…………」

「…………」

「…………」

 三人の間に微妙な空気が流れた。

「いやこれは仲が良すぎてだな」

「うんうん」

 菫は葉月に弁解し、それに追従する了。

「あほくさ。先急ぐぞ」

 葉月がため息をついて、先に行こうとすると菫が、

「友達いないから私たちの仲の良さに嫉妬してんだろー」

 そう挑発した。それに振り返らず葉月は答える。

「いるわ」

「何人?」

「……一人」

 葉月は言いづらそうに答えた。菫は笑いながら了に話を振る。

「おい一人だとよ。聞いたか了」

「菫。お前も私ぐらいしか友達いないだろ」

「うっせいそう言う了はどうなんだよ」

「えっと、ブルーにディナに小鉄に菫に葉月にムクに……」

「おい」

 了の言葉に葉月が待ったをかける。

「おいまて、私の名前があるぞ」

「私は葉月を友達と思ってる。月とか山とかで一緒に頑張ったんだし」

「…………」

 その言葉に無言になる葉月。今は一緒にいるが、了と対面したのは殺し合いだからだ。なのにそのことを気にせず、友達と呼んでくれる了は、葉月にとって不思議だった。しかし葉月自身了が友達と呼んでくれることに、嫌な感じはしなかった。むしろ友達が少ない為、嬉しく感じた。

「んじゃそうなると私も葉月と友達だよな。月で葉月と戦ったし」

 菫が話に横槍を入れ了がニコニコと頷く。それを見て葉月は考える。

(了は私と戦い傷を負った。月で私は菫の行動を妨害したのに。善悪関係なく)

 葉月は二人が自分の事を友達と呼ぶのは、あまり細かいことを気にしない性格だと考えた。そしてそれを二人に伝えた。

「お前たちは細かい事をきにしないんだな」

 その言葉に二人は苦笑しながら答える。

「そうかも、過去にいろいろあったし」

「私は生まれつきかな」

「そうか。羨ましいよ。了と菫は気軽な人生で」

「「そうでもない」」

「そこはあうのか」

 息のそろった二人の答えに葉月はくすっと笑った。

 ―――

 一向は林を抜け、海にたどり着いた着いた時には太陽は水平線に沈みかけの夕方だった。辺りには潮風が吹き、三人の髪をなびかせた。
 三人は砂浜をあるき波打ち際まで近づく。三人が歩くたびに砂浜がザクザクと音が鳴る

「これが海かー」

 そう言いながら葉月は海水を手ですくいなめる。口内に塩味が広がり顔しかめる。
「しょっぱい」

「そりゃそうだろ海なんだからさ」

 了は微笑みながら言うそんな了に対し、葉月は子供の様に尋ねる。

「どうして、しょっぱいんだ?」

「塩があるからさ」

「何で塩が?」

「知らん。菫は知っているか」

「あ~」

 菫は問いかけに顔を背け、知らんと答えた。それに葉月はニヤリと笑う。

「そうかわからないのか」

「うっせいよ葉月。つーか海に来たことないのか?」

「知ってはいたが、来た事無かった。山の中生まれだし」

 葉月は答えながら海に少し歩を進める。波が葉月の袴を濡らし肌に纏わりつく。

「冷たっ」

 そう言いながらも初めて体験する海に笑みをこぼす。それを見た了は誘ってよかったと思った。その時。
「オラッ!!」

「はあ!?」

「ぬお!?」

 菫が二人に向かって、水をかけた。二人はポカンとしそんな様子を見て菫は手に口を当てて笑っていた。その笑みに了も手で海水をすくい菫にかけた。。菫も突然水をかけられぽかんとし、了も笑う。それに対し再び菫は水かけを了に行う。が了はこれをするりと避け、水は葉月にかかる。

「了ー」

 葉月も水をすくい了に笑顔でかける。了はこれを避けれずまともに喰らう。

「グエーーー」

「アハハハ」

 菫はそれを笑いまた了が水をかけあう。葉月も水をかける。三人はしばしの間水をかけあって遊び笑いあった。

ーーーー
 管理所の所長室にて、椅子に座ったアサキシが頬杖をつきながら、了と葉月を見て話す。

「その水遊びに夢中になり調査を忘れたと」

「「はい……」」

 ずぶぬれになった姿で了と葉月が申し訳なさそうした。

「ちなみに、菫は会いたくないと勝手に帰りました」

「ええ……」

 葉月はそう説明し、アサキシは呆れた。
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